第156話 彼岸花、抜刀・2
春風が彼岸花を抜き放ち、そこから溢れ出てきた赤いエネルギーに包まれた後、
「っ! こ、ここは……!?」
気がつくと、春風は見知らぬ空間にいた。
そこは、上下左右がまるで血のように真っ赤な空間で、
(うぷ! き、気持ちわる……)
春風は吐き気がするくらい気分が悪くなりそうになったが、
「ふふ……」
(……あ)
目の前に1人の人物が現れたので、どうにか我慢する事が出来た。
その人物は、長い黒髪に真っ赤な着物を着た、見た目的には10歳くらいの可愛らしい少女で、少女は春風に向かって、
「久しぶり、春風君」
と、笑ってはいるが何処か気まずそうな表情でそう言ってきたので、
「うん。久しぶりだね、彼岸花」
と、春風も少女に向かって彼女の名を呼びながらそう挨拶を返した。
先程春風が抜き放った刀と同じ名前で呼ばれた少女は、「あー……」と困ったような表情になると、
「まぁ、私の『器』の方は、ずっと春風君と一緒の時を過ごしてたから、『久しぶり』っていうのは変な言い方なんだけどね」
と、最後に「あはは……」と更に気まずそうに笑いながら言ったが、春風はというと、
「彼岸花……」
と、真面目な表情になって、
「2年前のあの日、1度君を抜いておいて最後は手放した俺が、こんな事を言う資格がないのはわかってるんだ。けど……」
と、そこまで言いかけたが、それを遮るかのように「彼岸花」と呼ばれた少女はスッと右手を翳して「待った」をかけてきたので、春風は思わず「え?」と頭上に「?」を浮かべていると、
「わかってる。『みんなを助けたい』、でしょ?」
と、少女……否、もう「彼岸花」と呼ぶ事にしよう。とにかく、彼岸花は「大丈夫よ」と言わんばかりの穏やかな笑みを浮かべながらそう尋ねてきたので、春風は力強くコクリと頷きながら、
「うん、助けたい。だから……本当に申し訳ないとは思ってるけど、俺に力を貸してほしいんだ」
と言うと、最後に「お願いします」と言いながら、深々と頭を下げた。
その言葉を聞いて、彼岸花は、
「良いよ。2年前に私を引き抜いた……いや、それよりももっと前に、私の声に応えてくれたあの時から、私はもう、春風のものなんだから」
と、穏やかな笑みを浮かべながら言うと、スッと自身の右手を春風に差し出した。
そして、それを見た春風は、
「ありがとう」
と、一言そう言うと、差し出されたその手を握った。
次の瞬間、2人の体は空間と同じような真っ赤な光に包まれた。
そして現在、元の場所にて、
「……春風……なの?」
と、レナを含めた周囲の人達に見守られる中、春風は両手でグッと彼岸花の柄を握り締めて、
「さぁ行こう、彼岸花。俺達で、みんなを助ける!」
と言うと、手に持っている彼岸花に自身の魔力を流した。
元々真っ赤なその彼岸花の刀身は、春風の魔力によって更に真っ赤に輝き出した。
その状況に誰もがゴクリと唾を飲んでいる中、
「はぁあああああ……!」
と、春風はそう力むと、ループス達を包んでいるドームまで素早く近づいて、その真っ赤な刀身を振るった。
そして、その真っ赤な刀身が光のドームに当たった次の瞬間、バリィンという音と共に、光のドームに日々が入った。
それと同時に、
「うぎゃあああああっ!」
「いやあああああああ!」
と、カリドゥスとアムニスの苦しそうに悲鳴が響き渡ったので、
「く……。何だ? 何が起きたと言うんだ!?」
とラディウスも苦しそうな表情になりながら、チラッと春風を見た。
しかし、そんなラディウスを無視して、
「でりゃあああああっ!」
と、春風は何度も光のドームを斬りつけた。それと同時に、光のドームに幾つもの斬撃痕が刻まれた。
その後、春風は少し後ろに下がると、再び彼岸花に自身の魔力を込めた。
そして、
「これで、終わりだぁあああああああ!」
と、春風は光のドームに向かって駆け出しながらそう叫ぶと、本当にトドメと言わんばかりに魔力を込めた彼岸花を振るった。
そして、振り下ろされたその刀身が、先程春風が刻みつけた斬撃痕にあたると、光のドームはバリィインという音と共に砕け散り、
「「「うぐあああああああっ!」」」
「「ああああああああああっ!」」
その場に、ラディウス達の悲鳴が響き渡った。