第13話 「勇者」のステータス
「ちょ……ちょっと待ってください」
と、ウィルフレッドの話を聞き終えた女性が、恐る恐る「ハイ」と手を上げた。
それを見たウィルフレッドが、
「む、どうかしたのか勇者殿?」
と、尋ねてきたので、「勇者殿」と呼ばれた女性が「うっ」と小さく唸りながら、
「それってつまり、私達にその『邪神』とその『眷属』を相手に戦えと……言う訳ですか?」
と、再び恐る恐る尋ね返した。
それに対してウィルフレッドが、
「うむ、その通りである」
と、コクリと頷きながら答えると、
「ふ、ふざけるなっ! 私達はただの教師と学生なんだぞ! 幾らそちらの『神』に選ばれた勇者だからって、いきなり『召喚』なんてものをされた挙句、この世界の為にそんな危険な存在と戦えなんて、出来る訳がないだろ! それに、私達にそんな『力』があるとはとても思えない!」
と、相手が国王であるにも関わらず、女性は今度は怒りの表情でそう怒鳴った。
その怒鳴りっぷりに、
(せ、先生……)
と、春風はジーンと感動し、
「そ、そうだよ、無理だよ」
「い、イヤ、嫌だよう」
「か、帰りたい」
と、一部のクラスメイト達が怯えながらそう口に出したが、
「な、なんだその態度は!」
「陛下の前で無礼だぞ!」
と、他の周囲の人達は顔を真っ赤にしながら、女性に向かってそう怒鳴った。
すると、
「待て!」
と、ウィルフレッドの一声によって、その場がシーンと静まり返った。
そして、ウィルフレッドは女性を見て、
「失礼を承知で聞くが、其方の名前は?」
と、尋ねると、
「爽子です。朝霧爽子。元の世界で、この子達の担任教師をしております」
と、女性ーー爽子は毅然とした態度でそう答えた。
その後ウィルフレッドは、
「そうか。では、『爽子殿』と呼ばせてもらおう」
と言うと、ウィルフレッドは咲和子を前に深々と頭を下げながら、
「其方の怒りは尤もだ。この世界の問題に、其方だけでなく其方の生徒達まで巻き込んでしまって、すまない事をしてしまったと思っている。しかし、この世界を救う為には、最早こうする他なかったのだ」
と言うと、最後に「申し訳ない」と付け加えた。
ウィルフレッドのその姿勢を見て、爽子は再び「うっ」と小さく唸っていると、ウィルフレッドはスッと頭上げて、
「それに爽子殿。其方は先程、自分達には『力』がないと言っていたが、そんな事はない。『勇者』として召喚された時点で、其方達には『勇者』としての素質があるのだ。そしてそんな其方達に、5柱の神々は更に『力』を授けたのだ」
と言った。
その言葉を聞いて、爽子は「まだ疑ってます」と言わんばかりの表情で、
「……何ですか? その『力』とは?」
と、尋ねると、
「意識を集中して、『オープン』と唱えるのだ。そうすれば、其方の『ステータス』が見えるようになる」
と、ウィルフレッドはそう言ったので、爽子は「何を言ってるんだ?」と戸惑いながらも、ウィルフレッドに言われた通りに意識を集中して、
「オープン」
と、唱えた。
すると、咲和子の目の前にゲームのウインドウ画面が現れた。
「え、な、何!?」
突然の事に驚いた咲和子が、恐る恐るそのウインドウ画面を見ると、そこにはこう記されていた。
朝霧爽子(人間・27歳・女) レベル:1
職能:神聖騎士
所持スキル:[神器召喚][体術][剣術][槍術][盾術][光魔術]
称号:「異世界人」「職能保持者」「勇者」
「な、何ですかこれは?」
突然現れたそのウインドウ画面に、爽子が戸惑っていると、
「それは『ステータスウインドウ』と言って、文字通り其方自身の『ステータス』を表示するものだ」
と、ウィルフレッドが説明した。
「ステータス……ウインドウ?」
「そうだ。そしてよく見てほしい、其方のステータスに、『勇者』の称号があるはずだ」
と、ウィルフレッドにそう言われて、爽子はもう一度自身のステータスを見ると、
「た、確かに、『勇者』の称号があります」
と、爽子は「そんな……」と言わんばかりにタラリと冷や汗を流しながら言った。そんな爽子を前に、
「そう、その『勇者』の称号こそが、其方達が『勇者』であるという証なのだ。さぁ、生徒殿達も自身のステータスを出してみてくれ」
と、ウィルフレッドがクラスメイト達を見回しながらそう言うと、クラスメイト達も爽子と同じように、
『オープン』と唱えて、皆、自身のステータスを出した。それを見ると、皆、『す、凄い!』と言わんばかりの驚きに満ちた表情になった。
因みに、春風は既にステータスを表示した事があったので、ウィルフレッドの指示には従わず、周囲にバレないようにクラスメイト達の中に身を潜めていた。
「どうかな爽子殿。これで、納得頂けただろうか?」
と、尋ねてきたウィルフレッドに、爽子はまだ納得出来ないのか、
「うぐ。で、ですが……」
と、反発しようとしたが、それを遮るかのように、
「良いじゃないですか先生」
と、クラメイトの1人がそう声をあげたので、爽子(と、春風)はハッとすぐに声がした方へと振り向くと、そこには薄い茶髪持つイケメンの少年がニヤリとしていた。
「ま、正中?」
(正中君?)
驚く爽子(と、春風)を前に、「正中」と呼ばれた少年は、ゆっくりと爽子の近くに歩み寄り、その彼について行くかのように、傍にいた3人の少年達と2人の少女達も歩き出した。
そんな正中に、
「ど、どうしたんだ正中? それに、『良い』とはどういう意味なんだ?」
と、爽子が戸惑いながら尋ねると、正中は「フフ」と笑って、
「そのままの意味ですよ。さっきまで国王様が言ってたように、この世界は滅亡の危機に陥っていて、どうにか出来るのは『勇者』である僕達しかいない。だったら、力を貸すのは当然じゃないですか?」
と、まるで小馬鹿にしたようにそう言った。
その言葉を聞いて、爽子は「な、何を言って……!」と、正中を問い詰めようとしたが、爽子と正中の間に立つように、正中について来た5人の少年少女が割り込んできて、ジッと爽子を見つめてきた。
そして、正中は彼らに「ありがとう」とお礼を言うと、今度はクラスメイト達に向かって、
「みんな、大丈夫だよ。僕達はこの世界の神々に選ばれた『勇者』で、その神々から『力』を授かったんだ。今は知らない事とかわからない事とかが多いけど、頑張って強くなって、みんなで力を合わせて、一緒にこの世界を救おうじゃないか!」
と、声高々にそう言った。
その言葉に爽子が「ちょっと待て……!」と止めようとしたが、正中の言葉が響いたのか、
「……そ、そうか。そうだよな」
「う、うん、私達なら出来るよね?」
「こ、怖いけど、頑張れる……かも」
と、クラスメイト達は怯えた様子から一変してだんだんとやる気に満ち溢れ出したので、それを見たウィルフレッドが、
「おお! それでは其方達は、この世界を救ってくれるのだな!?」
と、表情を明るくして尋ねてきたので、
「ま、待ってくださ……!」
と、爽子が「待った」を、
「はい、もちろ……!」
と、正中が「OK」を出そうとした、まさにその時、
「あのぉ」
という声が上がったので、ウィルフレッド、爽子、正中、そしてクラスメイト達や周囲の人達が、
『え?』
と、皆、一斉に声がした方へと振り向くと、
「ちょっと、よろしいでしょうか?」
そこには、「ハイ」と手を上げた、眼鏡を外した素顔の春風がいた。