第146話 春風vsループス
本日2本目の投稿にして、いつもより短めの話になります。
「オイオイ、どうなってんだありゃあ?」
突然目の前が眩しくなって、それが収まったから目を見開くと、何と勇者達が全員透明な球体に閉じ込められていた。
ただ1人、春風を除いて。
このとんでもない状況に、ヴィンセントをはじめとした戦いを見守っている者達は、皆、ショックで口をあんぐりとさせていた。
そして、
「お、お父さん……春風……」
それは、レナも同様だった。
さて、ヴィンセント達が見守る中、
「さぁ、春風。ここからが、本当の戦いだ」
と、ループスが春風に向かってそう言い放ったので、
「『本当の戦い』って……ループス様、一体先生達に何をしたのですか!?」
と、春風は「戸惑い」と「怒り」が入り混じったような表情でループスに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、ループスが「ん?」と首を傾げると、
「ああ、心配するな。邪魔だからちょいと閉じ込めさせてもらっただけだから」
と、時に悪びれる事なくそう答えた。
その答えを聞いて、春風は何かに気付いたのか、
「ループス様。まさかとは思いますが、あなたの狙いは……」
と、尋ねようとしたが、春風が言い切るよりも早く、
「そうだ。最初からお前と戦う事が目的さ」
と、ループスは再び悪びれる事なくそう答えた。
その瞬間、透明な球体の1つから「な、何だとう!?」という声が聞こえたが、
「あ、あなたは……」
と、その表情から「戸惑い」が消え、「怒り」だけが残った状態の春風の耳には届かず、その場が一気に緊張に包まれた。
拳をグッと握り締め、「怒り」で体を震わせながらループスを睨む春風。
今にもループスに向かって駆け出しそうな様子だったが、次の瞬間……。
ーーゴッ!
『え!?』
「お、オイ春風、何を!?」
なんと春風は、その握り締めた拳で……自身の額を思いっきり殴った。
突然のとんでもない行動に、思わずループスと勇者達はギョッと目を大きく見開いた。
そして彼らがオロオロしていると、
「……ふぅ」
と、春風は落ち着いた表情でループスを見つめた。
そして、春風は自身の武器である杖を構えると、
「待ってください、先生、みんな。俺が絶対助けますから」
と、真っ直ぐループスを見つめながらそう言った。
その言葉を聞いて、漸くハッとなったループスは、
「は、はは……どうやら、やる気になったみてぇだな」
と言うと、ゆっくりと目を閉じた。
次の瞬間、ループスの体がボコボコと変化し始めた。
それまで狼のように4つ足で立っていたのだが、まるで人間のようにゆっくりと立ち上がって、2本足で立てるようになった。
更に左右の前足というと、こちらもまるで人間の手のように形を変えて、それを確認すると、ループスが手に変化したその左右の前足を動かした。
そう、ここまで来ると、まさにループスは今、顔は狼のままだが、体は本当に人間のような見た目になっていた。
その姿を見て、閉じ込められた勇者達だけでなく、見守っている者達までもが「こ、これは……」と言わんばかりに驚愕に満ちた表情になったが、
「……」
春風だけは、落ち着いた表情を崩す事はなかった。
そんな春風を前に、
「ほう、この姿を見ても何も思わない、か」
と、ループスは挑発じみた口調でそう言うと、手となった右前足に意識を集中した。
すると、ループスの手から黒い炎のようなエネルギーが噴き出してきて、
「うわ! 何だ!?」
と、球体の中にいる勇者の1人が驚いていると、その黒いエネルギーは1本の剣へと形を変えた。
そして、ループスは出来上がったその黒い剣をブンブンと振り回すと、
「うん、良い出来だ」
と言って、黒い剣を両手で握り締めて構えた。
それを見て、春風は杖を更にグッと握りしめると、
「さぁ、どっからでもかかってきな」
と、ループスは春風に向かって今度こそ本気で挑発した。
それを聞いた春風は、
「わかりました。では、遠慮なく……」
と、返事すると、
「『アクセラレート』! 『ヒートアップ』! 『プロテクション』!」
と、爽子達にかけたのと同じ、風、炎、土の強化魔術を自身にかけた。
そして、春風の全身が、緑、赤、オレンジ色の光に包まれた後、
「行かせてもらいます!」
と、春風はそう言って、ループスに突撃した。