第135話 ループスとの決戦前夜・2
さて、春風が拠点内の自室で楽しいひと時(?)を過ごしていた丁度その頃、同じく拠点内にあるアメリアの部屋では、部屋の主であるアメリア本人と、妹のエステル、幼馴染みの少年ディックと、その弟ピートの4人が集まっていた。
「フゥ……」
ベッドの上で、アメリアは小さく息を吐いた。その表情は暗かったので、
「姉さん……」
と、傍にいたエステルが、ソッとアメリアの肩に触れると、
「心配しないで、エステル」
と、アメリアは「大丈夫だから」と言わんばかりに、穏やかな笑みをエステルに向けた。
ただ、その笑みがかなり弱々しかったのか、エステルだけでなくディックとピートも、心配そうにアメリアを見つめた。
そんな状況の中、
(ケネス小隊長……)
と、アメリアは心の中でそう呟きながら、数時間前の出来事を思い出し始めた。
時は遡る事数時間前。
それは、「学級裁判」が終わって、春風が食事を振る舞う事になり、その準備をする前の事だった。
「あぁ春風殿、ちょっと待ってほしい」
と、ウィルフレッドがそう口を開いたので、春風は「何だろう?」と頭上に「?」を浮かべていると、
「断罪官の、アメリア・スタークだな?」
と、ウィルフレッドがアメリアの傍に近づきながらそう尋ねてきたので、
「……はい、ウィルフレッド陛下」
と、アメリアは「これまでか……」と観念したかのように、ウィルフレッドを前に跪いてそう答えた。
その後、春風、レナ、アメリア、エステル、ディック、ピート、そしてウィルフレッドとイヴリーヌは、先程まで学級裁判をしていた部屋とは違う部屋に通されると、
「さて、春風殿にレナ殿、そしてアメリアよ」
「「「はい」」」
「其方達がギデオン達と戦う事になった、詳しい経緯を聞かせてほしい」
と、最後に「頼む」と付け加えたウィルフレッドにお願いされたので、3人はギデオンら「断罪官」と戦ってた時の事を、ウィルフレッドに説明した。
そう、アメリアが断罪官を裏切る事になった理由から始まり、それから始まった逃亡の旅の最中に春風に出会った事、その後、事情を聞いた春風はアメリア達を逃そうとしたが、タイミング悪くギデオンらに遭遇してしまい、そのまま彼らと戦い事になった事、そして、激しい戦いの末、春風は自身のオリジナル魔術「化身顕現」を用いてギデオンに勝った事を、だ。
説明が終わると、
「……そうか、そのような事があったのか」
と、ウィルフレッドが深刻そうな表情でそう呟いたので、
「信じられないと思ってくださっても構いませんが、全て事実です」
と、春風は何処か申し訳なさそうな表情でそう言った。
その言葉を聞いて、
「ああ、いや、其方達を疑ってる訳ではない。ここに来る前にギデオン本人からも報告を受けているしな」
と、ウィルフレッド「気にするな」と言わんばかり手を軽く振りながら言った。
それに春風は「そうですか……」と呟くと、
「あの、質問してもよろしいでしょうか?」
と、ウィルフレッドに向かって恐る恐る尋ねた。
それにウィルフレッドが「何かな?」と返事すると、春風はチラッとアメリア達を見ながら、
「アメリアさん達は、どうなってしまうのでしょうか?」
と、再び恐る恐る尋ねた。その質問を聞いて、アメリア達が「うぅ……」と小さく唸ると、
「……アメリア・スターク」
「は、はい」
「私はここに来る前に、其方が所属していた小隊の隊長と話をした」
「ケネス小隊長と?」
「そうだ。そして、他の隊員達からもな。で、彼らに其方の事をどう思っているのかを尋ねたら……」
ーーもし、自分達に彼女達を討伐する任務が降れば、私達はそちら従いますが、私達個人は彼女達に何かをする気はありません。何故なら、彼女の心を壊してしまったのは私達なのですから。だからもし、先程言いましたように彼女達を討伐する任務が降れば従いますが、出来ればもっと遠くに逃げてほしい願っています。
「……と、言われてしまったよ」
と、ウィルフレッドはそう言うと、最後に「はは……」苦笑いした。
その言葉にアメリアは震えた声で「そう……ですか」と呟くと、
「ケネス小隊長……み、んな……」
と、ボロボロと大粒の涙を流した。
そんなアメリアの様子を見たウィルフレッドは、
「春風殿」
と、今度は春風に視線を向けてきたので、
「はい、何でしょうか?」
と、春風がそう返事すると、
「其方には申し訳ないが、ギデオンは……いや、ギデオン達は其方を狙っている。何とか止めようとしたが、残念な事に私では彼らを止める事は出来なかった」
と、ウィルフレッドは申し訳なさそうにそう言い、最後に「すまなかった」と謝罪した。
それを聞いて、
「そんな、お気になさらないでください」
と、春風がそう言うと、ウィルフレッドは申し訳なさそうな表情を崩さずに、
「それと、更に申し訳ないのだが……」
と言ってきたので、春風は「何ですか?」とまた恐る恐る尋ねると、
「勝手なのは重々承知なのだが、どうか、これからも彼女達を守ってほしい。出来れば、其方の故郷に連れてっても構わない」
と、ウィルフレッドはそう言うと、最後に「頼む」と付け加えて、深々と頭を下げた。
それを見た春風は戸惑ったが、
「わかりました。任せてください」
と、そう返事した。