第85話 「再会」の時
今回は、いつもより短めの話になります。
それは、異世界エルードにあるルーセンティア王国で、「ルールを無視した勇者召喚」が行われ、「神」と契約を結んだ春風がこの世界に降り立ってから、2ヶ月が経ったある日の事だった。
その日、春風が今日も大手レギオンの1つ「黄金の両手」拠点内に複数ある工房の1つにて、そこで知り合ったレギオンメンバーと回復薬製作に勤しんでいると、
「春風君、ちょっといいかな?」
と、レギオンリーダーであるタイラーが、工房内に入ってきたので、
「? はい、何ですか?」
と、春風は作業の手を止めてそう返事すると、
「失礼します」
と、タイラーの後ろからスーツ姿の女性が現れた。
(あれ? オードリー市長の秘書の……)
そう、彼女はフロントラル市長オードリーの秘書を務めている女性だ。
それを思い出して、春風は少しだけ目を見開くと、
「雪村春風様」
と、秘書がそう口を開いたので、
「は、はい!」
と、春風が思わずビクッとなってそう返事すると、
「オードリー市長がお呼びです。一緒に来てください」
と、秘書は淡々とした口調でそう言ったので、春風は「え?」と思いながらも、
「すみません、ちょっと行ってきます」
と、一緒に働いていたレギオンメンバーにそう告げると、秘書とタイラーと共に工房を出た。
向かった先は「行政区」にある市役所なのだが、
(あれ? なんか見慣れない馬車があるぞ)
と、春風が心の中でそう呟いたように、市役所の傍には見慣れない馬車が何台かあったが、この時の春風は特に気にする事もなく、秘書とタイラーと共に市役所の中へと入っていった。
中に入って暫く廊下を歩いていると、3人は1つの扉の前で止まった。
そこは、市長であるオードリーの部屋への扉だった。
(オードリー市長は、一体何のようで俺とタイラーさんを呼んだんだろう?)
と、春風が疑問に思っていると、
「市長、連れてきました」
と、秘書は扉をノックしながらそう言い、
「どうぞ」
と、扉の向こうからオードリーの返事が返ってきた。
そして、
「失礼します」
と、秘書が扉を開けると、
「こんにちはタイラーさん。そして、春風さん」
と、穏やかな笑みを浮かべてそう挨拶したオードリーがいたが、
「どうも」
「よう」
と、何故かハンターギルド総本部長のフレデリックと、もう1つの大手レギオン「紅蓮の猛牛」リーダーのヴァレリーがいた。
いや、フレデリック達だけではない。
部屋の中には、少し派手めなドレスを着た女性と、同じような顔付きをした2人若い男女。春風よりも年下と思われる白いドレス姿の少女と、騎士の鎧を纏った2人の男女。そして、春風と同じ年頃の少年少女が11人いた。
その少年少女を見て、
「……え?」
と、春風が小さくそう声をもらすと、それに反応したのか、
「あ……」
と、少年少女の1人が、春風を見てそう声をもらした。
(……え、何で……?)
と、春風が心の中でそう呟くと、少年少女の1人である黒髪の少女が、春風に向かって駆け出し、
「フーちゃん!」
と、そう叫んで、春風にガバッと抱き付いた。
「うわっ!」
突然の事に驚く間もなく、春風は抱き付かれた勢いで後ろに仰け反った。
このまま倒れるのかとその場にいる誰もがそう思ったが、
「ふん!」
春風はその場で踏ん張った。
そして、どうにか体勢を立て直すと、春風はその少女の両肩をガシッと掴み、
「ゆ……ユメちゃん!? え、ユメちゃんなの!?」
と、その少女の名を呼んだ。
その言葉が届いたのか、
「う……うわぁあああああん! フーちゃんだよぉ! ほんとに、フーちゃんだよぉ!」
と、少女は大声で泣き叫んだ。