第76話 集結、断罪官
ウィルフレッドの自室にて、ウィルフレッドら王族達と、爽子、歩夢、美羽、そしてストロザイア帝国の皇族達と、彼らのもとへと旅立った「勇者」達による話し合いが行われていた丁度その頃、五神教会本部に、一組の集団がやって来た。
ギデオンら断罪官と同じ漆黒の鎧を身に纏っているその集団は、本部の中に入ると、全員何処か落ち着かない様子で、早足でとある場所を目指していた。
そして、そのとある場所へと続く扉の前に着くと、集団の先頭に立っている人相の悪そうな赤髪の男性が深呼吸して、バァンと扉を勢いよく開き、
「断罪官第1小隊隊長フランク・ガルシアと小隊員数名、ただいま帰還したぜぇ!」
と、赤髪の男性ーーフランクは怒鳴るようにそう叫んだ。
そんなフランクと小隊員達の目の前には、
「うむ、よくぞ戻った」
断罪官大隊長ギデオン・シンクレアがいた。
そう、ここは五神教会本部内にあるギデオンの「仕事部屋」で、現在ギデオンはその部屋に備え付けられた椅子に座っている。
そして、ギデオンの他には、副隊長にしてギデオンの息子ルークと、何やら元気の無さそうな様子の、美しい顔立ちをした長い青髪の男性がいて、2人共ガルシアとその小隊員達をジッと見つめていた。
その後、
「ギデオンの旦那……」
と、フランクはボソッとそう呟くと、ギデオンの目の前にある仕事用デスクの上に置かれたものを見て、
「……負けたってのは、本当なのかい?」
と、神妙な顔でそう尋ねた。
それに対して、ギデオンは無言でゆっくりと頷くと、フランクは部屋の中に入ってデスクに近づき、
「……触れてもいいかい?」
と、尋ねた。
その後、ギデオンは再び無言でこくりと頷くと、
「ちょっと失礼」
とフランクはそう言って、デスクの上に置かれたものーー折れた聖剣スパークルを手に取って、それをじっと眺めた。
「まさか、あんた程の男がやられるとはな。未だに信じられねぇよ」
と、フランクは折れた聖剣スパークルをデスクの上に戻すと、
「信じられない気持ちはわかるが、情けない事に事実だ」
と、ギデオンは表情を暗くしながらそう言ったので、フランクは「そうかい……」と返事すると、
「フランクの方こそ、目的の者は見つかったのか?」
と、今度はギデオンがフランクに向かってそう尋ねてきたので、フランクは「む……」と顔を顰めると、
「……いや、まだ見つからねぇよ」
と、ギデオンと同じように暗い表情でそう答えた。
その後、フランクは今度は長い青髪の男性に視線を向けると、
「よぉ、ケネス。怪我の方は良いのか?」
と、尋ねた。
その質問に対して、「ケネス」と呼ばれた長い青髪の男性は、
「ええ、もうだいぶ回復したわよ」
と、女性のような口調でそう答えた。
その答えを聞いて、
「そうかよ……」
と、フランクはそう答えると、視線をギデオンに戻して、
「ま、俺よりも今は旦那の方だ。あんたも怪我の方は良いのかい?」
と、ギデオンに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、ギデオンは「ふ……」と笑うと、
「優秀な神官のおかげで、だいぶ傷は引いてきたが、それでも暫くは安静するように言われたよ」
と、何処か自嘲気味に「はは」と笑いながら言った。
そんなギデオンの様子に、フランクは「く……」と何処か悲しそうな表情になった後、
「で、旦那よぉ。あんたを打ち負かしたっていうその『異端者』、まだ倒す気はあるって事で良いんだよな?」
と、ギデオンに向かって再びそう尋ねると、
「当然だ。この身と装備が万全の状態になった時、もう一度奴に挑む予定だ。そして、その戦いにお前達も参加してもらおうと思い、ここに呼んだのだ。任務中なのにすまなかった」
と、ギデオンはフランクに向かってそう謝罪した。
その謝罪を受けたフランクは、
「はは、気にするほどの事じゃねぇよ」
と、笑いながらそう言うと、すぐに真面目な表情になって、
「で、今こうして小隊長が揃ってんだから、あんたを破ったその異端者の事、俺らにも教えてくれるんだよな?」
と、またギデオンに向かってそう尋ねた。
ギデオンはその質問に対して、
「ああ、そうだ。ただ、お前達にとってあまりにも信じられない話になるのだが、それでも良いのか?」
と、フランクと青髪の男性ーーケネスを交互に見ながらそう尋ね返したので、
「かまわねぇよ」
「ええ、私も同意見よ」
と、2人は真剣な表情でそう答えたので、
「わかった。お前達に全てを話そう」
と、ギデオンは2人に向かって文字通り「全て」を話した。