第18話 そして、「外の世界」へ
第2章、最終話です。
「ちょっとユニークな、一般人です!」
そう言った春風の言葉に、爽子やクラスメイト達をはじめとした周囲の人達は、
『な、何を言ってるんだお前はぁあああああっ!?』
と、皆絶叫したが、
「……そうか、『勇者』ではないんだな」
と、ウィルフレッドだけは落ち着いた表情を浮かべていた。
そんなウィルフレッドに、
「さて国王様。もう一度言いますが、俺はあなた方が求めている『勇者』ではありませんので、ここを出て行く許可をください」
と、春風が丁寧な口調でそう頼むと、
「先程の戦いぶりを見てわかった。其方は元の世界で、かなりの修羅場を潜ってきたようだな」
と、ウィルフレッドは真剣な表情でそう言ってきたので、
「まぁ、それなりに……」
と、春風は恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。
だが、
「しかし、この国の外には、其方が想像も出来ないような『危険』が潜んでいる。そして私も説明したように、今、外には蘇った邪神が生み出した『眷属』もいる。幾ら其方や、其方が持っているその武器が強くても、生き残れる保証はないのだぞ? それでも、其方はここを出て行くと言うのか?」
と、ウィルフレッドは更に真剣な眼差しを向けながらそう尋ねてきたので、その瞳を見た瞬間、
(あぁ、この人は本気で俺の事を心配してくれてるんだ)
と、春風はそう感じて、
(それなら、俺もちゃんと答えなければ……)
「そうですね……」
と、真っ直ぐウィルフレッドを見て答えようとした。
するとその時、
「ご心配には及びません!」
という声がしたので、春風とウィルフレッドは思わず「ん?」と声がした方へと振り向くと、そこには真っ直ぐ右腕を真上に伸ばしたレナがいた。
その姿を見て、
「む、其方は?」
と、ウィルフレッドが尋ねると、
「はい! 改めて、私、『ハンター』をしております、レナ・ヒューズと申します! 突然で申し訳ありませんが、彼の身柄を私に預からせてください!」
と、レナはちらりと春風を見ながらそう答えたので、それまで黙っていた爽子とクラスメイト達は、
『ええぇっ!?』
と、皆、一斉に驚きの声をあげた。
まさかの提案にウィルフレッドは大きく目を見開いたが、
「……理由を聞いてもいいだろうか?」
と、すぐに真剣な表情で尋ねてきたので、
「はい! それは、私なら彼が『最も望んでいるもの』を用意出来るからです!」
と、レナはまたチラリと春風を見ながら、ウィルフレッドに負けないくらいの真剣な表情でそう答えた。
その答えにウィルフレッドが「ほう」と小さく呟くと、レナは春風の方を向いて、
「春風……でいいんだよね?」
と、尋ねてきたので、
「はい、先程も言いましたが、雪村春風と申します」
と、春風は改めてレナに向かって名乗った。
そんな春風に、レナは頭を下げて、
「ごめんなさい。実はさっきまでの国王陛下の話から、あなたの質問や意志まで、全部聞かせてもらいました」
と、謝罪しながら言った。
その言葉に誰もが「えぇ!?」と驚いている中、レナはゆっくりと頭を上げて話を続ける。
「だから私には、あなたが何を望んでいるのかがわかるの。さっきも言ったけど、私なら、あなたが望んでいるものを用意する事が出来るわ。だから……」
そう言うと、レナはゆっくりと春風に向かって右手を差し出して、
「私を信じて、一緒に来て!」
と、真っ直ぐ春風を見つめてそう言った。
レナのその言葉を聞いて、爽子とクラスメイト達は「な、何を言ってるんだこの人は!?」と言わんばかりの、「驚き」と「疑い」に満ちた表情になった。
当然だろう、ただでさえ「勇者召喚」などという訳がわからない事態に巻き込まれて、
「この世界を救ってほしい」
なんて言われて、戸惑いながらもやる気に満ち溢れたと思ったら、春風がまさかの拒否、更にはいきなり現れた見知らぬ少女と一緒になって騎士や神官達を相手に大暴れからの、
「私と一緒に来て!」
なんて言うその少女、レナの言葉に、爽子もクラスメイト達も、「ほんと訳がわからない!」と頭の中がぐちゃぐちゃになってしまったのだから。
しかし、春風だけはそうではなかった。
目の前にいる真っ直ぐ自分を見るレナの姿に、
(この人からは、アマテラス様達と同じものを感じる)
と、春風は彼女の雰囲気に、アマテラスら「地球の神々」によく似たものを感じた。そして、
(よくわからないけど……この人なら、信じられる!)
そう思った春風は、持っていた「お守り」を上着の内ポケットにしまうと、差し出されたレナの手をガシッと掴んで、
「俺をここから連れ出してください、今すぐ!」
と、真っ直ぐレナを見つめながら言った。
それが嬉しかったのか、パァッと表情を明るくしたレナを見た後、春風はウィルフレッドの方へと向いて、
「すみません、そういう訳で、俺、やっぱりここを出て行きます」
と言うと、ウィルフレッドは観念したのか、
「……わかった」
と言うと、レナの方を見て、
「彼を、よろしく頼む。だが……」
「?」
「彼にもしもの事が起きたら、私は国王として、其方を許さぬぞ」
と、強い意志を宿した目で睨みながら言ったので、レナは一瞬怯んだが、
「わかりました」
と、「負けるか!」と言わんばかりにウィルフレッドを見てそう返事した。
その後、
「それじゃ、行こっか……」
と、レナが春風の手を引こうとしたが、
「あ、ちょっと待ってください!」
と、春風が「待った」をかけたので、「ん?」とレナが首を傾げると、
「先生、みんな」
と、春風が爽子とクラスメイト達を見て口を開いた。
「みんなには本当に申し訳ないんだけど、俺はここを出てみんなとは別行動をとります。でも俺は、絶対に生きてみんなと元の世界に帰りますので……」
そう言うと、春風は爽子とクラスメイト達全員を見回して、
「ちょっと、行ってきます!」
と、申し訳なさが入り混じった笑みを浮かべてそう言った後、
「お待たせしました」
と、レナに向き直った。
その言葉にレナは小さく頷くと、
「それじゃあ行こう、春風!」
と今度こそ春風の手を引っ張って、そのまま部屋の出入り口へと走り出した。
その時、
「春風!」
「春風君!」
「フーちゃん!」
という声が聞こえたので、春風は走りながら声がした方へと振り向くと、そこには「行かないで!」と言わんばかりの表情をした、水音、美羽、そして、海神の姿があったが、
「ごめん」
と、春風は本当に申し訳なさそうに小さくそう謝罪すると、レナと共に部屋を出ていった。
そして、2人は今いる場所から外へと飛び出した。その際、
(あ、本当にお城の中だったんだ)
と、先程まで自分達が場所がどういう所だったのかを理解すると、2人は止まる事なく走った。
そして次に出たのは、大きな都市の中だった。
整った道に見たこともない真っ白な建物を見て、春風は「本当に異世界に来たんだ」と改めて思い知らされた。
それからしばらく走っていると、やがて大きな門の近くに来た。
「あそこから外に出られるよ!」
と、レナがそう言うと、2人は走るスピードを上げた。
そんな2人を見て、
「お、オイ何をしてる!? 止まれ!」
と、門番らしき鎧を纏った男性に怒鳴られたが、
「ごめん、無理!」
と、レナは止まらないどころか、勢いよくジャンプして男性を飛び越えた。
男性はそれにびっくりしていると、
「すみません!」
と、春風はその男性の横を走って通り過ぎた。
そして、
「ま、待てぇ!」
と、男性が止める間もなく、
「「出れたぁ!」」
と、2人は「外」へと飛び出した。
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ここまでの春風のステータス
雪村春風(人間・17歳・男) レベル:1
職能:見習い賢者
所持スキル:[英知][鑑定][風魔術][炎魔術][水魔術][土魔術][錬金術][暗殺術][調理][隠密活動]
称号:「異世界(地球)人」「固有職保持者」「神(地球)と契約を結びし者」
どうも、ハヤテです。
という訳で、以上で第2章は終了し、次回からは第3章へと入ります。
お楽しみに。