第90話 怒りのレナ
「春風から離れろぉ!」
怒りの形相でそう叫んだレナ。そんなレナに向かって、
「れ、レナ、何でここに?」
と、春風はキャロラインに抱き締められた状態のままそう尋ねたが、
「ふー! ふー!」
と、怒りのあまり我を忘れているのか、レナは答える代わりに肩で息をしていた。
突然のレナの登場に、周囲が目をパチクリとしている中、
「ねぇ、フーちゃん。あの子、ルーセンティア王国からフーちゃんを連れ出した子だよね?」
「ていうか春風君。今、あの子の事名前で呼んでなかった?」
と、歩夢と美羽は黒いオーラを纏った笑みを浮かべながら春風に向かってそう尋ね、
「ふ、2人とも。質問したい気持ちはわかるけど、今はそれどころじゃないから」
と、水音は2人に向かって「待った」をかけた。
しかし、そんな3人を他所に、
「あらあら、あなたがレナ・ヒューズちゃんね? いつからそこにいたのかしらぁ?」
と、キャロラインは何処か挑発するかのような笑みを浮かべながら、レナに向かってそう尋ねた。その質問を聞いて、
(そ、そうだよね。いつの間に来てたんだ?)
と、春風が頭上に「?」を浮かべていると、
「あ、アニキ……」
と、部屋の出入り口からディックが恐る恐る顔を出してきたので、
「あ、ディックも来てたの?」
と、その存在に気付いた春風がそう尋ねると、
「ご、ごめん、レナさんを止められなかった」
と、ディックは申し訳なさそうに謝罪した。それを聞いた瞬間、
(あれ? もしかして結構前からいたりするのかな?)
と、春風はそう疑問に感じ、
「ねぇ、フーちゃん。今、あの男の子から『アニキ』って呼ばれてなかった?」
「何? 春風君、ちょっと見ない間に弟作ってたの?」
と、歩夢と美羽は更にどす黒いオーラを纏った笑みを浮かべながらそう尋ね、
「ふ、2人とも! 今はそんな場合じゃ……」
と、水音は大慌てで2人を落ち着かせていたが、
「離れろって言ってるんだ!」
と、それを遮るかのように、レナが再びそう叫んだ。
その叫びに部屋にいる者達はビクッとなってその場から動けずにいたが、
「あらぁ、そんな怖い顔したら折角可愛い顔が台無しよぉ?」
と、キャロラインは笑顔で更に挑発するかのように言った。その笑みに何やらどす黒いものを感じた春風だったが、
「れ、レナ。俺は大丈夫だか……!」
と、今はそれよりもレナを落ち着かせようと抱き締められた状態のままそう言おうとしたが、言い終わる前に、
「むぎゅ!」
と、キャロラインは更に春風を抱き締める力を強くしたので、
「貴様ぁ!」
と、レナはそう叫んで更に怒りに顔を歪ませた。それだけではない。今にもキャロラインに向かって飛びかかろうとする体勢にも入っていた。
これには流石に、
「キャロライン様、これ以上彼女を挑発しては……」
と、オードリーも「いけない!」と焦ってキャロラインを注意しようとしたが、
「丁度よかったわぁ、あなたに聞きたい事があるの」
と、言い終わるより早くキャロラインがレナに向かってそう言ったので、レナは怒りの形相のまま「あぁ?」と首を傾げると、
「あなた、今、世間を騒がせている『邪神』達の関係者なの?」
と、キャロラインは笑顔でそう尋ねてきた。
その瞬間……。
ーープチン。
「……あ?」
レナの中で、何かが切れた音がしたのを感じて、
「キャロライン様! その質問は……!」
と、春風がそう口を開いたが、
「今、何て言った?」
と、レナが静かにそう尋ねてきたので、その質問に危険なものを感じた春風は、
「だ、駄目だ! レナぁ!」
と、レナに向かってそう叫んだが、
「あら、『邪神達の関係者なの?』って聞いただけなんだけど?」
と、キャロラインはレナに向かって悪びれもなくそう答えた。
その答えを聞いた瞬間、
「おぉまぁえええええええっ!」
レナは白い光に包まれて、
「私のお父さんとお母さんを『邪神』と呼んだのかぁあああああああ!?」
断罪官との戦いの時に見せた、白い狐の獣人へと変身した。
それを見て、
『へ、変身したぁ!?』
と、クラスメイト達が驚きの声をあげ、
「っ!」
「「イヴリーヌ様!」」
と、イヴリーヌも驚愕に満ちた表情になり、騎士のヘクターとルイーズはそんなイヴリーヌを守ろうと彼女の前に立った。
そして、
「こぉろすぅううううう!」
と、変身したレナはキャロライン(と春風)に向かって飛びかかり、
「くぅ!」
春風は全身に魔力を流した後、強引にキャロラインから離れて、
「やめるんだ! レナぁ!」
と、レナの前に飛び出した。