第142話 春風と勇者達vsループス
今回はいつもより短めの話になります。
ループスとの対決前に、五神教会教主ジェフリーと再会するというちょっとしたゴタゴタがあったが、今、中立都市フロントラルから少し離れた平原で、「見習い賢者」の春風と、爽子ら24人の勇者達が、王族、皇族、そしてフロントラルの住人達に見守られる中、そのループスと対峙していた。
「フッフッフ。どうやら、そっちも準備は出来ているみてぇだな」
と、ループスが不敵に笑いながらそう口を開いたが、
『……』
春風と勇者達は、無言で真っ直ぐループスを見つめるだけだった。それを見て、
「オイオイ、無視かよ」
と、ループスがガックリと肩を落としながら呟いたそんな時、
「みんな、駄目な教師で本当にごめんなさい。でも安心して。いざとなったら、私がみんなを守るから」
と、爽子がループスを見つめながらそう言ったが、
「大丈夫です、先生」
と、春風もループスを見つめながらそう返事をして、それに続くように、
「ええ、先生1人に押し付けたりなんてしません」
「そうだぜ先生! 俺らだって『勇者』なんだしさ!」
「うんうん、ここで逃げる訳にはいかないもんね!」
と、他の勇者ことクラスメイト達も、ループスを見つめながらそう言った。その言葉を聞いて、
「……私って、本当に駄目な教師だなぁ」
と、爽子は申し訳なさそうに顔を下に向けたが、
「ありがとう」
と、すぐに再び真っ直ぐループスを見つめながらお礼を言うと、
「じゃあ、いくよ」
と、爽子が腰のベルトに挿した自身の武器である長剣を、ゆっくりと鞘から引き抜き、それを構えた。
そして、爽子に続くように、春風と他の勇者達も、それぞれ自身の武器を構えた。
ループスはそんな春風達を見て、
「お、みんな良い目をしてるなぁ。若干震えている奴もいるけど」
と、ニヤリと笑いながら言うと、
「そんじゃ、こっちも戦闘態勢に入りますか」
と言って、スーッと息を吸うと、空に向かって、
「ワオオオオオオオオン!」
と、大きな声で吠えた。
その声に春風達がビクッとなった次の瞬間、ループスの周りに、4体の黒い獣が現れた。
見た目は熊、蛇、大鷲、そして虎なのだが、どの獣も春風達より2回り程大きく、とても強そうだった。
その獣達を見てタラリと冷や汗を流す春風達に向かって、
「どうだ、スゲェだろ?」
と、ループスが挑発するかのようにそう尋ねると、
「あ、あの、ループス様。コイツらは一体……?」
と、爽子が恐る恐るそう尋ね返してきたので、
「俺が作った分身体だ。世間じゃ確か『邪神の眷属』って呼ばれてたな。他にも数体程いるが、コイツらは俺が作った中でも最高の出来映えなんだわ」
と、ループスは周囲にいる4体の獣……自身の分身体を見回しながらそう説明した。
その説明を聞いて、春風達がゴクリと唾を飲んでいると、
「さて、春風。そして、勇者さん達や。怖かったら『怖い』って言って良いんだし、逃げたいなら逃げ出したって良いんだぞぉ? 別に責めたりしねぇし」
と、ループスが再び挑発するかのように言った。
その言葉に「ムム!」となったのか、春風達は戦闘態勢を解いたりせず、寧ろ、
『かかってこいやぁ!』
と、全員がそう言わんばかりにそれぞれ武器を握る力を強くした。
それを見て、
「ほほう。どうやら根性はあるみてぇだな」
と、ループスは小さな声でそう呟くと、
「お前達! 戦闘開始だ!」
と、周囲にいる自分の分身体に向かってそう命令した。
そして、その命令を受け入れたのか、
『グオオオオオオオ!』
と、4体の分身体達が一斉に叫び出し、春風達に向かってもの凄い勢いで突撃してきた。
それを見た爽子は、
「来たぞ! みんな、こっちも戦闘開始だ!」
と、叫び、それに応えるかのように、
『おおおおおっ!』
と、春風と他の勇者達も叫んだ。
そして、
「行くぞ!」
と、爽子が再びそう叫ぶと、春風達と共にループスの分身体に突撃した。
そう、今まさに、世間から見たら「勇者と邪神の戦い」が始まったのだ。