第84話 それからの日々
その後、春風達は拠点内で誰がどの部屋を使うか話し合った。といっても、1番大きな部屋は「家主」となった春風が使う事が決まったので、残りの部屋はレナ達で話し合った。
部屋には必要な家具が揃っていた為、後は自分達が欲しいものを置くという事になり、それらが決まったら台所で夕食を作り、みんなでそれを食べて、その日はそれぞれの部屋で眠った。
そして翌日から、春風達の新しい生活が始まった。
アメリア達の身なりを整えて、みんなでご近所への挨拶に回り、それが終わるとディックの「ハンター」としての登録と、2つの大手レギオンである「紅蓮の猛牛」と「黄金の両手」、それぞれのリーダーとメンバー達への挨拶をした。
最初は固有職保持者故にレギオンメンバー達への挨拶に不安になった春風だが、どちらも殆どのメンバーが春風達と断罪官達との戦闘を見ていた為、特に問題になる事はなかった。というのも、実は彼らも市役所での春風の「正体」と「目的」……そう、今この世界に起きてる「最悪の事態」をしっかりと聞いていたのだ。
当然、それを知った春風は、思わず白目をむいて卒倒しそうになった。
まぁとにかく、そんなこんなで2つのレギオンの中で活動する事にもなった春風、レナ、ディックの3人は、レギオンメンバーと交流を重ね、彼らとの絆を深めていったのだが、それでも、事情を知らない他のハンター達にとっては、3人の加入は決して面白いものではなかった。何故なら、ただでさえどちらも入るのが難しいレギオンだというのに、その両方のリーダーだけでなく総本部長にまで認められ、結果、両方のレギオンに入る事となったのだから、当然といえば当然なのである。
しかし、だからといって3人に手を出す事は、同時に両方のレギオンリーダーの怒りを買う事にもなるので、彼らは3人を羨ましそうに見つめるか、恨めしそうに見つめるか、はたまた悔しそうに見つめるしかないのだ。
特に春風は固有職保持者な上に「『最強の大隊長』であるギデオンを退けた」というとんでもない事をしでかしたので、その事は決して口外しないよう他の人達に注意してはいるのだが、人の口に戸は建てられないという事で、何処からかその話が漏れてしまい、それ以来春風は一部の心無い者達からは「掛け持ち」、「断罪官殺し」、「大隊長潰し」、「格上殺し」、更には春風の戦闘スタイルを知る者達からも、「常識知らず」だの「邪道魔術師」だの、もっと酷い時には、周囲が注目するくらいの美少女のような顔立ちに因んで「魔性の女のような男」などと、何とも不名誉な異名で呼ばれるようになってしまったのだ。
(ほんとに勘弁してくれ。特に最後の奴)
まぁ、それはひとまず置いといて、こうして春風、レナ、ディックの3人は2つのレギオンを行ったり来たりしながら、彼らと共に様々な仕事をこなしていった。ある時は大型の魔物を討伐し、ある時は製作困難な道具作りをこなし、またある時は先程語った心無い者達を相手に一戦交えたりなど、大変ではあるが充実した日々を送っていった。
ただ、そんな日々を送るにつれて、
「世界の危機なのに、こんな事してていいのだろうか?」
と、春風は不安になったりもしたが、
「危機だからこそ、こうした日々を送る事も必要な事ですよ」
と、女神であるヘリアテスに励まされたので、春風は「ならばやったりますか!」と自分を鼓舞しつつ、仲間と共にハンターとしての日々を送り続けた。
そして、時は戻って現在、
「……ほんとに、よくここまできたなぁ」
と、ギルド総本部に向かっている春風が、ボソリとそう呟くと、
「ん? どうしたの春風?」
と、レナが首を傾げながらそう尋ねてきた。勿論、レナだけでなくディックも首を傾げていた。
春風はそんな2人を見て、クスッと笑うと、
「何でもない。ほら、もうすぐ総本部だよ」
と言って、その場から駆け出し、
「あ、こら春風!」
「あ、アニキ、待ってくれ!」
と、レナとディックもその後を追った。
と、こんな感じで新しい日々を過ごしていた春風達だったが、それから更に数日後、
「会いたかったよぉ、フーちゃん!」
「ほんとに……心配……したんだから!」
「この、馬鹿野郎!」
再び、物語は大きく動き出す事になる。
どうも、ハヤテです。
という訳で、長くなりましたが、以上で今章のプロローグ的な話はお終いです。