第89話 帝国の皇族達
「はじめまして、雪村春風さん。私の名前は、キャロライン・ハンナ・ストロザイア。『ストロザイア帝国』、で皇妃を務めているの」
そう名乗ったその女性……キャロラインに対して、春風は表情には出さないが、
(え、『ストロザイア帝国』って確か、『ルーセンティア王国』に並ぶ大国だよな? ていうか、『皇妃』って、『皇帝の奥さん』って意味だよね? え、なんでそんな凄い人がここに?)
と、心の中では幾つもの「?」を浮かべていた。
そんな春風の心境を知らないキャロラインは、自身の両隣に並ぶ若い男女を交互に見ながら、
「そして、この子達は私の息子と娘、レオナルドとアデレードよ。双子の兄妹なの。ああ、因みに、レオナルドがお兄ちゃんで、アデレードが妹ね」
と、そう春風に紹介した。それを聞いて、
(え、まさかの王子様とお姫様なの?)
と、春風が更に心の中で「?」を浮かべていると、その男女……レオナルドとアデレードが静かにキャロラインと春風の間に立ち、
「はじめまして。ストロザイア帝国皇子の、レオナルド・ヴァル・ストロザイアだ」
「その妹、ストロザイア帝国皇女の、アデレード・ニコラ・ストロザイア。以後よろしく」
と、春風に向かってそう自己紹介した。
2人の自己紹介を聞いて、春風は跪いたままキャロライン達に向き直り、
「お初にお目にかかり……」
と、自分も名乗ろうとしたが、それを遮るように、
「ああ、待って待って! 出来れば、立ってあなたのお顔を見せて欲しいんだけどぉ……」
と、キャロラインは春風に立つようお願いしたが、
「いえ、そんな……」
と、春風はそれを断ろうとした。
その時だ。
「春風様、わたくしからもお願いします。どうかお立ちになってください」
と、イヴリーヌからもそうお願いされてしまったので、春風はゆっくりと深呼吸すると、
「わかりました。では、失礼します」
と言って、ゆっくりと立ち上がり、
「お初にお目にかかります、雪村春風と申します」
と、今度は丁寧な姿勢でぺこりと頭を下げながら言った。
イヴリーヌに続いてキャロライン達に対しても丁寧なその挨拶に、歩夢達は「お、おぉ……」と感心していると、
「まぁ、なんて礼儀正しいの! それじゃあ、ちょっと失礼して……」
と、キャロラインは笑顔でそう言うと、春風に近づいて、その顔や体をペタペタと触ってきた。
「うーん……」
と、体中を触りながらそう唸るキャロラインに、
「あ、あのぉ……」
と、春風がタラリと汗を流しながらそう声をかけると、キャロラインは春風から手を離して「うん」と頷いて、
「可愛いいいいいいいっ!」
と、いきなりガバッと春風を抱き締めた。
「……?」
突然の事に春風だけでなく、
『……え?』
と、歩夢達までも呆然としていると、
「いやぁあん、何この子、すっごく可愛いんだけどぉ! 『本当に男の子なの?』って感じなんだけどぉ!」
と、キャロラインは春風を抱き締めたままそう言ってきたので、
「……っ!?」
と、春風は漸く自身の状態に気が付いた。
そしてそれをきっかけに、
「は、母上!?」
「お母様!?」
『ゆ、雪村(君)ーっ!」
『は、春風(君)ーっ!』
「フーちゃんに抱き付いちゃ駄目ぇえええええええっ!」
と、漸くハッとなった周囲の人達が、一斉に春風をキャロラインから引き剥がそうとした。
しかし、
「ああん、嫌よぉ! もう少し抱き締めるのぉ!」
と、全く春風を離さないどころか更にギュッと抱き締める力を強くしたので、
「む、むぐ……もがもが……」
と、春風はキャロラインの腕の中で必死にもがき、「ぷはぁ!」とやっと顔を出せるようになると、
「ちょ、あの、キャロライン様……!」
と、キャロラインに向かってそう話しかけると、
「あら? なぁに春風ちゃん?」
と、キャロラインは春風を「ちゃん付け」で呼んできたので、
「は、春風ちゃん!?」
と、春風は驚いた表情になったが、すぐにハッとなって、
「は、は、離してくださいキャロライン様! というか、『ちゃん付け』はやめてください!」
と、キャロラインに「離してください!」とお願いしたが、
「え〜? 嫌よぉ。もう少し抱かせてよぉ。あと、春風ちゃんって凄く可愛いんだもぉん」
と、キャロラインはプンスカと怒りながら、また更に抱き締める力を強くした。
これに歩夢達は「あわあわ……」と更に必死になって春風をキャロラインから引き離そうとし、
(や、やばい……これ、このままだと本当にやばい!)
と、苦しそうな表情になってる春風は、冗談抜きでピンチを迎えた。
その時、バァンと扉が乱暴に開かれた音がしたので、
『……ん?』
と、春風達が一斉にその開かれた扉に視線を移すと、
「春風から離れろぉ!」
そこには、激しい「怒り」に満ちた表情をしたレナがいた。