第74話 国王の部屋にて・2
「なぁにぃ!? ギデオン・シンクレアがやられただとぉおおおおおおおっ!?」
と、ウィルフレッドから告げられた一番重大な話、即ちギデオンが負けた事を聞くと、ヴィンセントは驚きのあまり目玉が飛び出そうになるくらいもの凄く大きく見開いた。
ヴィンセントだけでなはい、キャロラインをはじめとした彼の家族も、皆「信じられない!」と言わんばかりの表情をしていた。
そして、ヴィンセントらと共にいる「勇者」達はというと、皆、戸惑いの表情を見せているが、同時に彼らが何を言ってるのか理解出来ているみたいだった。
一方、話をしたウィルフレッドらの方はというと、そんなヴィンセント達を見て、
(まぁ、そうなるな)
と、ウィルフレッドは心の中でそう呟いた後、
「あーすまないがヴィンス。あまり大きな声を出さないでくれ。部屋の外に声が漏れるぞ」
と、ヴィンセントに向かってそう注意したが、
「大丈夫! この部屋特別製だから!」
と、ヴィンセントは大きく目を見開いたまま、親指を立ててそう言ったので、
「そ、そうか……」
と、ウィルフレッドが「はは……」と笑いながら言うと、
「それよりウィルフ! 『歴代最強の大隊長』の異名を持つあのギデオンがやられただと!? 一体何処のどいつなんだ!? ていうか、レオン達はともかく何で水音達まで呼んだんだよ!?」
と、ヴィンセントは今にも鏡から出てきそうな勢いでそう問い詰めてきた。
そんなヴィンセントにウィルフレッドはすっと右手を上げて、
「落ち着いてくれヴィンス、順を追って説明する。それに水音殿達を呼んだのは、彼らにも関係のある話だからだ」
と、落ち着いた口調でそう言った。
それに対してヴィンセントは「な、何だよ……」と、落ち着かない様子でそう呟くと、
「ギデオンを破った者の名は雪村春風。固有職能『見習い賢者』の固有職保持者だそうだ」
と、ウィルフレッドは真剣な表情でそう言ったので、
「……何だと?」
と、ヴィンセントは先程までの興奮した表情から、一気に落ち着いた表情になった。
それから数十分ほど話をした後、
「ウィルフレッド、詳しい話を聞かせろ」
と、ヴィンセントが真剣な表情でそう言ってきたので、ウィルフレッドはコクリと頷いた。
その後、ウィルフレッドはヴィンセント達に、昼間謁見の間でギデオンがした「報告」を全て話した。
その際ちょっとした騒ぎになったり、様々な推測が飛び交ったりもしたが、詳しく話すと長くなってしまうので、この辺りに関しては別の形で語る事にしよう。
ともあれ、一通りの話し合いが終わると、再び部屋の中がシーンと静まり返った。
様々な事を話し合った所為か、皆、何処か疲れたような表情をしていると、
「く、くくく……」
と、ヴィンセントからそんな声がしたので、その場にいる者達全員が「ん?」と彼に視線を向けると、
「くははははははは! はははははははぁっ!」
と、ヴィンセントは声高々に笑い出した。
そんな彼の様子を見てウィルフレッドを除いた面々が「な、何事!?」と言わんばかりの驚きに満ちた表情になると、
「良いねぇ! 良いね良いね良いねぇ! 雪村春風! 異世界から来た『賢者』! 『見習い』ってのは意味わからんが、超最高じゃねぇか! 話を聞いて、ますます欲しくなっちまったじゃねぇか!」
と、ヴィンセントは狂ったような笑みを浮かべながら言った。
そんなヴィンセントを見て、勇者の1人が「へ、陛下?」声をかけると、ヴィンセントはウィルフレッドに向かって、
「良いぜウィルフ。当初の予定通り、雪村春風は帝国が貰う。これは決定事項だ、相手が五神教会の連中だろうが『神様』だろうが、文句は言わせねぇ」
と、強い決意を秘めた口調でそう言った。
それを聞いたウィルフレッドが「ああ、そうだな」と小さく呟くと、
「では、早速準備をするとしようか」
と、ヴィンセントに向かってそう言ったので、それに対してヴィンセントも「おう」と返事した。
その言葉に「ん?」となったのか、
「あの、ウィルフレッド陛下。『準備』……とは?」
と、爽子がウィルフレッドに向かってそう尋ねると、
「無論、彼の……春風殿もとへ向かう準備だ」
と、ウィルフレッドは真剣な表情でそう答えた。
その答えを聞いて、
「えっと、『向かう』って、どちらにですか?」
と、今度は美羽がそう尋ねると、ウィルフレッドだけでなくヴィンセントも同時に答える。
「「中立都市フロントラルだ」」