第77話 「行く」と決めた者達
ウィルフレッドの自室での「話し合い」から翌日、王城内謁見の間では、ウィルフレッドら王族達をはじめ、爽子ら勇者達の他に数人の騎士達が集まっていた。
「……という訳で、話し合いの末、春風殿がいるかもしれない『中立都市フロントラル』に向かう事となり、今、我が娘イヴリーヌ、勇者歩夢殿と美羽殿が行く方向となっているが、皆の意見も聞きたい」
と、玉座に座るウィルフレッドが、謁見の間にいる者達全員に、昨夜の「話し合い」で決まった事を言うと、爽子、歩夢、美羽以外の勇者達と騎士達が一斉にザワザワとどよめき出した。
因みに、「フロントラルに行きたい」と言った歩夢と美羽はというと、イヴリーヌの傍に立っている。
そんな状況の中、
「あのぉ、先生は行かないんですか?」
と、勇者の1人である眼鏡をかけた少年が、「はい」と手を上げながらそう尋ねてきたので、
「勿論、私も行きたいと思っている……」
と、爽子がそう答えようとしたその時、
「あ、ごめんなさい先生。先生にはこっちに残って欲しいんですけど」
と、それを遮るように美羽がそう言ってきた。
その言葉を聞いて、
「え、な、何故だ天上!?」
と、爽子が美羽に向かってそう尋ねると、
「まだ彼がそのフロントラルにいるかどうかはわかりませんし、先生にはここでみんなの支えになって欲しいんです」
と、美羽は真っ直ぐ爽子を見てそう答えたので、爽子は「うぐ……」とそれ以上何も言えなくなった。
そんな彼女達を他所に、
「イヴリーヌよ」
と、ウィルフレッドがイヴリーヌに話しかけた。
「はい、お父様」
と、イヴリーヌが返事すると、
「あれから私達も考えたのだが、本当に其方が行くというのか?」
と、ウィルフレッドが真剣な表情でそう尋ねてきた。ウィルフレッドだけではない、マーガレット王妃とイヴリーヌの姉クラリッサも、心配そうな表情でイヴリーヌに視線を向けてきた。
しかし、そんなウィルフレッド達を前に、
「はい、わたくしの意思に変わりはありません」
と、イヴリーヌは真っ直ぐウィルフレッド達を見てそう答えたので、その表情を見て観念したのか、
「……そうか。では、イヴリーヌよ、頼んだぞ」
と、ウィルフレッドは「やれやれ」といった感じでそう言った。
そんなウィルフレッドに、
「はい、ありがとうございます」
と、イヴリーヌは深々と頭を下げた。
その後、
「さて、歩夢殿と美羽殿。こうしてイヴリーヌが行く事が決まったが、其方達の方はどうだ?」
と、ウィルフレッドが歩夢と美羽に向かってそう尋ねると、
「はい、私達もイヴリーヌ様と共に行きます」
と、歩夢イヴリーヌと同じように真っ直ぐウィルフレッドを見てそう答えた。隣に立つ美羽も同様だった。
そんな2人を見た後、
「それでは、彼女達の他に行くという者はいないか?」
と、ウィルフレッドは残りの勇者達を見てそう尋ねた。
それから数秒程、謁見の間が沈黙に包まれていると、
「俺が行きます!」
「勿論、俺も行きますよ!
「……私も、行きます」
と、勇者達の中から2人の少年と1人の少女が名乗り出た。
1人は創作物に出てきそうな「熱血漢」を思わせるような雰囲気をした短髪の少年。
もう1人は先程「はい」と手を上げて質問してきた、眼鏡をかけた「お調子者」を思わせるような雰囲気をした少年。
そして最後は、歩夢程ではないが長い髪をした大人しそうな雰囲気の少女だ。
そんな3人を、
「あ、暁に野守、それに夕下も」
と、爽子が驚いたように目を見開きながら見つめていると、
「暁君達……いいの?」
と、歩夢がそう尋ねてきたので、
「ああ、海神達だけじゃ心配だからな」
と、「暁君」と呼ばれた「熱血漢」風の少年がそう答え、それに続くように、
「そうそう。それに俺達、去年雪村君と一緒のクラスだったし……」
と、「野守君」と呼ばれた眼鏡をかけた「お調子者」風の少年と、
「……うん。雪村君も、私達ならきっと話しやすいと思うから」
と、「夕下さん」と呼ばれた大人しそうな少女もそう答えた。
その答えを聞いて、
「「ありがとう」」
と、歩夢と美羽は3人に向かってお礼を言った。
その様子を見て、
「うむ、それでは他に行くという者はいないか?」
と、ウィルフレッドがそう尋ねたが、暁達以外に名乗り出た者がいなかったので、
「そうか。ではイヴリーヌよ」
と再びイヴリーヌに話しかけた。
「はい」
と、イヴリーヌが返事すると、
「其方と行く勇者達は決まったが、我々としてはやはり心配なので、騎士を数名程連れて行ってほしい。出来れば、其方が最も信頼する騎士達をだ」
と、ウィルフレッドはそう言ったので、
「わ、わかりました」
と、イヴリーヌは「あはは」と苦笑いしながらそう言った。
その時だ。
「あの、ウィルフレッド陛下!」
という声があがったので、ウィルフレッド達が「ん?」と声がした方へと視線を向けると、そこには1人の若い騎士が「はい」と手を上げていた。
「む、其方は……」
と、ウィルフレッドが口を開くと、若い騎士はウィルフレッドの前に出て跪き、
「ウィルフレッド陛下、無礼を承知で申し上げます! 私も、フロントラルに行かせてください!」
と言った。
その姿にウィルフレッドは「おお、そうか!」と感心したが、
『……』
歩夢と美羽……というより勇者達は、その若い騎士に対して警戒心を抱いた。
しかし、そんな勇者達を他所に、
「うむ。ではフロントラルに行く者達は決まったので、出発は明日としよう!」
と、ウィルフレッドは周囲に向かってそう宣言した。
次回で今章最終話(予定)です。