第75話 国王の部屋にて・3
「えっと、『向かう』って、どちらにですか?」
「「中立都市フロントラルだ」」
美羽の質問に対して、ウィルフレッドとヴィンセントが同時にそう答えた、まさにその時、
「あら、駄目よ」
と、ヴィンセントの横でキャロラインが、穏やかな笑みを浮かべながらそう言ってきたので、その場にいる者達全員が「え?」と首を傾げた。
それから数秒後、
「あのぉ、何故そのフロントラルという都市に……?」
と、爽子が恐る恐るそう尋ねてきたので、
「あ、ああそれはだな、昼間の報告の時、フロントラル付近で戦ったというのと、最後に『フロントラルのハンター達に立ち塞がれた』と言っていただろう? それ故に、もしかしたら春風殿は今フロントラルにいるのかもしれないという考えに至ったのだよ」
「そ、そうそう。だから、そいつを確かめる為にフロントラルに向かおうって事なんだけどよぉ……」
と、ウィルフレッドとヴィンセントが少しオロオロしながらそう答えたが、
「だから、駄目よ2人とも」
と、再びキャロラインが穏やかな笑みを浮かべながらそう口を開いたので、
「な、何故に!?」
と、ヴィンセントはその言葉に驚きながらも、キャロラインに向かってそう尋ねた。
すると、キャロラインはヴィンセントに向かって、
「だってぇ、あなたこの間エレンちゃんと一緒にルーセンティアに行ったばかりじゃないのぉ。おまけに皇帝としての仕事もまだいっぱいある訳だし」
と、「ずるいずるい!」と言わんばかりに頬を膨らませながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「いや、だからってよぉ……って、ちょっと待て。まさかお前……」
と、ヴィンセントが何かに気付いたのかのような表情になると、
「そうよぉ。だから今度は、私とレオンちゃんとアーデちゃんの3人で行くわ」
と、キャロラインは満面の笑みを浮かべてそう答えた。その後ろで、
「え、待って母様。私は?」
という声がしたのだが、キャロラインは声の主に向かって、
「エレンちゃんはお留守番よ」
と言われてしまい、声の主は「そんなぁ!」とガックリと肩を落とし、そんな声の主を「よしよし……」と勇者達が慰めていた。
その様子を見た後、
「あの、キャロライン殿。ヴィンスは何となくわかりましたが、何故私まで?」
と、今度はウィルフレッドが「ん?」と頭上に「?」を浮かべながらそう尋ねてきたので、
「あら、だってウィルフちゃんも一国の主なのよ? だったらそんなにホイホイと国を出るものじゃないわぁ」
と、キャロラインは「何を言ってるの?」と言わんばかりの表情でそう答えた。
その答えを聞いて、
「え、ではどうすれば……」
とウィルフレッドは「うーん」と考え出すと、
「あの!」
と、ここでそれまで黙ってた歩夢が、美羽と一緒に「はい!」と手を上げたので、
「わ、海神に……天上?」
と、爽子が頭上に「?」を浮かべると、
「私、フロントラルに行きます!」
「私も!」
と、歩夢と美羽はハッキリとそう言った。
それを聞いて、ハッとなった爽子が「ちょ、ちょっと待て……」と言おうとしたが、
「「……」」
2人の真剣な表情に、爽子はそれ以上何も言えなくなった。
すると、
「でしたら、わたくしが一緒に行きましょう」
と、それまで黙ってた第2王女のイヴリーヌも「はい」と手を上げたので、
「な! イヴリーヌ!?」
「イヴ! どうして!?」
と、ウィルフレッドだけでなくイヴリーヌの姉クラリッサも驚いてイヴリーヌを見た。
そんな2人を前にイヴリーヌはすっと立ち上がって、
「お父様、キャロライン様の言う通り、あなたはこの国の国王です。そして、お母様とお姉様にはそんなお父様を支えてほしいです。であればここは第2王女であるわたくしが、歩夢様と美羽様と共にフロントラルに行きましょう」
と、ウィルフレッドに向かって真剣な表情でそう答えた。
そんなイヴリーヌを見て、
「お、おお、イヴリーヌ。そこまで考えて……」
と、感動しそうになったウィルフレッド。
その後、ウィルフレッドは「いかんいかん」と首を横に振るうと、
「なるほど、イヴリーヌの気持ちはよくわかった。しかし、現段階ではここで全てを決める事は出来ない。明日、他の勇者達を呼んで、彼らとよく話し合おうと思う」
と、ウィルフレッドは最後に歩夢と美羽を見て、
「2人も、それでいいだろうか?」
と尋ねてきたので、2人はコクリと頷きながら、
「「わかりました」」
と返事した。
その後、ヴィンセントらと少し談笑すると、その場は一旦解散となった。
第71話、少し修正しました。