第97話 そして、「邂逅」の時へ
「接触したというか……今、一緒に暮らしてます」
という春風のセリフから少し時が経ち、現在春風達は、ルーセンティア王国の馬車に乗って、とある場所に向かっていた。といっても、行き先は1つだけなのだが。
馬車の中はそれなりに広く、今、その中にいるのは、春風とレナ、歩夢、美羽、凛咲、そしてイヴリーヌの6人である。因みにディックはというと、他のクラスメイト達と共にストロザイア帝国の馬車に乗っている。
さて、そんなルーセンティアの馬車の中では、誰1人喋る事なく何処か重苦しい雰囲気に満ちていた。そんな状況の中、
「あのさ、レナ」
と、春風が目の前にいるレナに向かって話しかけてきたので、
「? 何、春風」
と、レナが返事すると、
「勝手な事して、ごめん」
と、深々と頭を下げて謝罪した。
それを聞いて、歩夢、美羽、凛咲、イヴリーヌが春風に視線を向ける中、レナは穏やかな笑みを浮かべて、
「うんうん、大丈夫だよ春風。ここまできたからには、ちゃんと話さなきゃいけないのは、私にもわかってるから」
と、春風に向かって優しくそう言ったので、その言葉に歩夢達が今度はレナに視線を向けていると、
「春風こそいいの? 私達の事を話すって事は、春風の事も話さなきゃいけないんだよ?」
と、今度はレナが春風に向かってそう尋ねてきたので、
「……ああ、そうだね。不安だけど、俺も全部話さなきゃいけないと思うから」
と、春風は真っ直ぐレナを見てそう答えた。そんな様子の春風を、歩夢達(凛咲を除いて)は不安な表情で見つめていたが、彼に声をかける者は誰もいなかった。
そしてそれから少しすると、馬車が目的の場所に到着したので、春風達は馬車から降りた。
着いた場所は、
「うわぁ! でっけぇ家!」
「ねぇ雪村君! もしかしてここが!?」
「ああ、俺達が今暮らしてる家だよ」
勿論、フロントラル居住区にある、春風と仲間達が暮らしている家の前だ。
その立派な家の前で、
「まぁ、結構素敵なお家じゃないのぉ!」
と、キャロラインが目を光らせながらそう言ったので、
「あ、ありがとう……ございます」
と、春風は顔を赤くしながらそう言った。勿論、春風だけでなくレナ、ディックも同様だ。そんな様子3人に向かって、
「それで、一応聞くけど、家主は誰かしら?」
と、キャロラインがそう尋ねてきたので、
「あ、一応……俺です」
と、春風は恥ずかしさで顔を更に赤くしながらそう答えた。その答えに、
『ま、ま、マイホームだとぉおおおおおっ!?』
と、クラスメイト達はショックで驚きに満ちた表情になったが、その後すぐに、
「……あれ、ちょっと待って」
と、一緒に驚いていた水音が、何かに気付いたような表情になって、
「春風。今、『俺達』って言ってたよね? もしかして……」
と、チラリとレナを見ながら春風に向かってそう尋ねると、春風は「う!」とタラリと汗を流して、
「あー、うん。レナも……一緒です」
と、水音と同じようにチラリとレナを見ながらそう答えた。
その答えに、歩夢と美羽が更にショックを受けたのは言うまでもなく、
「フーちゃん」
「春風君」
と、2人は春風の肩をガシッと掴んで、
「「空いてる部屋……ある?」」
と、尋ねた。その質問に反応したのか、レナが2人を「むむ!」と睨む中、
「あー、うん。あるけど……」
と、春風がだらだらと滝のように汗を流しながら答えると、
「「お願い! 一緒に住まわせて!」」
と、2人同時にそんな事を言ってきた。よく見ると、目に涙を浮かべていたので、
「ちょ、2人とも……!」
と、春風が困った表情になると、
「ちょぉおっとぉおおおおおっ! 勝手な事言わないでよぉ!」
と、レナが怒り出して、
「ていうかアンタ達、春風に近過ぎ! 本人も困ってるみたいだから離れなさいよぉ!」
と、歩夢と美羽に向かって春風から離れろと言ったが、
「「絶対に嫌!」」
と、2人はがしっと春風にしがみつきながら拒否したので、
「うわっ! ちょ、2人とも……!」
と、春風は驚き、
「こぉらぁあああああっ! 離れろって言ってるでしょおおおおおっ!」
と、レナは更に怒って2人を春風から引き剥がそうとした。
そのあまりの出来事に、
「え、えぇ、さ、3人ともやめてよ!」
と、春風は歩夢達を止めようとしたが、
「あー! ずるい! 私も混ぜてよぉ!」
と、凛咲までもが春風に抱きついてきたので、
「し、師匠! 駄目ですって! あ、こら! 何処触ってんですか!?」
と、春風は更に困った表情を浮かべた。
そんな春風達を見て、
「……」
イヴリーヌは無言で顔を赤くし、
「あらあら……」
「「……」」
キャロライン、レオナルド、アデレードは「やれやれ」と言わんばかりの困ったような笑みを浮かべ、
「ねぇみんな。これ、どう思う?」
「当然、罪状に追加な」
「あはは、学級裁判が楽しみだねぇ」
と、クラスメイト達は黒い笑みを浮かべながらそう言った。
やがて、そんな混沌に満ちた状況を、多くの人達が見つめていたので、
(や、やばい! このままだとご近所さんに変な誤解をされてしまう!)
と、春風がそう感じていると……。
ーーガチャリ。
と、春風と仲間達が暮らす家の玄関の扉が開かれた。