第108話 その女、「異界」を渡る者
時は数日前に遡る。
それは、春風がヴァレリーとタイラーのレギオンに入る事を決めた後の事だった。
「あ、そういえば!」
と、オードリーがそう口を開いたので、春風達が「え?」と首を傾げていると、
「あなたについて、聞くのを忘れたました」
と、オードリーは凛咲を見てそう言ったので、春風達も「あ、そうだった!」と言わんばかりに驚いた。
そんな春風達を前に、
「ああ、そういえばちゃんと自己紹介してなかったわね」
と、凛咲がそう呟くと、
「じゃ、改めて……初めまして、私は春風の『師匠』をしている、『冒険家』の陸島凛咲といいます。因みに、『陸島』が苗字で、『凛咲』が名前です」
と、凛咲はオードリーだけでなく春風を除いた周囲の人達向かってそう自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、オードリーは勿論、春風を除いた周囲の人達もポカンとなったが、
「はぁ、『冒険家』……さんですか。彼の『師匠』という事は、あなたも異世界の人間という事で良いでしょうか?」
と、どうにか我に返ったオードリーは、若干恐る恐るといった感じで、凛咲に向かってそう尋ねた。
その質問に対して、
「ええ、そうですよ。私の愛しい弟子兼マイスウィートハニー春風と同じ『地球』の住人です」
と、春風を抱き締めながらそう答えると、春風は「ちょ、師匠!」と驚き、レナは「む!」と凛咲を睨み付け、ゼウスは「やれやれ……」と呆れ顔になった。
しかし、そんな状況中でも、
「そうですか。それで……あなたはどうやってこの世界に来たのですか?」
と、オードリーが真面目な表情で再びそう尋ねてきたので、
「あ、そうですよ師匠! 一体どうやってここに来たんですか!?」
と、凛咲に抱き付かれた状態の春風もそう尋ねた。
それに凛咲が「ああ、それはね……」と答えようとしたその時、
「ちょっとよろしいでしょうか?」
と、ヘリアテスが口を開いたので、その言葉に春風達が「ん?」となると、
「あなた、『異界渡り』ですよね?」
と、ヘリアテスは凛咲に向かってそう尋ねた。
その質問に、
『プレインズ……?』
『ウォーカー?』
と、春風達が一斉に首を傾げると、
「はぁ……」
と、ゼウスがそう溜め息を吐いて、
「春風。異世界召喚のルールは覚えているな?」
と、春風向かってそう尋ねた。
それを聞いて、
「あ、はい、覚えてます」
と、春風がそう答えると、ゼウスは真面目な表情で口を開く。
「異世界から別の存在を召喚するには、絶対に守らなきゃいけねぇルールが存在している。そしてこいつには、『自分の意志で異世界に行きたい』ってパターンも含まれているんだわ」
「え、それじゃあ俺も本来はそのルールを守らなきゃいけないんじゃ……?」
「いや、今回お前さんの場合はあくまで『特例』っつう事で、ルールには含まれてねぇ」
「は、はぁそうですか」
ゼウスのその説明を聞いて、春風がホッと胸を撫で下ろすと、
「……だがな、今回のお前さんの『特例』以外にも、もう1つ例外があるんだ」
と、ゼウスが更に真面目な表情でそう言ったので、
「? 何ですか?」
と、春風がそう尋ねると、
「俺達『神』が出す超絶厳しい『試練』をクリアし、かつ超絶面倒な『手続き』を終えた時……まぁ多少条件はあるが、ルールに縛られずに色んな異世界を渡れる存在になれるんだ」
と、ゼウスがそう答え、それに続くように凛咲が口を開く。
「そう! それこそが私、『異界渡り』! ありとあらゆる『異世界』を渡り歩く旅人ってわけ!」
と、何やら香ばしいポーズを取りながらそう話す凛咲に、春風や周囲の人達は勿論、オードリーもポカンとなった。
それから数秒後、
「……え、ちょっと待って師匠。それってこの世界以外にも色んな異世界に行った事があるって事?」
と、春風が凛咲に向かってそう尋ねると、
「勿論! その証拠に私の家には珍しいものがいっぱいあるでしょ? あれ、これまで行った色んな異世界から持ってきたものなの!」
と、凛咲が満面の笑みでそう答えたので、
「ああ、あれそうなんですか……って、そうじゃなくって! そんな話、俺聞いた事ないですけど!?」
と、春風はそうノリツッコミしつつ、凛咲に向かって更に尋ねた。
その質問を聞いて、
「ごめんねぇ、ハニー。『異界渡り』の事は、一部の人以外は基本的に言ってはいけない事になってるのよぉ」
と、凛咲は春風の頬をスリスリしながらそう答えたので、
「え、えぇ?」
と、春風は「まじっすか?」と言わんばかりの表情になった。