第155話 彼岸花、抜刀
高校入学の時に、凛咲に「お守り」としてプレゼントされた「鉄扇・彼岸花」。
かつて春風が1度だけ鞘から引き抜いた、とある刀と同じ名前を持つその鉄扇が、今、凛咲の手によってそのとある刀へと姿を変え、春風の手に握られている。
その刀を見て、
(ああ、この感じ、本当に久しぶりだな)
と、春風は懐かしさを感じた後、
「師匠、これって……」
と、春風が凛咲を見ると、凛咲は真剣な表情で、
「今の春風なら、きっとそれを理解し、使いこなせると思う。だからお願い、水音を……みんなを助けて」
と、春風の手に握られている彼岸花を見ながらそう言ってきたので、
「……はい!」
と、春風はコクリと力強く頷いた。
ところがその時、
「駄目!」
と、レナが春風の腕を掴みながらそう言ったので、春風は「うわ! 何!?」と驚いてレナに視線し、
「レ、レナ、どうしたの?」
と、恐る恐るレナに向かってそう尋ねると、
「駄目だよ春風! この剣は抜いちゃ駄目!」
レナはまるで怯えているかのように顔を真っ青にし、体をブルブルと震わせながら言った。
更にそんなレナに続くように、
「そ、そうだよ……春風。そいつは……危険だ」
と、動けない状態の水音も、春風に向かってそう言ってきた。
春風はそんな2人を見て、
「レナ。水音。心配してくれてありがとう」
と、穏やかな笑みを浮かべながらお礼を言うと、レナと水音はホッとしたが、
「師匠、レナをお願いします」
と、春風は凛咲に向かってそうお願いし、
「……わかったわ」
と、凛咲はコクリと頷いた。
「え!? は、春風、何で!?」
春風の言葉に驚いたレナは、
「ま、待って、春風……!」
と、すぐに春風に「待った」をかけようとしたが、それを遮るかのように、
「駄目よ」
と、凛咲がレナの肩を掴んできたので、
「離して!」
と、レナはすぐにそう叫びながら凛咲の方へと振り向くと、
「……え?」
凛咲は今にも泣き出しそうなくらいの、「悲しみ」と「悔しさ」が混じったような表情をしていたので、レナは大きく目を見開いた。
そんなレナと凛咲を他所に、春風は右手に持ってた彼岸花を左手に持ち替えて、今にも鞘から抜き放とうと構え出したので、
「や、やめろ……春風!」
と、水音は必死になってそれを止めようとしたが、
「ごめん、水音。後で幾らでも叱って良いし、なんならぶん殴ってくれたって構わない。でも……」
と、春風は首を横に振りながら、
「それでも俺は、水音やユメちゃん達を、先生を、ループス様とヘリアテス様……レナの大切な家族を……みんなを助ける為に、こいつを振るう!」
震えた声で彼岸花の柄をグッと握り締めて、
「だから、俺に力を貸せ! 彼岸花ぁ!」
「やめろおおおおおおおっ!」
水音の静止を振り切って、その刀を鞘から抜いた。
次の瞬間、抜き放たれた刀身から、禍々しい赤いエネルギーが溢れ出て、春風の体を包み始めた。
その赤いエネルギーに包まれて、
「う……うあああああああっ!」
と、春風はまるでダメージを受けたかのように苦しみ出した。
やがて、春風の全身が赤いエネルギーに包まれて見えなくなってしまうと、
「は、春風! 春風ぁあああああ!」
と、それを見たレナは悲痛な叫びをあげて春風の傍へと駆け寄ろうとしたが、凛咲に肩を掴まれている所為で、
「離して! お願いだから、離してよぉ!」
その場から動く事が出来ないでいた。
一方、彼女達以外の人達はというと、
「うぅ! こ、この光は何だ!?」
「は、春風様ぁ!」
「オイオイ、どうなってやがんだよこれぇ!?」
「は、春風ちゃん! 大丈夫ぅ!?」
と、目の前で起きてる事にウィルフレッド、イヴリーヌ、ヴィンセント、キャロラインは思わず腕で顔を覆い、
「は、春風君!」
「に、兄さん!」
「アニキ! アニキィイイイイイ!」
「ハル兄ちゃん!」
と、アメリア達も赤いエネルギーに包まれた春風を見てそう叫んだ。
そして、
(な、何だ? この尋常ではない邪悪な気配は!?)
「お、オイ! 何だってんだよぉ!?」
と、ラディウスもまた春風の身に起きている事に戦慄している中、ボンッと大きな音を立てて、春風を包んでいた赤いエネルギーが弾けたかのように消えた。
「は、春風!」
驚いたレナが目の前に視線を向けると、
「……春風……なの?」
そこにいたのは、禍々しいオーラを纏った真っ赤な刀身を持つ日本刀を握り、その刀身のように真っ赤に染まった長い髪と、ボォッと真っ赤な炎に包まれた右目を持つ春風の姿があった。
「さぁ行こう、彼岸花。俺達で、みんなを助ける!」