第120話 再び市役所にて
その後、春風達はフロントラル市役所にあるオードリーの部屋へと戻った。
ただ、中はそれ程広いという訳でもなく、全員は流石に無理という事で、現在部屋にいるのは、その部屋の主であるオードリー、ハンターギルド総本部長のフレデリック、大手レギオン「紅蓮の猛牛」のリーダーのヴァレリー、同じく大手レギオン「黄金の両手」のリーダーのタイラー、ルーセンティア王国国王ウィルフレッドとその娘である第2王女イヴリーヌ、ストロザイア帝国皇帝ヴィンセントとその妻である皇妃キャロラインや、2人の息子である皇子レオナルドとその双子の妹である皇女アデレード、「勇者」達の代表として春風のクラスの担任である爽子、そして、春風の12人だ。
尚、歩夢や水音らクラスメイト達や、春風の仲間であるアメリアやディック達は皆、別室に案内されている。
部屋に戻ってから暫くすると、トントンと扉が叩かれ、
「市長、お連れしました」
と、扉の向こうからオードリーの秘書がそう言ったので、
「どうぞ」
と、オードリーがそう返すと、「失礼します」という声の後に扉が開かれ、秘書ともう1人、レナが入ってきた。
その姿に爽子が「あ……」と声をもらすと、
「久しぶりだな。レナ・ヒューズ」
と、ウィルフレッドがレナに向かってそう話しかけてきたので、レナはウィルフレッドに向かって深々と頭を下げて、
「お久しぶりです。ウィルフレッド陛下」
と、挨拶した。
その姿を見て、ヴィンセントが「ヒュウ」と口笛を鳴らし、隣のキャロラインがそんなヴィンセントを肘で軽く突いた。
その後、オードリーが「コホン」と咳き込むと、
「レナさん。あの方は?」
レナに向かってそう尋ねてきたので、レナはコクリと頷いた後、
「お母さん」
と、開いている扉の向こうに向かってそう言った。
すると、
「失礼します」
という声がした後、レナの育ての親である、女神ヘリアテスが入ってきた。
見た目は10歳から12歳くらいの少女にしか見えないが、彼女からただならぬ何かを感じたのか、
「あ‥‥貴方は……?」
と、ウィルフレッドが汗をダラダラと流しながらそう尋ねてきたので、
「はじめまして、ウィルフレッド王にヴィンセント皇帝。私の名はヘリアテス。『太陽』と『花』を司りし女神。と言いましても、今は『邪神』などと呼ばれてますが」
と、ヘリアテスは真面目な表情でそう答えた。
その答えに爽子は「え、えぇ!?」と大きく目を見開きながら驚き、ウィルフレッドはタラリと汗流しながらゴクリと生唾を飲み、ヴィンセントは「オイオイ、マジかよ……」とヴィンセントと同じようにタラリと汗を流しながら呟いた。
そんな爽子達を見て、
(まぁ、そりゃそうなるわな)
と、春風は「仕方ないよな」と言わんばかりの表情になっていると、突然、春風のズボンのポケットからジリリリと大きな音が鳴った。
その音を聞いて、
「こ、今度は何だ!?」
と、爽子は思わずビクッとしたが、春風そんな彼女を無視してポケットに手を入れると、そこから魔導スマホを取り出し、画面を見た。
そこに表示されているものを見て、
「あ……」
と、小さくそう声をもらすと、画面を操作して、
「はい、もしもし……」
と話しかけた。
その後、爽子、ウィルフレッド、ヴィンセントが「何だ何だ!?」と春風を凝視する中、
「わかりました」
と、春風は電話の向こうにいる者に向かってそう言うと、魔導スマホの画面を上に翳した。
次の瞬間、眩い光と共に大きな魔法陣が描かれ、そこから1人の若い男性が現れた。
「はじめまして、アマテラスの国の住人に、エルードの現在の住人達よ」
見た目的には「ワイルドなお兄さん」と思わせる雰囲気をした、白いワイシャツと青いジーンズ姿のその男性がそう言うと、
「う、あ……あ、貴方は?」
と、今度は爽子が更に恐る恐るといった感じで、その男性に向かってそう尋ねた。
因みに、男性の足は裸足だった。
まぁそれは置いといて、男性は爽子の質問を聞いた後、
「俺の名はゼウス。『地球』の神の1柱だ。よろしくな」
と、爽子達に向かってそう自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、
「え……えええええっ!?」
と、爽子は更に驚愕に満ちた表情を浮かべ、
「……」
と、国王ウィルフレッドは更に汗を流し、
「ま……マジかよ!?」
と、ヴィンセントは「神」の前であるにも関わらず、大声でゼウスに向かってそう尋ねた。
そんな爽子達を見て、若い男性ーーゼウスは「ま、そういう反応だろうな」と言うと、最後に小さく「はは……」と笑った。
その後、
「あの、ゼウス様……」
と、春風がゼウスに向かってそう話しかけると、
「おう、わかってるぜ」
と、ゼウスはニコリと笑いながらそう言った後、チラリとウィルフレッドとイヴリーヌを見て、
「んじゃ早速だが、俺から説明させてもらうわ。お前らの『勇者召喚』から始まった『全て』の話をな」
と言って、文字通り「全て」の話を、ウィルフレッドや爽子達に向かって話し始めた。