第148話 春風vsループス・3
本日2本目の投稿です。
「さぁ、第2ラウンドといこうじゃないか」
と、春風に向かってそう言い放ったループス。
4体の分身達と合体(?)したその姿を見て、
(うわぁ、マジか。変身とか合体なんかするボスキャラなんて、ゲームの中だけにしてほしいなぁ)
と、春風は心の中でそう呟きながら、タラリと冷や汗を流した。
一方、春風とループスの戦いを見守っていたレナ達はというと、
「あ、あぁ、そんな……!」
と、姿が変わったループスを見て、イヴリーヌは顔を真っ青にし、
「おお、あの姿は! やはり、奴こそが悪しき邪神ではないか!」
と、ジェフリーが顔を「ぐぬぬ……」と歪ませ、
(お、お父さん! そこまでするなんて!)
と、レナは今にもその場から駆け出しそうな表情になり、そんなレナを、
「れ、レナ、落ち着いて! 大丈夫だから……!」
と、ヘリアテスは必死になって宥めていた。
さて、そんなレナ達を他所に、
「どうした!? 来ないならこちらから行くぞ!」
と、ループスはそう言って春風に向かって突撃した。
(は、速い!)
4体の分身達の能力が加わっているのか、先程よりも素早い動きで春風のすぐに近くまで来ていた。
そして、右手の鋭い爪を春風に向かって振り下ろそうとしたので、春風は思わず後ろに飛び退こうとしたが、振り下ろされたその右手から風の刃が放たれたので、春風は咄嗟に左腕に魔力を纏わせて、それでその風の刃を防御した。
ザザザと地面に着地した春風が、ふと自身の左腕をチラリと見ると、
(うげ! こりゃヤベェなオイ!)
左腕に装着していた銀の籠手に、大きな斬撃痕が出来ていたので、春風は再びタラリと冷や汗を流した。
しかし、そんな春風を前に、
「そーら、もう一丁行くぞぉ!」
と、ループスは春風に向かって再び風の刃を放ってきたので、春風はこれ以上防御は出来ないと考えて、
「『アクセラレート』!」
と、自身に風の強化魔術をかけ、それで強化した脚力を駆使してその風の刃を避けたが、ループスはそれに構わず、
「ほらほらぁ! もっと行くぞぉ、もっとぉ!」
と、何度も風の刃を放ってきたので、春風は流石にブチッとなったのか、
「……調子に、乗らないでください!」
と言うと、今度は春風の方からループスに向かって突撃した。
その間、風の刃は春風に襲いかかるが、何と春風はそれらを避けたりはせず、寧ろ突撃するスピードを強くした。
当然、春風はループスが放った風の刃をもろに受けたが、春風のスピードが勝っていたのか、少し肌やローブを切り裂くだけで、大したダメージにはならなかった。
その様子を見て、
「ゲゲ! なんて奴だ!」
と、ループスはそう言って、すぐに背中の翼を羽ばたかせて空へと逃げようとしたが、
「逃すかあああああ!」
と、春風はそう叫ぶと、ループスの尻尾にガシッとしがみつき、
「『ヒートアップ』! 『ヒートアップ』! 『ヒートアップゥ』!」
と、自身に炎の強化魔術を3回もかけた。
そして、
「おおおんんんどりゃあああああああっ!」
その勢いで、春風はしがみついていた尻尾のぶん回して、ループスを地面に叩きつけた。
「ゴホアアア!」
ドゴンと大きな音を立てて地面に激突したループス。そのループスを見て、球体に閉じ込められた勇者達と、戦いを見守ってた者達は、皆、「オオオ!」と驚きの声をあげた。
その後、
「もう一回ぃ!」
と、春風は再びループスをぶん回そうとしたが、
「さぁせぇるぅかあああああああっ!」
それよりも早く、ループスは尻尾を思いっきり振り回した。
「う、うわぁ!」
その所為で春風は尻尾から離れてしまい、地面に数回程体をバウンドさせた。
「くぅ。ち、ちくしょう……」
痛みに耐えながら、どうにかして立ち上がった春風。
そんな春風を前に、ループスも地面に立つと、
「中々やるようだな。だが、コイツで最後だ」
と言って、全身に力を込めた。
それを見て、
(あの様子だと、でかいのをぶっ放す気だな)
と、春風は冷静にそう分析すると、腰のポーチに手を突っ込んで、そこからオレンジ色の液体が入った小さな瓶を幾つか取り出した。
そして、その全ての瓶の蓋を外すと、一気にその中身を飲み干した。
その後、春風は飲み終えたその瓶を再びポーチに突っ込むと、ゆっくりと深呼吸して、
「それなら、こっちもとっておきを見せてやる」
と、ループスに向かって小さな声でそう言った。
そして、ゆっくりと目を閉じて、
「風よ。炎よ。そして水よ。俺の声を聞き、俺のもとに集まれ」
と、静かな口調でそう呟いた。
その瞬間、その場の雰囲気がガラリと変わったのを感じたのか、ループスをはじめとしたその場にいる者達は、
『な、何だ?』
と、戸惑いの表情見せたが、それに構わず春風は続ける。
「吹き抜ける風よ、天を舞う『翼』となれ。燃え盛る炎よ、敵を蝕む『痛み』となれ。湧き上がる水よ、友を救う『癒し』となれ!」
その言葉を聞いて、
「お、お前、それは……!」
と、ループスが驚きに満ちた表情になったが、言い終わるよりも早く、
「化身顕現! 羽ばたけ、フェニックスゥ!」
と、春風はそう叫んだ。
次の瞬間、春風の体は緑、赤、青の光に包まれた。
そして、まるで弾けたかのようにその3つの光が消えると、そこには春風ではなく、1羽の大きな美しい真紅の鳥がいた。