第100話 「神」
今回はいつもより長めの話です。
「皆さん、はじめまして。私の名はヘリアテス。今は『邪神』と呼ばれている存在にして、レナ・ヒューズの育ての母をしております」
と、そう自己紹介したヘリアテスに、「勇者」ことクラスメイト達は勿論、イヴリーヌやキャロライン、レオナルド、アデレードは何も言えないでいた。
普通だったら、ここで腹を抱えて爆笑するか、
「うっそだぁ! そんなわけあるかぁ!」
と、みんなでツッコミを入れるところだろう。
しかし、彼らはそうしなかった。
何故なら、目の前にいる見た目的に10〜12歳くらいの少女から、とても言葉で表す事が出来ない程の「何か」を感じからだ。それ故に、クラスメイト達はヘリアテスに対して、「彼女は嘘を言ってない」と思い、何も言う事が出来なくなってしまったのだ。
そんな彼らを見て、ヘリアテスは「ふふ」と小さく笑うと、
「それで、『勇者』の皆さん……私を倒しますか?」
と、「勇者」達に向かって尋ねた。
その質問を聞いて、彼らはびくっとなった後、少しの間沈黙して、
「……無理です」
と、その中の1人、水音がそう答えた。
そして彼に続くように、
「俺も無理だわ」
「うん、僕も」
「私もぉ」
「あたしだって……」
と、勇者達全員が「無理」と言い出した。
その言葉を聞いて、
「あら、意外ですね。てっきり『この命をかけてでも!』とでも言うのかと思っていましたが」
と、ヘリアテスは本当に意外なものを見るかのような表情になったので、
『だって、今戦ったら人として終わってしまう気がするから!』
と、水音ら勇者達は「くぅ!」と胸を押さえながら本当に悔しそうな表情をした。よく見ると、中には「ちっくしょう!」と言わんばかりに床を叩き始める者もいた。そんな水音達を見て、
(ま、そりゃそうだよなぁ)
と、春風は「はは」と小さく笑いながら、心の中でそう呟いた。
先程も語ったが、ヘリアテスは力を奪われているとはいえ正真正銘の「神(正確には女神)」ではあるが、見た目は10〜12歳くらいの幼い少女の姿をしているので、そんな彼女に戦いを挑むという事は、事情を知っている者達から見れば「世界の命運を賭けた戦い」なのだが、そうではない者達から見れば「幼い女の子を複数で虐めている」という形になってしまうのだ。
更にヘリアテス自身が、「レナ・ヒューズの育ての親」と名乗っているので、彼女を倒す事は即ち、レナから母親を奪ってしまう事……つまりレナから「親の仇」と思われてしまう事にもなってしまい、故に水音達は「勇者としての使命」と「それ人としてどうなのかという考え」に挟まれてしまい、何も出来ずになってしまったのである。
といっても、現状では後者が勝っているようなのだが。
一方、水音達を召喚した側の人間であるルーセンティア王国第2王女のイヴリーヌはというと、そんな状態の水音達を前にどう声をかければ良いのかわからずにいた。
普通だったらここで、
「皆様、大丈夫です! 相手がどのような見た目をしていても、『勇者』である皆様ならきっと勝てます!」
と、水音達を鼓舞するところだろう。
しかし、イヴリーヌ自身も「邪神」を見たのはこれが初めてなうえに、こう言ってはおかしな事なのが、目の前にいる「邪神」と名乗った幼い少女の見た目をした存在を見て、
(この方は、本当に悪い神様なのでしょうか?)
と、疑問に思ってしまい、水音達と同じようにどうすれば良いのかわからなくなってしまったのだ。
さて、イヴリーヌと勇者達がそんな状態に陥ってる中、
「あのぉ、ちょっとよろしいですか?」
と、キャロラインがそう口を開いたので、その場にいる者達が「ん?」と視線を彼女に向けると、
「えっと、ヘリアテス……様と呼べばよろしいでしょうか?」
と、若干恐る恐るといった感じでヘリアテスに向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、
「うーん、一応『悪しき邪神』と呼ばれている者ですが、構いません」
と、ヘリアテスは何処か困ったような感じの笑みを浮かべながらそう答えたので、キャロラインは「では失礼して……」言うと、
「はじめまして。私はストロザイア帝国皇妃、キャロライン・ハンナ・ストロザイアと申します。『神』であるあなた様に無礼を承知で言いますが、少しの間口を開く事をお許しください」
と、キャロラインはそう自己紹介しつつ、「神」を前に喋る許可をお願いしてきたので、
「ええ、良いですよ」
と、ヘリアテスはにこっと笑って許可を出した。
それにキャロラインが「ありがとうございます」とお礼を言うと、ゆっくりと春風を見て、
「春風ちゃん、私達に会わせたいのは、こちらの方だけかしら?」
と、尋ねた。
その質問を聞いて、春風は「あ……」と何かを察したかのような表情になると、
「あー、それはぁ、そのぉ………」
と、言い難そうに頬をぽりぽりと掻いた。
その時、春風のズボンのポケットから、「ジリリリ!」と大きな音がしたので、その音にキャロラインだけでなく水音ら勇者達とイヴリーヌまでもが「何事!?」と驚いていると、
「やっぱ、そうだよなぁ」
と、春風は冷や汗を流しながらポケットに手を入れて、そこから音の発信源……魔導スマホを取り出した。
それを見て、
「え、なんでスマホが鳴ってんだ?」
と、鉄雄が頭上に「?」を浮かべる中、春風は魔導スマホの画面に映ってる名前を見て、
「ははは……」
と苦笑いした後、魔導スマホを操作して、
「はい、もしもし」
と、言った。
その様子を水音達が「な、なんで……?」と言わんばかりにジィッと見つめていると、
「わかりました」
と、春風はそう言って魔導スマホの画面を天井に翳した。
次の瞬間、画面の上に魔法陣が描かれて、そこから白いワイシャツと青いジーンズ姿をした、長い黒髪を持つ若い女性が、
「やっほー、日本の子供達ぃ!」
と、笑顔で言いながら出てきた。因みに、足は裸足である。
突然現れた若い女性に、
「あ……あなたは?」
と、水音が恐る恐るそう尋ねると、
「私は天照大神。日の本の『太陽』を司る女神。『アマテラス』って呼んでいいからね」
と、その女性……アマテラスは笑顔でそう名乗った。