第102話 「神」・3
「さてと。次は、こっちね」
と、そう言ったアマテラスに視線を向けられ、イヴリーヌ、キャロライン、レオナルド、アデレードはビクッとなった。その視線の鋭さに、イヴリーヌはガタガタと体を震わせ、キャロラインは平静を装うとしてはいるが額からタラリと冷や汗を流し、レオナルドとアデレードはその様子を見て緊張していた。
そんなイヴリーヌ達を前に、アマテラスは口を開く。
「はじめまして、エルードの現在の住人さん。さっきも言ったけど、私は天照大神。あなた達から見て、異世界である『地球』の神の1柱。『アマテラス』って呼んでね」
と、笑顔でそう言ったアマテラスに、イヴリーヌが更に体を震わせる中、キャロラインが意を決したかのように1歩前に出て、
「はじめまして、『地球』の神様。私はストロザイア帝国皇妃、キャロライン・ハンナ・ストロザイアと申します」
と、アマテラスに向かって丁寧なお辞儀をしながらそう自己紹介したので、それを見たアマテラスは、
「あら、これはご丁寧に。こちらこそよろしくね。確かあなたの旦那さん、春風君の事凄く欲しがってたんだっけ?」
と、キャロラインに向かってそう尋ねると、
「はい、その通りです。私の夫、ヴィンセント・リアム・ストロザイア皇帝陛下は、彼、雪村春風を帝国に迎え入れたいと考えております。そして、それは私も同様です」
と、キャロラインは深々と頭を下げながらそう答えた。
それを聞いてアマテラスは「ふーん」と返事すると、
「その……アマテラス様……で、よろしいでしょうか?」
と、キャロラインが頭を下げた状態でそう尋ねてきたので、
「ええ、構わないわ。何かしら?」
と、アマテラスはそう尋ね返すと、
「彼、雪村春風は、あなたがこの世界に送り込んだのですか?」
と、キャロラインは更にそう尋ねた。
その質問に、鉄雄、恵樹、詩織の3人が「え?」と反応し、残りのクラスメイトである歩夢、美羽、水音、進、耕、祭、絆、祈の8人がアマテラスに視線を向ける中、アマテラスは無言で春風の傍に立ち、その両肩を軽く掴んで、
「そうよ。この子、春風君は、私と同じ『地球の神』の1柱、オーディンの契約者にして、私達『地球の神々』がこの世界に送り込んだ人間……まぁ、言ってみれば『神の使徒』って感じかな」
と、キャロラインに向かってそう答えた。
それに春風が「ちょ、アマテラス様!?」とギョッとなり、クラスメイト達は、
「え、えぇ!?」
「な、なぁ、『オーディン』って確か……」
「北欧神話の……最高神」
と、驚きのあまりダラダラと大量の汗を流した。
一方、イヴリーヌ、レオナルド、アデレードも、春風の正体を知って「ああ、やっぱり……」と愕然としていたが、キャロラインは何処か落ち着いた様子で、
「そう……でしたか」
と、そう呟いた後、
「無礼を承知でお尋ねしますが、何故、そのような事をしたのですか?」
と、アマテラスに向かってまた更に尋ねた。
その質問にアマテラスは「む」と反応した後、
「決まってるでしょ。彼にこの世界と地球の2つの世界と、この世界の本当の神様、『太陽と花の女神ヘリアテス』と、もう1柱『月光と牙の神ループス』を救ってもらう為よ」
と、春風とヘリアテスを交互に見ながらそう答えた。
その答えにクラスメイト達が「えぇ!?」と驚いていると、
「ちょ、ちょっと待ってください! 今のはどういう意味ですか!?」
と、それまで黙って体を震わせていたイヴリーヌがそう声をあげたので、それにアマテラスが「ん?」と反応すると、イヴリーヌははっとなって、
「も、申し訳ありません! 名乗るのが大変遅くなってしまいましたが、わたくしは、ルーセンティア王国第2王女、イヴリーヌ・ヘレナ・ルーセンティアと申します!」
と、大慌てでアマテラスに向かってそう自己紹介すると、アマテラスは目を細めて、
「ああ、知ってるよ。ルール違反者側の人間さん」
と、何処か「怒り」を含んでいるかのような声色でそう返事した。
その言葉にイヴリーヌは「え!?」と大きくビクッとなったが、
「あ、あの……それは……どういう意味でしょうか? 一体、わたくし達ルーセンティアの人間は、何をしてしまったのですか?」
と、体を震わせながらも、どうにか声を絞り出しながらそう尋ねた。
その質問にアマテラスは「それは……」と答えようとすると、
「あ、あの!」
と、水音も声をあげてきたので、
「あら、何かしら『鬼宿し』の末裔君?」
と、アマテラスは水音に向かってそう呼びながら返事した。
それに水音は「え!?」となったが、すぐに首を横に振るって、
「あの、僕達にも教えてください。この世界と、僕達の故郷『地球』に何が起きているのか。彼……春風は何に巻き込まれてしまったのかを」
と、真っ直ぐアマテラスを見てそう言った。そしてそれは、歩夢や美羽をはじめとしたクラスメイト(一部を除いて)も一緒だった。
それにアマテラスは「うーん」と考え込むと、
「……教えてもいいけど、結構キツいよ?」
と水音達に向かって尋ね、その後すぐにイヴリーヌを見て、
「特に、あなたにとって、もの凄く残酷な話になるかもしれないよ? それでも聞きたいの?」
と、尋ねた。
それに水音達とイヴリーヌは、皆「うぅ……」と呻いたが、
『お願いします!』
と、アマテラスに向かってそう答えた。勿論、
「私達にも、教えてください」
キャロライン、レオナルド、アデレードも、アマテラスに向かってそう言った。
全員のその様子に、アマテラスは観念したのか、「ふぅ」とひと息入れると、
「わかった。全部を話すね」
そう言って、水音達に全てを話した。