第92話 レナと「獣人の騎士」
「嘘……まさか……獣人?」
「はい。私の名は、レクシー・グラント。ストロザイア帝国近衛騎士にして……あなたと同じ、獣人ですよ」
と、レナに向かってそう自己紹介した「獣人」の少女。彼女がそう名乗り終えると、頭から出た獣の耳がピコピコと動き、お尻から出た獣の尻尾もフリフリと動いた。
そんな少女、レクシーの姿に、春風をはじめとしたその場にいる誰もが呆然としていたが、ただ1人、凛咲だけは「ふーん」と小さく呟くと、スッと立ち上がってレナから離れた。
「あ……」
と、それに気付いたレナもスッと立ち上がると、レクシーを見つめながら変身を解いた。解いたと言っても、左腕の腕輪を外してから変身を解いた為、その姿は人間ではあるが、頭からは狐の耳が生えていて、お尻からも狐の尻尾が出ていた。
その姿を見て、春風、凛咲、ディック、オードリー、フレデリック、ヴァレリー、タイラーを除いた周囲の人達は「おぉ……」と見惚れる中、レナは一歩前に出ようとしたが、
「……あ」
と、急にシュンとしおらしくなってその場に立ち止まった。
よく見ると、何処か怯えている様子だったので、
「? どうしたんですか?」
と、レクシーが首を傾げながら尋ねると、
「……私、ハンターのレナ・ヒューズ。私は『獣人』だけど……そのぉ」
と、レナは恐る恐るそう答えたので、
「あ、もしかして……」
と、何かに気付いたレクシーが小さな声でそう呟くとレナの傍に近づいて、
「ちょっと失礼します」
と言って、クンクンとレナに鼻を近づけた。
「な、何?」
と、今度はレナがレクシーに向かってそう尋ねると、
「なるほど。あなた獣人と妖精のハーフですね?」
と、レクシーはそう尋ね返した。
その質問にレナはビクッと更に怯え、周囲から「ええぇ!?」と驚きの声があがった。
そんな状況の中、
「う、うん。あなたの言う通り、私は獣人と妖精のハーフ。純粋な獣人じゃないから……」
と、レナがレクシーに向かってそう言うと、
(あ、そうか)
と、春風は今気付いたかのようにハッとなった。
どうやらレナは、自分が獣人と妖精のハーフだから、「純粋な獣人以外は仲間じゃない」と言われるのを恐れているようだ。
それを理解した春風は、恐る恐るレクシーの方へと視線を向けると、
「大丈夫ですよ。私の知り合いにも、あなたと同じ妖精と獣人のハーフがいますから」
と、レクシーは穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
その言葉を聞いて、レナだけでなく周囲の人達までもが「え、まじで!?」と驚く中、
「というか、あなた狐の獣人ですよね?」
と、レクシーがレナに向かってそう尋ねたので、
「ふえ!? う、うん、そうだけど」
と、レナは大きくコクリと頷きながらそう答えると、
「でしたら、何の問題もありません。元々、狐の獣人というのは妖精と交わる者が多くいますから」
と、レクシーは穏やかな笑みを崩さずにそう言うと、最後に「大丈夫です」と付け加えた。
その言葉を聞いて、レナは「う……」と泣きそうになると、
「ご、ごめん……なさい。私……あなたに……」
と、先程レクシーに言った暴言(?)について謝罪しようとしたので、
「ああ、気にしないでください。悪いのはキャロライン様ですから」
と、スッと手をあげて「待った」をかけながらそう言ったので、
「あれ? そこで私にふるの?」
と、キャロラインは文句を言おうとしたが、
「……そうね。私が原因だものね」
と、すぐに申し訳なさそうな表情になり、レナに近づいて、
「ごめんなさいね。あなたの大切な存在を貶すような事を言って」
と、優しく抱き締めながら謝罪した。
その言葉にレナが「あ……」と声をもらすと、キャロラインはレクシーを見て、
「レクシーちゃんも、ごめんなさいね」
と、彼女にも謝罪し、それに対して、
「当然ですよ。私だって怒ってるんですから」
と、レクシーは「反省してください」と言わんばかりの眼差しをキャロラインに向けた。
その眼差しを受けて、キャロラインが「はい……」とシュンとなる中、
「う……うぅ……私も……申し訳……ありません……でした」
と、レナはキャロラインの腕の中で、震えた声でそう謝罪したので、
「……」
キャロラインは、無言でレナの頭を優しく撫でた。