第73話 国王の部屋にて
その日の夜、ルーセンティア王国王城内、国王ウィルフレッドの自室。
そこには、部屋の主であるウィルフレッドと、その妻マーガレット、そして2人の娘であるクラリッサとその妹イヴリーヌに加え、勇者である爽子、歩夢、美羽の3人もいた。
「……それで、彼女達もここに来たという訳だな?」
と、そう尋ねてきたウィルフレッドに、
「はい、申し訳ありません」
と、爽子は申し訳なさそうにそう答えた。そんな彼女の横で、歩夢と美羽も「すみません」と謝罪していた。
そんな彼女達に、
「いや、其方達が気にする必要はない」
と、ウィルフレッドは「はは……」と笑いながら言うと、
「寧ろ、謝らなければいけないのは私の方だ」
と、すぐに申し訳なさそうな表情になって、
「爽子殿。歩夢殿。美羽殿。ギデオンを止められなくて、本当にすまなかった」
と、爽子達に向かって深々と頭を下げて謝罪した。そんなウィルフレッドに続くように、彼の家族達も、
「「「ごめんなさい」」」
と、爽子達に向かって謝罪した。
その謝罪を受けて、
「そ、そんな、気にしないでください! 私だって、あの人を止める事が出来なかったのですから!」
と、爽子は歩夢と美羽と共に、大慌てでウィルフレッド達に頭を上げてほしいと頼み込んだ。
それから少しして、
「それで、これからについて話し合いなのですが……」
と、爽子がウィルフレッドにそう言うと、
「うむ、それなんだが、その話し合いをする為に、招待したい者達がいるのだ」
と、ウィルフレッドはそう言って、彼女達の前に、ある物を用意した。
それは、部屋の隅に立てかけてあった大きな鏡で、上の部分には青い宝石が1つだけついていた。
その鏡を見て、
「あの、陛下。これは一体……?」
と、爽子がそう尋ねると、
「うむ、一見普通の大鏡に見えるが、これはストロザイア帝国が作り上げた魔導具で、魔力を流す事によって遠くにいる者と話をする事が出来るのだ」
と、ウィルフレッドはそう説明した。
その説明を聞いて、
「え、まさかの『電話』ですか!?」
「「何それすっごいファンタジー!」」
と、爽子、歩夢、美羽はそれぞれ驚きのあまり目を大きく見開いた。
そんな彼女達を見て、マーガレットは「ふふ……」と笑うと、
「ま、まぁ『遠くにいる者』と言っても、この鏡で話せるのは1ヶ所だけだがな……」
と、ウィルフレッドがそう付け加えたので、爽子達はハッとなって、
「「「す、すみませんでした」」」
と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら謝罪した。
その後、ウィルフレッドが「では……」と言うと、鏡についている青い宝石に自身の魔力を流した。
次の瞬間、鏡が眩い光を放ち、
「お、おう、ウィルフか。どうした?」
と、そこには何やら疲れ切った様子の、1人の男性の姿が映し出された。
その男性を見て、
「ヴィンス。相変わらず仕事が大変そうだな」
と、ウィルフレッドが何処か呆れたような表情でそう言うと、
「ははは、まぁな……」
と、ヴィンスと呼ばれた男性は、力なくそう返した。
すると、
「自業自得でしょ? あ、な、た?」
と、ヴィンスの背後から穏やかな笑みを浮かべた女性が現れたので、
「キャロライン皇妃、夜分遅く申し訳ない」
と、ウィルフレッドは女性に向かってそう言った。
その言葉にキャロラインと呼ばれた女性が、
「あら、ウィルフちゃん。それにマギーちゃんにクラりんちゃん、イヴりんちゃんもこんばんは」
と、ウィルフレッドだけでなくマーガレット、クラリッサ、イヴリーヌにまでニックネームのようなもので呼んでそう挨拶した。その際、
「「その呼び方やめてください!」」
と、クラリッサとイヴリーヌは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして頬を膨らませながら、プンプンに怒っていた。
すると、
「お、お久しぶりです! ヴィンセント皇帝陛下!」
と、爽子がヴィンスに向かって頭を下げながら挨拶し、それに続くように歩夢と美羽も頭を下げた。そんな彼女達に気付いたのか、
「おお、ウィルフ達だけじゃなく勇者達もいるのか!? 久しぶりだな、おい」
と、ヴィンス……否、ヴィンセントはそう挨拶を返した。
そして、ヴィンセントに続くように、
「あらあら、あなた達が水音ちゃん達と同じ『勇者さん』達ね? はじめまして、私はヴィンセントの妻のキャロラインよ。よろしくね」
と、キャロラインも爽子達に向かってそう挨拶した。
それに爽子達も「は、はじめまして……」と挨拶すると、
「で、こんな夜遅くに一体何のようだ?」
と、ヴィンセントがそう尋ねてきたので、
「大変すまないが、それについて話をする為に、そちらにいる水音殿達も呼んでほしい。それと、出来ればヴィンスの『家族』達も」
と、ウィルフレッドは真剣な表情でそう返した。
その表情に何かを感じたのか、
「……ああ、わかった。キャリー、水音達を呼んできてくれ。レオンとアーデ、それにエレンもな」
と、ヴィンセントがキャロラインに向かってそう頼み、それを聞いたキャロラインも、
「はーい」
と返事すると、その場から軽やかに立ち去った。
それから数分後。
「お待たせー。連れてきたわよぉ」
と言うキャロラインと共に、
「「「「「「お久しぶりぶりです、ウィルフレッド陛下」」」」」」
と、歩夢と美羽と同じ年頃の、6人の少年少女達がそう挨拶した。その姿を見て、
「ああ、桜庭に近道、遠畑。出雲に時雨、晴山も! みんな無事でよかったぁ!」
と、爽子は感激の涙を流した。
そんな爽子を、ウィルフレッド達は穏やかな目で見つめていると、
「で、一体どんな話があるんだ?」
と、ヴィンセントがそう尋ねてきたので、ウィルフレッドはすぐに真面目な表情になって、
「実は……」
と、真っ先に一番重大な話を始めた。