第88話 「再会」の時・4
「お久しぶりです、雪村春風様」
と、春風に向かってそう挨拶した、白いドレス姿の少女。
そんな少女を見て、
「あ……あなたは……」
と、春風がそう呟いた瞬間、歩夢、美羽、水音、そして、クラスメイト達は一斉にごくりと唾を飲みながら身構え始めた。
そう……。
ーー『誰だっけ?』って言う気か!?
ーー『誰だっけ?』って言う気ね!?
要するに、ボケが来るのを待っているのだ。
そんな彼らの心境を知らない春風は、ゆっくり口を開く。
「あなたは……ルーセンティア王国第2王女の、イヴリーヌ・ヘレナ・ルーセンティア様ですね?」
次の瞬間、
『覚えてんのかいいいいいいいっ!』
クラスメイト達は春風に向かってツッコミを入れて、
「まぁ! わたくしの事を覚えてたのですね!? 凄く嬉しいです!」
と、少女は自分を覚えていた事が嬉しかったのか、目をキラキラと輝かせながら感激した。
それから数秒後。
「……は! す、すみません! わたくしとした事が、嬉しさのあまりなんとはしたない事を!」
と、我に返った少女は「いやんいやん!」と恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。
そんな状態の少女に、
「あ、あのぉ……」
と、春風が話しかけると、少女は再び我に返り、「コホン」と咳き込んだ後、
「覚えててくださってありがとうございます。ですが、こうしてちゃんとお話ししたのは今日が初めてですので、改めて自己紹介させてください」
と、丁寧な姿勢で春風に向かってそう言ったので、
「はい。わかりました」
と、春風も丁寧な姿勢でそう返事した。
そして、「では」と少女がペコリと頭を下げると、2人の騎士を呼んで自分の傍に立たせて、
「改めて、はじめまして。あなたの言う通り、わたくしはルーセンティア王国第2王女の、イヴリーヌ・ヘレナ・ルーセンティアと申します。そして、こちらはわたくしの騎士であるヘクターとルイーズです」
と、春風に向かってそう自己紹介した後、最後に丁寧なお辞儀をしながら、
「以後、お見知り置きを」
と付け加えた。
その後、その少女……イヴリーヌに続くように、まずは男性の騎士が、
「ルーセンティア王国騎士の、ヘクター・ベネットだ。これでも、騎士の小隊の隊長を務めている」
と春風に向かってそう名乗り、続けて女性の騎士も、
「同じく、ルーセンティア王国騎士、ルイーズ・クルーニーだ。ベネット小隊長の副官を務めている」
と、同じように春風に向かってそう名乗った。
そんなイヴリーヌ達の自己紹介を聞いた春風は、「うん」と小さく頷くと、その場に片膝をついて、
「お初にお目にかかります。自分は雪村春風と申します。今はこのフロントラルで、レギオン『紅蓮の猛牛』と、レギオン『黄金の両手』所属のハンターとして活動しています」
と、顔を下に向けながら、彼女達を前にそう自己紹介した。
その瞬間、周囲が沈黙していると、
「ま、まぁ、なんとご丁寧な姿勢を! あの、そんなにかしこまる必要はありません! どうかお顔を上げてください! それと、跪く必要もありませんので……!」
と、ハッとなったイヴリーヌが、春風に向かって立つように促した。
するとその時、
「そうよぉ。イヴりんちゃんの言う通り、そんなにかしこまる必要はないわぁ」
という声が聞こえたので、春風は「ん?」となった後、
「イヴリーヌ様、ちょっと失礼をお許しください」
と、イヴリーヌに向かってそう言い、それにイヴリーヌが「は、はい」と返事すると、春風はすぐに顔を上げて声が聞こえた方向に視線を向けた。
その視線の先には、
「うふふ」
と、2人の若い男女と共にいる1人の女性が、春風に向かって手を小さく振りながら、穏やかな笑みを浮かべていたので、
「あの……あなたは?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、女性は2人の若い男女と共に春風に近づいた。
そして、春風の目の前に立つと、
「初めまして、雪村春風さん。私の名前は、キャロライン・ハンナ・ストロザイア。『ストロザイア帝国』で、皇妃を務めているの」
と、女性は春風に向かってそう自己紹介した。