第83話 そして、新しい日々へ
さて、色々とあったが、こうして春風、レナ、そしてディックが、大手レギオンである「紅蓮の猛牛」と「黄金の両手」に加入する事になった。
その後、とあるちょっとしたイベントを経て、
「さて、それでは皆さんを『拠点』に案内しましょう」
というフレデリックの言葉に従って、春風達は市役所を出て、とある場所に向かった。
因みに、レベッカは「仕事があるから」と宿屋「白い風見鶏」に帰り、ゼウスももといた場所へと戻り、レギオンのリーダーであるヴァレリーとタイラーも、自分達のレギオンのもとへと戻った。
さて、春風達が向かったその場所だが、そこは、多くの住人が暮らす「居住区」と呼ばれる区画で、普段春風が寝泊まりしている「白い風見鶏」がある「商業区」とは違って、こちらはそれほど賑やかという訳ではないが、その代わり多くの住人達が通りを行き来していて、皆穏やかな生活を送っている。
「こちらですよ」
と言って前を歩くフレデリックの案内を受け、春風達は「居住区」の通りを進み出した。
暫く歩いていると、フレデリックは都市の外壁に近い場所に建てられた一軒の家の前に止まり、
「さぁ皆さん、こちらになります」
と言って、春風達にその家を見せた。
『おぉっ!』
と、春風達が驚きの声をあげたように、それは、他の家とは違ってとても大きく、立派な造りをした家で、それを見て春風は、
(こ、こんな大きな家だなんて。ほ、本当にここで、暮らしていいのかな?)
と、不安になったのか、ガタガタと体を震わせながら、心の中でそう呟いた。
「あ、あの……!」
と、春風はフレデリックを見て何とかそう口に出したが、
「さて、私はまだ仕事がありますので、これにて失礼」
と、フレデリックはそう言うと、スタスタと足早にその場から去っていったので、
「え、ちょ、待ってくださ……!」
と、春風はそう声をあげると、
「あ、すみません忘れてました」
と、これまた素早くフレデリックが春風のもとへと戻ってきたので、
「うわぁ! びっくりしたぁ!」
と、驚いた春風は思わず仰け反った。
そんな春風を前に、
「こちらが、この家の鍵になります」
と、フレデリックはそう言って、春風に1本の鍵を差し出した。
春風はその鍵を見て、
「え、何で俺に?」
と、フレデリックに尋ねると、
「だって、あなたが家主なのですから」
と、フレデリックは笑顔でそう答えたので、
「え!? 俺が家主なの……!?」
と、春風が驚きながらそう尋ねようとしたが、それよりも早くフレデリックが春風に鍵を渡すと、
「では失礼」
と言って、フレデリックはまた足早にその場から去った。
その後、残された春風はというと、少しの間呆然とすると、
「……」
と、無言でレナ達を見た。
今、春風の前にいるのは、共に2つのレギオンに加入したレナとディック、師匠である凛咲に、レナの母である女神ヘリアテス、そしてディックの弟ピートに、元・断罪官のアメリアと、その妹であるエステルの6人と1柱だ。
彼女達を見て、
「え、えぇっと、皆さん、俺が家主って事になっちゃったけど、よろしいでしょうか?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、
『勿論!』
と、皆、笑顔でそう答えたので、春風は少し照れた後、
「じゃ、じゃあ、中に入ってみようか」
と言って、フレデリックから受け取った鍵を使って家の扉を開けて、みんなで中に入った。
(はぁ。こりゃ凄いなぁ)
中は結構広く、思ったよりも綺麗だったので、春風達は思わず「うわぁ」と感心した。
「よし、それじゃあ色々と見て回りましょうか」
と、春風はレナ達に向かってそう言うと、家の中をあちこち探索した。
部屋は幾つもあり、トイレもちゃんと2つあって、食堂と台所も広くて綺麗で、おまけに、
「あ、お風呂もある!」
と、春風が驚いたように、きちんとした風呂まで備わっていた。
また、家の裏には畑らしき場所もあるだけでなく、その傍には様々な農具や工具が入った倉庫もあった。
そして、地下への階段も発見し、そこを降りていくと、地下も思ったより広く、そこにも幾つか部屋があった。
ただ、その隅に妙なものもあったが、それについては後の話で語るとしよう。
ひと通り家の中を探索し終えた春風達は、一旦食堂に移動した。
「あー、えっと、レナにヘリアテス様。師匠に、アメリアさん、エステルさん、ディック君にピート君。その、一緒に暮らす事になって、色々と不安になるでしょうが、みなさん、よろしくお願いします」
と、春風がレナ達に向かってそう言うと、
「うん、よろしくね春風」
「はい、娘共々、よろしくお願いします」
「もっちろん! よろしくねハニー!」
と、笑顔でそう返したレナ達だが、
「あ、ああ、よろしく……春風君」
「「「……」」」
と、アメリア、エステル、ディック、ピートは何処かよそよそしい感じだったので、
(あ、あーすっごい緊張しているなぁこりゃあ)
と、春風はタラリと汗を流すと、何を思ったのか、
「えっとぉ、これから一緒に暮らす訳ですし、俺の事は気軽っていうかフレンドリーに「春風」とか「ハル」って呼んでもいいですよ! あと、敬語はなしで!」
と、笑顔でそう言った。
その言葉に周囲が沈黙していると、
(や、やべ。滑ったかなぁ?)
と、春風は不安になったが、
「……じゃあ、アニキで、良いっすか?」
と、ディックがゆっくりと口を開いてそう言ったので、
「え? あ、『アニキ』って、俺?」
と、春風がそう尋ねると、ディックは顔を真っ赤にしてコクリと頷きながら、
「アンタなら、きっとこの呼び方の方が喜ぶと思って……」
と答えた。
その答えに春風は少し考えた後、
「……はは、『アニキ』か。うん、それ良いじゃん! すっげぇ気に入った!」
と、笑顔でそう言った。
すると、
「じゃ、じゃあ、僕はハル兄で!」
と、ピートが「はい!」と手を上げて、
「そ、それじゃあ私は……『ハル兄さん』で』
と、エステルも恥ずかしそうにゆっくりと「はい」と手を上げて、
「なら、私は『ハル君』かな? よろしく頼むよ』
と、最後にアメリアが「ふふ」と笑いながらそう言った。
その言葉に春風は表情を明るくすると、
「うん、それじゃあみんな、よろしくね!」
と、レナ達を見回しながらそう言い、
『よろしく!』
と、レナ達も笑顔でそう返した。