第95話 修羅場の予感?
「君は……あのレナって子と何処まで進んでるの?」
と、そう尋ねてきた水音に対して、
「あ、大丈夫。彼女とは『仲間』以外何もないから」
と、春風は真顔で即答した。
その瞬間、部屋の中であるにも関わらず、何故かヒュウッと風が吹き抜けた。
そんな状況の中、
「その即答ぶり、本当のようだね」
と、水音が「はぁ」と溜め息を吐きながらそう言うと、
「当たり前だろ。全く、何を期待してるんだよ?」
と、春風は呆れ顔でそう言ったので、水音だけでなく歩夢に美羽、暁や野守、そしてもう1人の少女を除いたクラスメイト達は、春風に対して疑いの眼差しを向けた。
その視線を受けて、
「え、水音、何その目? ていうか、近道君、遠畑君、出雲さんに時雨さん晴山さんまで一体何なの?」
と、春風が戸惑いに満ちた表情になると、水音は無言で自身のズボンのポケットから何かを取り出した。
それは、シンプルな装飾が施された、手の平サイズの水晶玉のようで、
「み、水音、それ、何?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、
「僕達の世界でいう『ビデオカメラ』のような機能を持った魔導具だよ。魔力を込めて使うんだ」
と、水音はその水晶玉を見ながらそう答えたので、
「え、マジで?」
と、春風が大きく目を見開くと、水音は早速その魔導具に自身の魔力を込めた。
次の瞬間、魔導具から眩い光が発せられ、それが収まると魔導具の上に立体映像のようなものが出てきた。
その映像を見て、
「あ、これって……!」
と、春風は再び大きく目を見開いた。
「俺とヴァレリーさんとの戦いじゃないか!」
そう、そこに映ってたのは、春風がハンターの登録を終えてすぐに、ヴァレリーと戦う事になった時の映像だった。
「覚えてるかい? この時の事」
と、その映像を見せながら水音がそう尋ねると、
「ああ、覚えてるよ。うわぁ、あの戦い記録されてたのかぁ」
と、春風は「なんてこった!」と言わんばかりに手で顔を覆いながら言った。当然、春風だけでなくヴァレリーも同じような反応をしていた。
その後始まる春風とヴァレリーの戦い。春風は懐かしいものを見るかのようにその映像を眺め、歩夢、美羽、暁、野守、もう1人の少女、そして、イヴリーヌと2人の騎士までもが、その映像をじぃっと見つめた。
それから暫くして、
ーーそ、それまで! 勝者、ハル!
と、審判役の男性がそう宣言したところで、水音はその映像を止めた。
『おおぉ!』
と、映像を見てそう声をあげた歩夢や美羽、イヴリーヌ達。反対に春風はというと、
「うーん。自分で言うのもなんだけど、もう少しマシな戦い方があったような気がするなぁ……」
と、冷静な表情でそう感想を述べていた。
その後、
「で、この映像が何なの?」
と、春風が水音にそう尋ねると、
「……まだ思い出さない?」
と、水音はジト目でそう答えたので、春風は「え?」と首を傾げていると、水音はその映像を動かした。
映し出されたのは、ヴァレリーとの戦いの後、総本部長であるフレデリックの登場。
それを見た瞬間、
(……あれ? た、確かこの後って……)
と、春風は猛烈に嫌な予感がした。
そして、映像の中のフレデリックが去った次の瞬間、
ーーうわ! れ、レナァ!?
ーーよかった。春風が無事で本当によかった。
ーー……ごめん、レナ。心配かけて。
レナが春風に抱きついたシーンが映し出された。
それを見た瞬間、部屋の中が一気に沈黙した。
誰もが無表情になる中、
(や、やばい……)
と、春風は滝のようにダラダラと汗を流していると、
「ねぇ、春風」
と、水音が話しかけてきたので、
「な……何?」
と、春風が恐る恐る返事すると、水音は親指で映像を指差して、
「これ、どういう事?」
と、黒いオーラを発しているかのような笑みを浮かべながら尋ねてきた。
その質問に対して、
「……誤解なんです。ていうか不意打ちなんです」
と、春風がそう答えると、
「フーちゃん」
「春風君」
と、歩夢と美羽が春風の肩をガシッと掴んできた。
彼女達だけではない。
「ハニー」
という声がしたので、ハッとなった春風がその声がした方へと振り向くと、
「し、師匠」
と、ドアの隙間からじっと見つめてくる凛咲の姿があった。
何故かレナとレクシーも一緒にだ。
それを見て、春風は更に滝のように汗を流すと、
『一体どういう事?』
と、歩夢達が尋ねてきたので、
「ご、誤解なんだよぉ!」
と、春風はそう悲鳴をあげた。