第103話 そして、「全て」が語られた
それからアマテラスは、歩夢ら勇者達、イヴリーヌ、キャロライン、レオナルド、アデレードに、「ルール無視した勇者召喚」から始まった、エルード地球、2つの世界に迫る危機と、それを阻止する為にオーディンと契約した春風をこの世界に送り込んだ事。更には現在この世界で暮らしている人間が実は元からこの世界で生まれた存在ではなく、500年前にこの世界に攻めてきた「侵略者」の子孫である事と、彼らから「邪神」と呼ばれているヘリアテスともう1柱ループスこそがこの世界の本当の神様だという事。また更に、2柱は500年間神としての力を奪われた状態で封印され、その封印から目覚めた後、赤ん坊だったレナと出会い、以後この世界で新たに生まれた存在である「精霊」達と共に彼女を育ててきた事。そして、最後に最も重要な事なのだが、
「あ、そうそう、大事な人を忘れてた!」
と、思い出したかのように春風がそう言うと、ズボンのポケットから魔導スマホを取り出して、
「グラシアさん」
と、画面に向かってそう呼ぶと、
「はい」
という返事と共に、画面から若い女性の幽霊が現れたので、
『え、ど、どちら様!?』
と、クラスメイト達がギョッとなると、
「紹介するね。こちらは元・固有職保持者のグラシアさん。今は見ての通り幽霊だよ」
と、春風はその女性の幽霊ーーグラシアを紹介し、
「はじめまして、グラシア・ブルームと申します。春風様の言うように、元・固有職保持者で、今は幽霊の身ですが、以後、よろしくお願いします」
と、グラシアも笑顔でそう自己紹介した。
次の瞬間、
『出たぁ! 幽霊だぁあああああっ!』
と、クラスメイト達が悲鳴あげたので、
(ま、普通はそうなるわな)
と、春風は心の中でそう呟きながら、「はは……」と苦笑いした。
まぁとにかく、その後グラシアを交えて最も重要な事……即ち、彼女が生前に遺した「本当の予言」と、春風とレナ、そしてまだ見ぬもう1人こそが、その予言に出てくる「3人の悪魔」だという事を、クラスメイト達に話した。
「……とまぁ、これで話は終わり」
と、そう締め括ったアマテラス。彼女の話を聞いて、クラスメイト達も、イヴリーヌ、キャロラインら皇族達も、顔を真っ青にした。
そんな状況の中、
「そ、それは……本当の事なのですか?」
と、イヴリーヌは顔を真っ青にしたまま、恐る恐るアマテラスにそう尋ねると、
「残念だけど、全て事実よ。あなた達が行った『勇者召喚』の所為で、この世界と地球は消滅の危機に陥ってしまった。この責任、一体どう取ってくれるのかしら?」
と、アマテラスはイヴリーヌに鋭い視線を向けながらそう尋ね返してきたので、
「そ……それ……それ、は……」
と、イヴリーヌは更に顔を真っ青にして、その場に膝から崩れ落ちた。
そんなイヴリーヌを、
(うん。そりゃそうなるよね)
と、春風が少し心配そうに見つめていると、
「……何だよそれ」
という声がしたので、春風は「ん?」とその声がした方へと向いた、正にその時、
「雪村ぁ、お前! 何でこんなとんでもねぇ事教えてくれなかったんだよ!? この世界に召喚されたあの日の時点で、教える事が出来たんじゃねぇのかよ!?」
と、怒りに満ちた表情の鉄雄が、春風の肩を掴みながら問い詰めてきた。
その質問に春風が「それは……」と答えようとすると、
「おい、よせよ暁!」
「そうだよ! 雪村君だって凄く辛かったんだから!」
と、進と耕が止めに入ってきたので、
「ちょ、ちょっとぉ、近道君に遠畑君。2人共やけに落ち着いてないかい?」
と、そんな2人を見た恵樹がそう尋ねてきた。
その質問に対して、
「……まぁ、俺らは帝城で雪村がやった事を聞いた時から、何かあったんじゃねぇかって考えてはいたさ」
「う、うん。それでも実際に話を聞いたら、結構キツかったけどね」
と、進と耕は若干気まずそうにそう答えた。
するとそこで、
「……あの日」
と、春風が口を開いたので、鉄雄達は一斉に春風に視線を向けた。
「召喚が行われた時、アマテラス様達から話を聞けたのは俺だけだった。でも、あくまで話を聞いただけだったから、みんなを納得させる確証なんて持ってなかった。ましてや俺は固有職保持者。しかも未熟な「見習い」とはいえ、この世界で最初に生まれた固有職保持者と同じ『賢者』の固有職能を持っているんだ。そんな状態であそこに留まってたら、いずれ俺の正体がバレて、何をされるかわかったもんじゃない」
と、春風がそう説明すると、
「……だから、私達のもとから離れたの?」
と、歩夢がそう尋ねてきたので、
「……ごめん」
と、春風は申し訳なさそうにコクリと頷きながら謝罪した。
しかし、それに納得出来なかったのか、
「で、でもよぉ! それでも時間かけて、じっくりと説明してくれれば……!」
と鉄雄が文句を言おうとしたが、
「暁君。俺は学校の中では君達とそんなに交流してなかったんだよ? そんな人間と、救いを求める大勢の人達、どっちが信用出来ると思う?」
と、逆に春風にそう尋ねられてしまったので、鉄雄は思わず「うっ!」と呻くと、悔しそうに顔を歪めながら肩から手を離すと、イヴリーヌと同じようにその場に崩れ落ち、
「チクショオオオオオッ!」
と叫びながら、思いっきり床を殴った。
その時、
「……あのさぁ、春風。それに、レナ……さん」
と、水音がそう口を開いたので、
「ん?」
「何?」
と、2人がそう返事すると、
「君達の事情はわかった。わかったけど、敢えて聞くよ」
「「?」」
「2人共、本気で『神様』を殺す気なの?」
と、水音は暗い表情でそう尋ねてきた。
それが、「五神」こと敵の親玉達の事だと理解すると、
「……殺すよ。それで私を育ててくれた、大好きなお父さんとお母さんの力を取り戻せるなら」
と、まずはレナが真っ直ぐ水音を見てそう答えた。
そして、彼女に続くように、
「俺は……」
と、春風が答えようとした、正にその時……。
「ふざけるなぁ!」
『っ!?』
怒声と共に、1人の人物が食堂に現れた。