第17話 出会いと、名乗り
「突然ですが、私、レナと申します! 助太刀させてください!」
突如、春風達の前に現れてそう叫んだ少女。
彼女の登場に誰もがポカンとしている中、
「ありがとうございます! すんごい助かります! ああそれと、俺、異世界人の春風と申します!」
と、春風は「レナ」と名乗った少女に向かってお礼と自己紹介的なものをした。
その言葉に騎士と神官達はハッとなって、目の前の春風とレナを睨みながら戦闘態勢に入った。
睨み合う両者を見て、周囲の人達がゴクリと生唾を飲む中、
「で、どうするの? あなたが良ければ、アイツら全員やっちゃうけど」
と、レナは春風にそう尋ねた。
その時春風は、レナが言った「やっちゃう」とは、「全員この場で殺す」という意味だと理解して、
「いえ、出来れば気絶させるだけにしてほしいです」
と、「殺さないでください」という願いを込めてそう答えた。
それを聞いてレナは、
「あ、『殺してほしい』とは言わないんだ」
と、意外なものを見るような目でチラリと春風を見たが、
「うん、わかった。それじゃあ騎士の方は私がどうにかするから、あなたは神官の方をお願いね」
と、了承しながら神官の方を倒してほしいとお願いし、
「はい、わかりました」
と、春風はコクリと頷きながら、そのお願いを聞き入れた。
そして、
「じゃあ、行くよ!」
と、レナがそう言った瞬間、春風とレナは同時に動き出し、目の前の騎士と神官達に突撃した。
騎士と神官達はすぐに2人を迎え撃とうとしたが、それよりも早く、
「遅い!」
と、レナは持っている細身の剣を逆手に持ち替えて、
「ふっ!」
ーーガンッ!
「ぐあっ!」
騎士達に柄による打撃をくらわせた。
それを見て、
「お、おのれ!」
と、神官達がレナに向かって攻撃を行おうとしたが、
「させるかよっ!」
ーーブンッ! ゴッ!
『ぐわぁ!』
そこへ春風の「お守り」とパンチ、キックによる攻撃を受けて、複数いた神官達は、1人、また1人と春風に倒された。
当然、
(よし、まだ生きてる)
攻撃を受けて、相手が死んでないかをチェックするのも忘れなかった。
2人の戦いぶりを見て、爽子とクラスメイト達は、
『す、凄い!』
と、あまりの凄さにその場から動けずにいて、ウィルフレッドらの方はというと、
「おお、これは……」
と、咲和子達と同じように感心し、王妃マーガレット、王女クラリッサとその妹イヴリーヌも、
『……』
と、皆、何も言えずにいたが、
「こ、こんな……こんな事があっていいのか!?」
と、ジェフリーは「怒り」と「悔しさ」が入り混じったかのような表情で、体をブルブルと震わせていた。
さて、それを知らない春風はというと、
(よし、この人も大丈夫だ)
と、倒した神官の生死を確認していた。
(先生やみんなの前で、人死になんて見せられないからね。俺自身も嫌だし)
と、倒れ伏した神官達を見てそんな事を考えていると、
(ん? げぇ!)
1人の騎士がレナを背後から攻撃しようとしてるのが見えた。
(まずい、今から普通に走ったら間に合わない!)
そう考えた春風は、「今こそ!」と言わんばかりにズボンのポケットに手を入れて、その中にある春風が初めて作った魔導具、「魔導スマートフォン」に触れた。
そして、
「……アクセラレート」
と、誰にも聞こえないように小さな声で、スキル[風魔術]の1つ、「アクセラレート」を唱えた。
次の瞬間、自身の両足に「風」が集まってきたの感じた春風は、
「……行くぞ」
と、小さく呟くと、レナを攻撃しようとしている騎士に向かってダッシュし、
「なぁにしてんだテメェエエエエエッ!」
と、その騎士の尻に強烈な飛び蹴りをくらわせた。
「グゲェエエエエエッ!」
春風からの一撃をもろに受けた騎士は、その勢いで壁に激突すると、ずるずると床に倒れ伏した。
それに驚いたレナは、
「ありがとう! でも、今の何!?」
と、春風にお礼を言いながら尋ねると、
「……ふふふ」
と、春風は不敵な笑みを浮かべて、
「『気合い』と『根性』が生んだ、『奇跡』です!」
と答えたが、
「うん、絶対嘘だね!」
と、否定されてしまい、
(あれぇ!? ひ、否定されちゃった!)
と、春風はショックを受けながらも、「さぁ、なんの事かなぁ」とそっぽを向いて口笛を吹いた。
その後、春風はレナに、
「あ、こら! 誤魔化すな!」
と、怒られながらも、周囲を見回して、もう敵がいないかを確認する事にした。
ざっと見た結果、この場にいる騎士と神官達はこれで全員かと理解すると、
「き、貴様らぁあああああっ! よくもよくもぉおおおおおっ!」
と、喚き散らす声がしたので、春風とレナは「ん?」とその声がした方向へと振り向くと、そこには怒りのあまり肩で息をするジェフリーの姿があった。
そして、
「おい、そこのはみ出し者! こんな事をして、タダで済むと思っているのか!? こんな事をして、偉大なる『神々』が黙っていないぞ!」
と、ジェフリーは顔を真っ赤にして、春風に向かってそう怒鳴り散らした。
その時、春風はジェフリーが言ってる「神々」が、彼らが崇める5柱の神々の事かと理解すると、不敵な笑みを浮かべて、
「生憎だけど、俺が信じてる『神様』は、俺と勇者達の故郷である『地球』の神々だけだ!」
と、言い放った。
その言葉で完全にブチ切れたのか、
「許さん!」
と、ジェフリーが春風に向かって何か攻撃を行おうとしたが、
「すまない」
ーーガンッ!
「うぐぅ!」
ウィルフレッドに背後からの一撃を受けて、ジェフリーはその場に倒れて意識を失った。
それを見た春風は、
(おお! 王様やるじゃん!)
と、感心していると、ウィルフレッドは春風をジッと見て、
「其方は一体何者だ? 本当に、『勇者』ではないのか?」
と尋ねた。
それに対して春風は、
「え? う、うーんと……」
と、チラッと爽子とクラスメイト達を見た。全員、自分達の目の前で起きた事が理解出来なかったのか、皆、口をあんぐりと開けて呆然としていた。
春風はそんな爽子達を見て、
「そうですね、敢えて名乗るとするなら……」
と、小さくそう呟くと、ビシッとポーズをとり、
「俺は春風。雪村春風。あ、『雪村』が苗字で、『春風』が名前です。でもって……」
右手に持っている「お守り」で、自身の右肩をとんとんと叩きながら答える。
「ちょっとユニークな、『一般人』です!」