第136話 ループスとの決戦前夜・3
それから春風達は、みんなで夕食を食べた後、それぞれ自分達が泊まる場所へと別れる事になった。
そして現在、居住区にある春風と仲間達の拠点。
「ちょっと、喉が渇いたから何か飲んでくるね」
とアメリアはそう言って、部屋を出て台所に向かった。
そんな時、
「あれ? アメリアさん?」
「あ、春風君」
台所前で春風にばったり会ったので、
「えっと、君も何か飲みに?」
と、アメリアは恐る恐る春風に尋ねた。
その質問に対して、
「えぇ、まぁ。ちょっと部屋でひと悶着ありまして、その所為で喉が渇いちゃいまして……」
と、春風は「あはは……」と苦笑いしながら答えた。
その答えにアメリアは「そ、そうか……」と返事した後、春風一緒に台所に入った。
台所には流し台と大きな食器棚、そして調理で使用する釜戸や、様々な食材や作った料理などを保存する冷蔵庫型魔導具があり、春風は食器棚からグラスを2つ、冷蔵庫型魔導具から大きな瓶を1本取り出した。因みに、瓶の中身は春風特製のフルーツジュースが入っている。
春風はそのフルーツジュースを2つのグラスに注ぐと、「はい」と言ってその1つをアメリアに差し出した。
「ありがとう」
と、アメリアはそう言ってそのグラスを受け取ると、ゆっくりと中のフルーツジュースを飲み干した。そしてそれに続くように、春風も自分のフルーツジュースを飲み干した。
「ふぅ……」
と、飲み終わった春風がそうひと息入れると、
「春風君……」
と、アメリアがそう口を開いたので、
「ん? どうしたんですか?」
と、春風がそう返事すると、アメリアは気まずそうに、
「こんな事を聞くのは良くないと思ってはいるが……明日のループス様との戦い、勝てると思ってるか?」
と、恐る恐る尋ねた。
それに対して、春風は真剣な表情で、
「勝ちます。というか、勝たなきゃいけないと思ってます」
と、答えると、
「それは……どうして?」
と、アメリアは不安そうな表情で再び尋ねた。
その質問に対して、春風は真剣な表情を崩さずに答える。
「ループス様は、先生達だけでなく俺まで指名しました。これは俺の推測ですが、恐らくループス様は、俺自身の『意志』や、『覚悟』とかを知りたいんだと思ってます。それを伝える為に、明日の戦いは全力で挑み、勝たなきゃいけないと、俺はそう考えてます」
アメリアは春風のその答えを聞いて、
「はは……君は、本当に強いんだな」
と、呟くと、
「強くありませんよ。俺1人だったらここまでくる事なんて、きっと出来ません。故郷の『地球』でも、この世界に来てからも、色んな人達に助けられて、俺はここにいるんですから」
と、春風は「はは……」と自嘲気味に笑いながらそう言い、最後に、
「勿論、その中にはアメリアさん達だって含まれてるんですからね」
と、付け加えた。
その言葉を聞いて、
「そ、それは……嬉しいな」
と、アメリアは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたが、すぐにハッとなって首をブンブンと横に振って、
「春風君。もう1つ聞きたい事があるんだが、良いかい?」
と、春風に向かってそう尋ねてきた。
春風はそれに「何ですか?」と返事すると、
「今日、ウィルフレッド陛下が私達に言った言葉なんだけど……」
と、アメリアは再び気まずそうにそう言ったので、春風はそれが、
(ああ、アメリアさん達を頼むって言ってきた時の事か)
と、理解した。
「ああ、それでしたら……」
と、春風はその質問に答えようしたが、それよりも早く、
「その……迷惑じゃないだろうか?」
と、アメリアがそう尋ねてきたので、
「何がですか?」
と、春風は「え?」と言わんばかりに首を傾げると、
「春風君には『故郷を救う』という使命があったのに、私がしてしまった事の所為で、本来なら無関係だった君を巻き込んでしまった。巻き込んで、ギデオン大隊長に狙われる事になってしまった……」
と、アメリアは申し訳なさそうにそう言い、最後に、
「本当に、ごめんなさい」
と、深々と頭を下げながら謝罪した。
それを見た春風は無言でグラスを近くの流し台に置くと、アメリア近づいて、
「アメリアさん、顔を上げてください。この世界に来る事を決めたのも、断罪官の連中と戦う事を決めたのも、俺自身の意志です。もしまた連中と戦う事になったとしても、俺はきっと、自分の意志で戦う事を選ぶでしょう」
と、優しい口調でそう言った。
それを聞いて、アメリアは「でも……!」とバッと顔を上げて何か言おうとしたが、春風はスッと右手を上げて、それに「待った」をかけた後、
「そんなに心配しないでください。そうなったとしても俺、絶対に勝ちますし、絶対に生き残りますから。だから、アメリアさんは気にしないでください」
と、笑顔でそう言った。
それにアメリアは「春風君……」と泣きそうになると、
「というかアメリアさん……いや、アメリアさん達か。もし無事に全てが片付いたら、その後どうします? 本気で『地球』に来ちゃいますか? みんなで」
と、春風は何処かおちゃらけた表情でそう尋ねてきたので、それにアメリアはキョトンとなると、すぐに「ふふ……」と笑って、
「そうね。全部が終わったら、エステル達と相談して決めるわ」
と、笑顔でそう言った。
その答えを聞いた春風は「そうですか」と言った後、
「あと、アメリアさん。なんか口調が変わってませんか?」
と、アメリアに向かって「おや?」と言わんばかりに首を傾げながらそう尋ねた。
それにアメリアは「あ……」となると、
「あー、ごめんね。今までのは断罪官時代の口調で、こっちが本来の私の口調なんだ」
と答えて、最後に「あはは……」と苦笑いした。
春風はそれに「へぇ……」返事すると、
「うん、良いと思いますよ。こっちの方がなんか可愛いですし」
と、笑顔でそう言ったので、
「こ、コラ! 年上を揶揄わないの!」
と、アメリアは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら怒鳴った。
そんな様子のアメリアを見て、春風は「はは!」と笑うと、すぐに真面目な表情になって、
「アメリアさん。明日の戦い、俺達は絶対に勝ちます」
と、言い放ち、それを聞いたアメリアも、
「うん、気をつけてね」
と、真面目な表情でそう返した。
それから時が過ぎて、夜が明けた。