第152話 絶体絶命?
「お、お父さん……お母さん……嫌だ、嫌だよぉ!」
目の前で苦しむループスとヘリアテスを見て、そう悲鳴をあげたレナ。
今すぐ助けに行きたいのに、体を動かす事が出来ず、彼女は目に涙を浮かべていた。
そして一方、爽子ら勇者達もまた、
「うあああ……!」
「ううう……」
「く、苦しい」
と、ループス、ヘリアテスと同じように苦しんでいたので、
(く、まずいぞ。このままじゃみんなが危ない!)
と、春風はそう感じると、
「……ちょっと、やってみますか」
と小さな声でそう言って、動けない状態のまま、ゆっくりと深呼吸し、
「ガアアアアアッツ!」
と、腹の底から思いっきり叫んだ。
その叫びを聞いて、周囲の人達が「何事!?」と言わんばかりにギョッとなって春風に視線を向けた次の瞬間、
「……あ、動けた」
何と、それまで動けなかった春風は、まるで何事もなかったかのようにアッサリと動く事が出来た。
そんな春風を見て、
「何!? 動けただと!?」
と、敵の親玉の1人である「炎の神カリドゥス」……以下、カリドゥスは驚きに満ちた表情になった。そしてそれは、他の親玉達も同様だった。
そんな親玉達を前に、春風はすぐに目の前で苦しむループス達の傍へと駆け出した。
「ループス様! ヘリアテス様! 今、お助けします!」
と、春風が苦しんでいるループス達に向かってそう叫ぶと、愛用の杖を手に取り、
「はあああ……」
と、それに魔力を込めた。その後、
「えい!」
と、その魔力を込めた杖で思いっきりループス達を包む光のドームをぶっ叩いたが、
「はぁ、はぁ。全然、びくともしない」
幾らぶっ叩いても、光のドームにダメージを与える事が出来なかった。
肩で息をする春風に、
「無駄だ。幾ら固有職保持者の貴様でも、我々と勇者達を止める事は出来ない」
と、ラディウスは見下すように言い放った。
ラディウスに続くように、
「ハッ! そこで大人しく見てやがれ! こっちが終わったら次はテメェの番だぜ!」
と、カリドゥスも醜く顔を歪ませながら、春風に向かってそう言った。
その言葉にカチンときたのか、
「だったら……!」
と、春風はそう呟くと、ループス達と同じように苦しんでいる水音の方へと駆け出した。
その後、春風は水音の後ろに立つと、
「水音、苦しんでるところ悪いけど、ちょっとごめん!」
と言って、水音の腰に自身の腕を回し、抱きつくようにしがみつくと、
「ふんぬぅううううう……!」
と、春風はそう力んで、水音をその場から引き剥がそうとした。
それを見て、「あ、テメェ!」とカリドゥスがギョッとする中、
「だ、駄目だ……逃げてくれ春風!」
と、水音は動けない状態のまま春風にそう言ったが、春風がその腕を離す事はなく、
「水音! 本当に申し訳ないけど……俺に『力』を貸してくれ!」
と、そう言ってきたので、その瞬間、水音は春風の意図を理解して、
「……わかった、やってみる」
と、静かにそう言うと、ゆっくりと目を閉じて、
「僕の中の『鬼』よ、本の少しで良いから……僕に力を!」
と叫んだ。
その瞬間、水音の全身に白い鎖状のエネルギーが巻きついて、
「うああああああっ!」
と、水音を更に苦しめたが、
「お、鬼……もう1人の僕! 根性、見せてくれぇ!」
と、水音は力いっぱいそう叫んだ。
すると、水音の体から、青い炎のようなエネルギーが出てきた。
それを見て、ラディウス達が「何!?」と驚いていると、
「うおおお! う、動いたぁ!」
なんと、それまで動けずにいた水音の右足が、僅かだが動き出した。
春風はそれを見て、
「よーし、これなら……!」
と、春風はニヤリと笑うと、もう一度水音を動かそうとした。
すると、少しずつではあるが、水音の体をその場から動かす事が出来たので、春風はより一層引き剥がす力を強くしたが、
「「「「「させるかぁ!」」」」」
と、ラディウス達がそう叫ぶと、バチッという音と共に、
「うわあああああ!」
春風の方が水音から剥がされてしまった。
それを見て、
「春風ぁあああああっ!」
と、レナは再びそう悲鳴をあげると、
「ガアアアアアアアッ!」
レナはまるで獣のようにそう叫び、その場から動き出した。その後、
「[獣化]!」
と、レナはまたそう叫んで、白い狐の獣人の姿へと変身し、その勢いでラディウス達に飛びかかった。
「死ねぇえええええっ!」
と、レナはそのままラディウスに攻撃を仕掛けたが、
「無駄だ」
「っ!?」
なんと、レナの攻撃がラディウスの体を通り抜けてしまったのだ。
そのままレナは地上に着地すると、ラディウス達を睨みつけながら、
「なら、これでどうだぁ!」
と、今度は自身の両手から真っ赤な炎を出した。
その後、レナはその炎を槍の形に変えると、
「くらえ、『爆炎轟槍』!」
と、そう叫んで、その炎の槍を何度もラディウス達に向かって投げたが、
「無駄だと言った筈だ」
と、ラディウスがそう言うように、炎の槍はラディウス達の体を通り抜けるだけに終わった。
それを見て、
「ううううう……!」
と、レナは悔しそうに呻いたので、ラディウスは「フン」と鼻を鳴らした。
そんなラディウスを、
「ちくしょう、どうすれば……」
と、春風もレナと同じように悔しそうな表情で見ていると、突然、春風の左腕に装着した銀の籠手、その内部に装着した魔導スマホからジリリリという音がしたので、すぐに魔導スマホを起動すると、
「春風君、私達を呼んで」
という声が聞こえた。