第91話 怒りのレナ・2
「こぉろすぅううううう!」
「やめるんだ! レナ!」
怒りのままにキャロラインに飛びかかる獣人化したレナと、それを止めようと彼女の前に飛び出した春風。
「春風!」
「フーちゃん!」
「春風君!」
それを見て、水音、歩夢、美羽が春風のもとへと駆け寄ろうとした、次の瞬間、
「こぉら!」
「っ」
突如、レナの背後に2つの人影が現れて、
「がはっ!」
レナを思いっきり床に押さえつけたのだ。
『……え?』
突然の事に目をパチクリとさせる春風達。
数秒程呆然としていたが、すぐにハッと我に返って、レナを押さえつけている2人の人物に視線を向けた。
その内の1人が口を開く。
「大丈夫、ハニー?」
と、春風に向かってそう言ったその人物を見て、
「あ、師匠」
と、春風がそう呟くと、
「……え? し、師匠ぉ!?」
「「マリーさん!?」」
と、水音、歩夢、美羽が驚きに満ちた表情でそう叫んだので、
「あら、水音に歩夢ちゃん、美羽ちゃんじゃない」
と、その人物……「師匠」「マリーさん」こと陸島凛咲は「久しぶり」と言わんばかりの笑顔でそう言った。そんな凛咲を見て、
「え、ちょっと待って! どうして師匠がここに……って」
と、驚きに満ちた表情の水音が、ふとレナを押さえつけてるもう1人の人物に視線を向けると、
「え、レクシーさん!?」
と、その人物を見てそう呼んだので、春風達も「え?」とその人物を見た。
その正体は、長い栗色の髪をした春風と同じ年頃の少女で、全身には特にこれといった装飾のない、かつ動きやすそうなシンプルな鎧を纏っていた。
そんな鎧姿の少女に、
「あらあら、レクシーちゃんじゃないの。どうしてここに?」
と、キャロラインがそう尋ねると、
「申し訳ありませんキャロライン様。実はエレクトラ様より『水音と祈に悪い虫がつかないよう守ってほしい』という命令を受けていたのですが、キャロライン様に危険が迫っていましたので……」
と、「レクシー」と呼ばれた少女はレナを押さえつけたままそう答えたので、
(え? 水音と……時雨さんを守れって、どういう事?)
と、春風は心の中でそう疑問に思い、
「まぁそうだったの。ありがとうレクシーちゃん。でも、エレンちゃんったら、しょうがないんだから……」
と、キャロラインは少女……以下、レクシーにお礼を言いつつ、呆れ顔になった。
すると、
「離せ! 離せぇえええええ!」
と、凛咲とレクシーに押さえつけられていたレナが、ジタバタと暴れながらそう叫んだ。「暴れながら」といっても、強い力で押さえつけられているのか、全然2人から脱出出来ていないが。
そんなレナに向かって、
「こらこら、落ち着きなさいって」
と、凛咲はそう言いながら押さえる力を強くしていると、
「彼女の言う通りです。どうか、落ち着いてください」
と、レクシーも押さえる力を強くしながら、落ち着いた口調でそう言ってきたが、
「うるさい! 邪魔をするならアンタも……!」
と、レナはレクシーを睨みながらそう怒鳴った。
それを聞いて、
「レナ、やめるんだ……!」
と、春風もレナを落ち着かせようとした、まさにその時、
「……多分、あなたは私を攻撃出来ないと思います」
と、レクシーは落ち着いた口調のままそう言ってきたので、レナだけでなく春風や周囲の人達までもが「え?」となると、
「……申し訳ありませんキャロライン様」
と、レクシーはキャロラインを見て本当に申し訳なさそうに謝罪した。
それを聞いて、キャロラインは何かを察したのか、
「大丈夫。私が許すから」
と、レクシーに向かって穏やかな笑みを浮かべながらそう言ったので、
「ありがとうございます」
と、レクシーはそうお礼を言うと、スッと立ち上がって静かにレナから離れた。
そして、自身の首についているチョーカーのようなものを外すと、彼女の体が眩い光に包まれたので、
(うわ、眩しい!)
と、春風と周囲の人達は思わず目を閉じた。
その後、
「皆さん、もういいですよ」
というレクシーの声が聞こえたので、春風達はゆっくりと目を開けると、
「……え? その姿は……」
そこには、頭からは獣の耳を、お尻のあたりから獣の尻尾を生やしたレクシーの姿があった。
その姿に誰もが口をあんぐりしている中、
「嘘……まさか……獣人?」
と、レナが驚愕に満ちた表情でそう言うと、
「はい。私の名は、レクシー・グラント。ストロザイア帝国近衛騎士にして……あなたと同じ、獣人ですよ」
と、レクシーはレナに向かってそう自己紹介した。