第10話 そして、「エルード」へ
第1章、最終話です。
その後も春風は、「実験」と称して「ウインドニードル」以外の様々な魔術を出していった。
初めて「魔術」というものに触れた為か、「怖かった」と言いながらも、とても楽しそうに魔術を出す春風の姿を、オーディンをはじめとした神々は、皆、ホッコリとした表情で見ていた。
そして、春風が残りのスキルも試してみようと考えていた、まさにその時、
「あー、すまないが春風君。そろそろ向こうに行ってほしいんだけど……」
と、オーディンが申し訳なさそうにそう言ってきたので、
「あ、はい、すみません!」
と、我に返った春風は、すぐにスキルの実験をやめる事にした。
その後、「申し訳ありませんでした」とまた深々と頭を下げて神々に謝罪すると、春風は「エルードに行かなきゃ」と気持ちを切り替えた。
するとその時、
「春風君」
と、アマテラスが声をかけてきたので、
「? ど、どうしたんですかアマテラス様?」
と、春風は恐る恐るアマテラスに尋ねると、アマテラスは春風の両肩に手を置いて、
「オーディン、ここからは私に説明させて」
と、ちらりとオーディンを見てそう言った。
オーディンはその言葉を聞いて、
「ああ、わかった」
と、こくりと頷いた。
アマテラスはそれを見て「ありがとう」とお礼を言うと、
「それじゃあ春風君、向こうに着いたらあなたにやってほしい『お願い』を言うね」
と、真剣な表情で春風に向かってそう言った。
その言葉を聞いて、春風は無言でコクリと頷くと、アマテラスは「お願い」についての説明始めた。
「まずあなたにやってほしいのは、向こうの世界の神々と『連絡』を取れるようにしてほしいの」
「連絡……ですか?」
「ええ、オーディンも言ったように、今私達は向こうの世界の神々と連絡が出来ない状態だから、あなたには向こうの世界に着いたら、あの子達と私達が連絡出来るようにしてほしいの」
「具体的にはどうすればいいのですか?」
「それは簡単よ、今の春風君は、『神』と直接契約を結んで、その体を改造された存在。それ故に、ほんの僅かだけど『神』の力が宿っていると言ってもいいわ。だから、あの子達と出会った時に直接触れれば、その力があの子達と私達を繋いでくれるの」
「ああ、そうか。それが『連絡出来るようにする』って事なんですね?」
「ええ、その通りよ」
と、力強く頷きながらそう言ったアマテラスに、春風は「わかりました」と納得すると、
「でね、ここからは私の個人的な『お願い』なんだけど……」
と、アマテラスはちょっとだけ顔を赤くしながら、申し訳なさそうに言った。
(え、女神様が俺に『お願い』? 一体何だろう?)
と、春風は心の中でそう思ったが、
「わかりました。俺に出来る事でしたら……」
と、春風はその『お願い』を聞く事にしたので、
「ありがとう。えっとね……」
と、アマテラスはその「お願い」を話した。
だがそれは、今の春風にとってあまりにも受け入れられないものだったのか、
「はぁ」
と、返事をすると、春風はもの凄く嫌そうな表情になった。
アマテラスはその表情を見て、
「まぁ、そうなるよねぇ」
と、「あはは」と乾いた笑い声をこぼすと、
「春風君、あなたの気持ちはわかるんだけど……」
と、アマテラスは真面目な表情で春風を説得し始めた。
やがてその説得が届いたのか、
「……わかりました。その『お願い』、お引き受けします」
と、最終的にその『お願い』を叶えると約束したので、
「ありがとう!」
と、アマテラスは満面の笑みを浮かべて喜んだ。
その後、
「さて、私からは以上なんだけど、何か質問ないかな?」
と、アマテラスに尋ねられたので、春風は「え、それは……」と考え出すと、
「あ、ありました」
と、何かを思い出したかのような表情になったので、
「え、な、何かしら?」
と、今度はアマテラスが恐る恐る尋ねると、
「すみません、向こうの『神々』の名前、聞いてませんでした」
と、春風は謝罪しながらそう言ったので、
「あ、ああ! そういえば言ってなかったね!」
と、アマテラスは「いっけなぁい!」と言わんばかりの驚きに満ちた表情になったが、すぐに真面目な表情になって、
「エルードの神々は2柱よ」
「2柱……ですか?」
「そう、『月光と牙の神ループス』と、『太陽と花の女神ヘリアテス』。それがあの子達の名前よ。どちらも私達から見たら幼い子達だけど、神様としての役割はしっかり果たしているから」
と、親指を立てながらアマテラスはそう言った。
エルードの神々の名前を聞いた後、
「わかりました、ループス様とヘリアテス様ですね?」
と、春風はまた納得の表情を浮かべた。
それからすぐに、春風はキリッとした表情を浮かべると、
「あと、もう1つ質問あるのですが、『地球消滅』の期限ってありますか?」
と質問したので、
「ああ、そっちも言ってなかったね。私達地球の神々も頑張るけど……長くても1年が限界よ」
と、アマテラスも真面目な表情でそう答えた。
「1年か。それならその期限までに何とかしなくちゃいけませんね」
「不安かな?」
「ええ、不安ですよ。でも、そんな事言ってる場合じゃないですよね?」
「……うん、ごめんね」
と、アマテラスは春風に向かって謝罪したので、春風は「気にしないでください」と手を振りながらそう返した。
そしてその後、
「ありがとうございました。こちらからの質問は以上です」
と、春風がそう言うと、
「じゃ、ここからは僕の出番かな」
と、アマテラスの前に出るかのように、オーディンが出てきた。
そして、春風の前に立つと、
「じゃ、今から君を向こうに送るよ」
と言って春風の頭にぽんと手を置いた。
すると、春風を中心に真っ赤な光で円が描かれた。それが、エルードに送り出す為の「魔法陣」的なものだと理解すると、
「では、皆さん。行ってきます!」
と、神々に向かって元気よくそう言ったので、
『行ってらっしゃい!』
と、オーディンをはじめとした他の神々も、元気よくそう返した。
そして次の瞬間、春風の体は赤い魔法陣のようなものの中へと消えた。
それを見送った後、
「彼は、大丈夫かなぁ」
と、神々の1柱が不安そうにそう言うと、
「彼なら大丈夫さ。何せ僕の契約者なんだから」
と、オーディンがドーンと胸を張りながら言った。
それに続くように、
「それに、彼女の弟子なんだから」
と、オーディンはそう付け加えたので、
「ああ、彼女かぁ」
と、別の神の1柱がそう言った後、
『や、やばい、バレたらどうしよう!』
と、その1柱だけじゃなく、オーディンをはじめとした他の神々は皆、だらだらと滝のように汗を流した。
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ここまでの春風のステータス
雪村春風(人間・17歳・男) レベル:1
職能:見習い賢者
所持スキル:[英知][鑑定][風魔術][炎魔術][水魔術][土魔術][錬金術][暗殺術][調理][隠密活動]
称号:「異世界(地球)人」「固有職保持者」「神(地球)と契約を結びし者」
どうも、ハヤテです。
というわけで、以上で修正版の第1章は終了です。
次回から始まる第2章ですが、エルードに降り立った春風君に、果たしてどんな展開がまちうけているのか?
春風君の今後に活躍に、ご期待ください。