第141話 ループス再び
「あ、ループス様!」
「よぉ!」
突如、春風達の前に現れた黒い狼ーーループスの存在に、春風達は思わずギョッとなった。
その後、
「じ、邪神ループス! 何故ここに……!?」
と、ジェフリーは驚きながらもループスに向かってそう尋ねようとしたが、それを遮るように、
「うるさい、黙れ」
と、ループスはギロリとジェフリーを睨みながら静かにそう言ってきたので、
「うぐっ!」
と、ジェフリーはそう呻くと、まるで金縛りにあったかのようにそのまま動けなくなってしまった。
それを見てループスが「フン!」と鼻を鳴らしていると、
「あの、ループス様どうしてこちらに?」
と、春風が恐る恐る尋ねてきたので、ループスは「ん?」と反応した後、
「ああ、なんか来たなって思って、ちょいと様子を見に来たんだ」
と、春風に向かってそう答えた。その答えを聞いて、
「ちょ、ちょいと様子をって……はぁ、そうですか」
と、春風は頬を引き攣らせながら言った。そしてその間、
「……な、なぁ、ちょっとノリが軽くないか?」
「う、うーん……」
と、一部のクラスメイト達も、ループスの言葉に何とも言えない表情になった。
すると、
「……ハッ! こ、この邪神め! 貴様ぁ、よくもこの私に……!」
と、我に返ったジェフリーが、今にもループスに掴みかかってきそうな勢いになった。
しかし、
「聞こえなかったのか? 黙れと言った筈だハゲジジイ」
と、それを遮るかのようにループスは真っ直ぐジェフリーを見てそう罵ったので、
「はがっ! は、ハゲジジイ……」
と、ジェフリーはショックで口をあんぐりさせたまま固まってしまった。その様子を見て、
「ブフーッ! か、神様からも『ハゲジジイ』って……!」
と、ヴィンセントが盛大に吹き出していた。
だが、そんなジェフリーを前にしても、ループスは話を続ける。
「何があるんだと思って来てみれば、罪もない異世界の子供達にこんなものをつけさせようとしやがって。春風と同じように、俺だって怒ってるんだよ」
と、チラリと地面に落ちてる爆散の腕輪を見ながらそう話すループス。口調こそ静かだが、その言葉1つ1つには強い怒りが込められていた。
そして、そんなループスの言葉が響いたのか、爽子ら勇者達は「あ……」と泣きそうな表情になった。
無理もない。何せ世界から「邪神」認定されているとはいえ「神」であるループスが、自分達の為に怒ってくれたという事実に、皆、感動しているのだ。
しかし、今はまだ涙を見せる時ではないと思い、皆、首を横に振ったり目をゴシゴシと擦ったりして、その後すぐに真面目な表情になって真っ直ぐループスを見つめた。
さて、ループスに怒りをぶつけられたジェフリーはというと、
「う……あ……うぐ……!」
と、ループスから放たれたプレッシャーに耐えきれなかったのか、上下の歯をガチガチと鳴らし、ブルブルと体を震わせていた。
やがて立っていられなくなったのか、ジェフリーはドスンと音を立てて腰を抜かし、その後は震えた体でループスを見つめるだけで、それ以上は何もしなかった。
いや、この場合は『何も出来なかった』というのが正しいのだろう。
とにかく、そんなジェフリーを見て、
「フン! この程度かよ」
と、ループスは鼻で笑った後、春風達の方へと振り向き、
「んじゃ、俺はこの辺で失礼するわ。ああ、俺の方の準備は出来てるから、いつでもかかって来て良いぞぉ」
と言って最後にニヤリと笑うと、素早い動きで元いた場所へと戻った。
そんなループスを見送った後、
「さて、クラーク教主。このまま帰るのか? それともこちらで勇者達の戦いを見ていくか?」
と、ウィルフレッドがジェフリーに向かってそう尋ねると、
「……勿論、見ますとも」
と、ジェフリーはゆっくりと立ち上がりながらそう答えたが、その表情は最早生気がないと思えるくらい酷いものになっていた。
さて、そんな状態のジェフリーを他所に、
「……よし。みんな、行こうか!」
と、爽子がそう口を開くと、
『はい!』
と、春風を含めたクラスメイト達は、力強くそう返事した。
そして、そんな春風達を見て、
「皆、気をつけて行ってきてほしい」
「そうだぜ。大丈夫だとは思うが、油断はするんじゃねぇぞ」
と、ウィルフレッドとヴィンセントがエールを送ってきた。
更に、
「特に水音。お前はちゃんと帰ってこいよ。お前にもしもの事があったら、エレンが悲しむんだからな」
と、ヴィンセントは水音を見てそう言ってきたので、
「勿論です。絶対に生きて帰りますから」
と、水音も真っ直ぐヴィンセントを見てそう返事した。その返事を聞いて、
「うむ、わかれば良いんだ。わかれば、な」
と、ヴィンセントはニヤリと笑いながら言った。
そんな2人のやり取りを、爽子は頭上に「?」を浮かべながら見ていたが、「いかんいかん」と言わんばかりに自身の左右の頬をパンパンと叩いた後、春風達を見て、
「よし、みんな、準備は出来ているな?」
と、尋ねてきたので、その場にいる者達ーークラスメイト達は、
『はい!』
と、再び力強くコクリと頷きながら答えた。
爽子はそんな春風を見て、自分もコクリと頷くと、
「行こう!」
と言って、春風を含めたクラスメイト達と共にその場から歩き出した。
そんな爽子や春風達を見て、
(みんな、頑張って!)
と、レナは心の中で、爽子達にエールを送った。