第80話 とんでもない条件
時は、遡ること数日前。
それは、フロントラル市役所にて、アメリア達をどうするかについて春風が悩んでいる中、
「ですが、その為にあなたには、ある条件を呑んでもらいます」
と、フレデリックに言われた時の事だった。
「じょ、条件……ですか?」
「そうです。そして、その条件とは……」
と言ったフレデリックフレデリックの言葉に、春風だけでなくレナやアメリア達までゴクリと唾を飲むと、
「雪村春風さん。あなたには、レギオンに加入してもらいます」
と、フレデリックは鋭い眼差しを春風に向けながら言った。そんなフレデリックに対して、
「え? それって、何処かのレギオンに入れ……と?」
と、彼の言ってる事が理解出来ないでいる春風がそう尋ねると、フレデリックは「ええ、そうです」と頷きながら、説明を始めた。
「知ってると思いますが、ここフロントラルは数多くのハンターと、そのチームであるレギオンが暮らしていまして、そんな彼らに活動する為の『拠点』を用意するのも、私達ハンターギルドの仕事でもあるのです」
(へぇ、そういう仕事もあるんだ)
「そして今、あなた達に用意できる『拠点』が丁度1軒だけあるのですが、かなり立派過ぎる造りをしてまして、普通のハンターではしっかり管理出来るのか、私としても不安でして……」
と、何ともわざとらしく「いやはや困ったものです」と言ったフレデリックに、周囲の人達は皆、
(あやしい……)
と、言わんばかりの視線を送った。
そんな状況の中、
「え? つまりそれって、俺にレギオンに入って、ついでにその『拠点』も管理してほしい……と?」
と、春風がそう尋ねると、
「その通りです。レギオンの管理下にあれば、あなた達だけでなく私達ギルドの職員としても安心出来るという訳ですよ」
と、フレデリックは「ほっほっほ……」と年寄りじみた笑いをしながらそう答えたので、
(ま、まさかこの人、俺にその『拠点』を押し付ける気なんじゃ?)
と、春風は心の中でそう疑問に思ったが、それを表に出さずに、
「はぁ、そうですか。てっきり俺に『レギオンを作れ』と言うのかと思ってたんですが」
と、真面目な表情でフレデリックに向かって言うと、
「それもありなのですが、今のあなたはハンターとしてはまだまだ弱い方です。そんな状態でレギオンを作っても、とても彼女達を養えるとは思えませんが」
と、フレデリックはアメリア達をチラッと見ながらハッキリとそう言い返してきたので、
「あ、はい。そうですね」
と、春風はガックリと肩を落としたが、その後すぐに、
「うーん。ですが、そうなりますと、入るレギオンはかなり限られてしまいますよね。それも、かなり人気が高いものに……」
と、頭を掻きながらそう言った、まさにその時、
「おやおや春風さん、忘れていませんか?」
と、フレデリックがそう尋ねてきたので、春風が「え?」と首を傾げると、
「私が、いるじゃないか!」
と、それまで黙っていたヴァレリーが、春風の肩にポンと手を置いてきたので、
(あ! そういえばヴァレリーさんのレギオンって、すっごい大手だった!)
と、春風は今になって、彼女がリーダーを務める大手レギオンの1つである、「紅蓮の猛牛」の存在を思い出した。
更に、
「おっと、僕の事も忘れてはいませんよね?」
と、もう1つの大手レギオン「黄金の両手」のリーダーのタイラーも、春風の肩にポンと手を置いてきたので、
(ああ、そういえばこの人もいたんだった!)
と、春風はこちらも今になって思い出した。
そんな春風を他所に、
「おいこら! こいつは私が先に目をつけたんだぞ! その手を離せ!」
と、ヴァレリーがタイラーに向かって怒鳴ると、
「嫌ですよ。うちだって新しいメンバーが欲しいんですから」
と、タイラーは穏やかな笑みを浮かべながらそう言い返した。
その間、2人がぎゅっと春風の肩を掴んできたので、
「あ、あの、痛いんですが……」
と、春風が「離してください」と言おうとすると、
「『紅蓮の猛牛』が良いよなぁ?」
「『黄金の両手』が良いですよねぇ?」
と、ヴァレリーとタイラーが、何やらプレッシャーを感じさせるかのような笑みを浮かべながらそう尋ねてきたので、
「え、あ、ちょ、ちょっと待って……」
と、春風が何か言おうとした、まさにその時、
「ええ、ですから両方に入ってもらいますよ」
と、フレデリックがそう言ってきたので、春風だけでなくヴァレリーとタイラーも「え?」とフレデリックを見て、
「えーっと、今……何と?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、
「春風さん。アメリアさん達の為に……あなたには、『紅蓮の猛牛』と『黄金の両手』、両方のレギオンに入ってもらいます」
と、フレデリックは笑顔でそう答えた。
それの答えを聞いて、
『はぁ……はぁあああああああっ!?』
と、春風だけでなく、オードリーを除いた全ての人達が驚愕の叫びをあげた。
因みに、ただ1人オードリーはというと、
「うふふ……」
と、何処か腹黒そうな笑みを浮かべていた。