第126話 学級裁判、始まる?
フロントラル行政区内になる市役所。
その市役所の中に、かなりの広さを持つ部屋がある。
普段は「会議室」として使われているその部屋で、現在、そこで春風を被告人とした「学級裁判」が行われようとしていた。
多くの人達に見つめられて、
(こんな事やってる場合じゃないと思うんだけどなぁ……)
と、春風は心の中でそう呟きながら、居心地の悪さを感じていた。
時は遡る事数分前、
「先生!」
「な、何だ正中……?」
「今すぐ学級裁判をしましょう! 被告人は雪村君で!」
と、爽子に向かってそう提案した正中に、
「ちょ、ちょっと待って正中君! 今はそんな場合じゃ……!」
と、春風は「待った」をかけようとしたが、
「わかった! すぐにやろう!」
と、爽子があっさりと「OK」を出したので、
「え、えぇ!? そんな先生……!」
と、まさかの賛成にギョッとなった春風はすぐに抗議しようとしたが、
「あら、面白そうね。それなら丁度会議室が空いてますから、そこでやりましょう」
と、オードリーが笑顔でそう言ってきたので、春風がそれを聞いて更にギョッとなった後、爽子達はすぐに学級裁判の準備に取り掛かった。
そして現在、「裁判」をイメージに会議室の机が並べられて、部屋の中心には「被告席」をイメージした椅子が置かれて、そこに今回の「被告人」である春風が座らされている状態だ。
因みに、そんな春風の周囲には、歩夢や水音らクラスメイト達は勿論、レナをはじめとした今日まで共に過ごしてきた仲間達や、ウィルフレッドら王族2人とヴィンセントら皇族4人、そして市長オードリーとハンターギルド総本部長のフレデリックに、春風が所属している2つの大手レギオンのリーダー達がいる。
彼らに見つめられて、
(うぅ。まさか本当に学級裁判をやるなんてなぁ……)
と、春風が心の中でそう呟きながら、苦しそうに自身の胃の辺りをグッと手で押さえ付けていると、目の前に置かれた大きな机の後ろに爽子が歩いてきて、
「これより、学級裁判を開始する」
と、春風と周囲の人達に向かって学級裁判の開始を宣言した。
その宣言を聞いて、周囲の人達がゴクリと唾を飲む中、
「被告人、雪村春風」
と、爽子が春風に向かってそう言ったので、春風は思わずビシッと姿勢をただして「ハイ!」と返事すると、爽子は手に持っているファイルのようなものを見て、
「あなたはこの世界に来て幾つもの『罪』を犯しました。1つは『地球消滅の危機』を言わずに私達のもとを去った『罪』。もう1つは海神達から詳しく聞きましたが、そんな状況になってるというのに、あなたはこのフロントラルで『マイホーム』を手に入れただけじゃなく、そちらにいるアメリアさん、エステルさん、ディック君にピート君という『家族』を作って幸せな日々を送っているという『罪』……」
と、最後にチラッとクラスメイト達と共にいるアメリア達を見ながら、春風の「罪状」を語った。ただ、その間、
「あれ? 私は? 何で私呼ばれてないの?」
と、名前を呼ばれてないレナが「え? え?」とキョロキョロしていたが、周囲の人達はそれをスルーした。
そんな彼らを前に、爽子は話を続ける。
「そして、裁判準備中に正中達から聞きましたが、雪村春風、あなたはこのフロントラルで暮らしている間、そちらの陸島さんが『地球』から持ってきた『米』を食べていたそうですね? それも毎日!」
と、爽子に責められるかのようにそう尋ねられて、春風は思わず「うぐっ!」と自分の胸を手で押さえた。
「そ、それは……」
と、冗談抜きで苦しそうな表情を浮かべる春風。
しかし、そんな春風を前にしても、
「それだけでも許されない『罪』ですが、何より許せないのは……」
爽子をキッと春風を睨みながら、
「お前が、そちらの陸島さんと、海神、天上の3人と、ただならぬ関係を持っているという『罪』だぁ!」
と、最後敬語を外してそう叫んだ。
その叫びを聞いて、
「え、ま、待って先生! それは、そのぉ……!」
と、春風は大慌てで抗議しようとしたが、それを遮るかのように、
「「「いやぁん……!」」」
と、歩夢、美羽、凛咲の3人が恥ずかしそうに顔を真っ赤にして体をクネクネさせた。
春風はそんな3人を見て、
「ちょっと! ユメちゃんに美羽さんに師匠ぉ!」
と、同じく恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。
ただ、彼女達の横では、
「「むぅ……」」
と、何故か不機嫌そうに頬を膨らませているレナとイヴリーヌの姿もあったが。
しかし、爽子はそんな春風達を無視して、
「さぁ雪村! 一応海神達から話は聞かせてもらったが、お前からも教えてもらおうか! 海神と天上との出会いをぉ! そして陸島さんとの出会いから、お前が陸島さんの『弟子』になった経緯を!」
と言ってきたので、
「わ、わかりました……」
と、春風は観念したかのように話をし始めた。