第104話 思わぬ再会
お待たせしました、1日遅れの投稿です。
そして、いつもより長めの話になります。
「ふざけるなぁ!」
『っ!?』
怒声と共に食堂に現れた1人の人物。
思わぬ登場に誰もが「何事!?」と目をパチクリする中、ただ1人、春風だけは、
「あ。あんたは……」
その人物が誰かを覚えていたので、
「俺が最初にぶっ飛ばしたルーセンティア王国の騎士」
と、その人物に向かってそう呼んだ。
そう、目の前に現れたのは、春風がこの世界に降り立った……即ち、「ルールを無視した勇者召喚」が行われたあの日、「ここを出て行く」と言った春風に怒って斬りかかろうとして返り討ちにあった、ルーセンティア王国の若い騎士だったのだ。
しかし、その人物ーー若い騎士は怒りで我を忘れてしまっているのか、
「か、神を! 神を殺すだと!? そんな事、許すものか!」
と、レナに向かってそう怒鳴ったので、
「はぁ? 何よアンタ、やろうっての?」
と、レナは挑発するような感じでそう言い返した。
それを聞いて、
「え、ちょっと待って2人共……」
と、春風が「待った」をかけようとしたその時、
「やめないかエヴァン!」
と、慌てた様子のヘクターが現れて、若い騎士をガシッと取り押さえた。
その後、ヘクターの後に続くように、
「エヴァン……」
と、ルイーズも食堂に現れた。
その様子に春風を含めた周囲の人達が、「何だ何だ?」と頭上に「?」を浮かべていると、
「皆様方、大変申し訳ありませんでした」
「……申し訳ありませんでした」
と、ヘクターとルイーズは若い騎士の頭を押さえつけながら、深々と頭を下げて謝罪した。
その様子に春風達が「え、何この状況?」と言わんばかりにキョトンとしていると、アマテラスがヘクター達の前に出て、
「彼は、あなたの部下かしら?」
と、チラリと若い騎士を見ながら、ヘクターに向かってそう尋ねると、
「は、はい、その通りです異世界の神様。 彼の名は、エヴァン・クルーニー。私達と同じルーセンティア王国の騎士にして、こちらのルイーズの弟にございます」
と、ヘクターはチラリとルイーズを見ながらそう答えた。
その答えを聞いて、
(へぇ、弟さんだったんだ)
と、春風が心の中でそう呟いていると、
「ふーん。そうなんだぁ」
と、アマテラスはジィッとその若い騎士ーーエヴァンに視線を向けると、すぐにヘクターに視線を戻して、
「私の事をそう呼ぶって事は……もしかして今の話、聞いてた?」
と、再びヘクターに向かってそう尋ねた。
その質問にも、ヘクターは答える。
「はい。盗み聞きなど騎士にあるまじき行いなのは重々承知ですが、何やらただならぬ空気を感じ、無礼を承知であなた様の話を聞かせてもらいました」
「へー、そうなんだ。で、話を聞いてる最中に、レナちゃんの『神を殺す宣言』を聞いたそこの彼が、怒りに任せて入ってきた、と?」
「はい。その通りでございます」
と、ヘクターは答えると、最後に「申し訳ありませんでした」と付け加えた。
それを聞いたアマテラスは「ふーん……」とまたエヴァンに視線を向けると、
「エヴァン・クルーニー」
と、彼をフルネームで呼んだ。
それにエヴァンがピクッと反応すると、
「あなたの事はよーく覚えてるよぉ。『勇者召喚』が行われたあの日、春風君に斬りかかってきた騎士よねぇ?」
と、若干怒気を含んでいるかのような口調でそう尋ねた。
その質問に、エヴァンはピクッとなりながらも、
「……その通り……です」
と、体をブルブルと震わせながら答えた。
その答えを聞いて、
「私、あれには超怒ってるんだよねぇ。何せ、いきなり斬りかかってきたんだから」
と、アマテラスが更に怒気を含ませたかのような口調でそう言うと、
「……っ」
と、エヴァンは体を硬直させたが、
「……あの時の事は、私も大変申し訳なく思ってます。こちらの都合に巻き込んでおきながら、ウィルフレッド国王陛下にハッキリと自分の意志を示した彼に剣を向けたのですから」
と、若干体を震わせながらも、チラリと春風を見ながら、アマテラスに向かってそう言った。
その言葉を聞いて、
「あら、意外ね。で?」
と、アマテラスがまたそう尋ねると、
「その後、彼がギデオン・シンクレア大隊長を破ったという話を聞き、彼にもう1度会う為にウィルフレッド陛下に無理を言って、イヴリーヌ様達に同行させてもらいましたが、私もヘクター隊長と共にあなたの話を聞き、ショックを受けた時に……」
と、エヴァンはそう答えた。
「あなたもレナちゃんの『神を殺す宣言』を聞いて、頭に血が上ったと?」
と、またそう尋ねてきたアマテラスに、
「その通りです。大変、申し訳ありませんでした」
と、エヴァンはそう答えながら謝罪したので、
「なるほどねー……」
と、アマテラスはそう言って考える仕草をすると、
「春風くーん」
と、春風に声をかけたので、
「はい、何ですか?」
と、春風はそう返事すると、
「彼、春風君ならどうする?」
と、エヴァンを指差しながら尋ねてきた。
それに春風は「うーん」と唸ると、エヴァンに近づいて、
「えっとぉ、エヴァン・クルーニー……でしたよね?」
と、恐る恐る尋ねた。
それにエヴァンが「あ、ああ」と返事すると、
「改めてはじめまして。アマテラス様の話を聞いてなら理解出来てると思うけど……俺は雪村春風。アマテラス様が言ってたように、地球の神オーディンの契約者にして固有職能『見習い賢者』の固有職保持者だ」
と、春風はエヴァンに向かってそう自己紹介した。
そんな春風を、
ーーいや何やってんの!?
と、周囲がギョッとなりながら見つめていると、
「あのですね……指、大丈夫ですか? 確か、右手の指だったと思ったんですけど……」
と、春風は再び恐る恐るそう尋ねた。
その質問に対して、エヴァンは「え?」とキョトンとなったが、すぐに春風が言ってたのが、あの日エヴァンが春風に斬りかかろうとして指にダメージを受けた時の事かと理解し、
「あ、ああ問題ない。あれからしっかりと治療してきたからな。問題なく剣を握る事が出来る」
と、春風に向かってそう答えると、春風は「そうですか」とほっと胸を撫で下ろし、
「それじゃあ、エヴァンさんとやら」
と、またエヴァンに向かって話しかけた。
それを聞いて、エヴァンが頭上に「?」を浮かべていると、
「あの日のリターンマッチ、する気はありませんか?」
と、春風はエヴァンに向かってそう尋ねてきたので、
『……え?』
と、エヴァンだけでなく周囲の人達までもが一斉に首を傾げた。