第72話 報告が終わって
さて、ウィルフレッドによる「固有職能」と「固有職保持者」についての説明と、そこから再びギデオンの報告の報告が始まった丁度その頃、謁見の間から離れた位置にある「勇者」達の自室の1つでは、現在、2人の少女がベッドの上で身を寄せ合っていた。
「落ち着いた歩夢ちゃん?」
「うぅ。うん、ありがとう美羽ちゃん」
そう言った2人の少女、歩夢と美羽。以前の話で語った事だが、2人とも春風のクラスメイトで、彼を知っている者達だ。
「フーちゃん、大丈夫かなぁ?」
歩夢は美羽の腕にグッとしがみつきながら、不安そうにそう尋ねると、
「大丈夫だよ。春風君なら、きっと普通に生きてるって」
と、美羽は笑顔でそう答えた。
その答えを聞いた後、
「あのギデオンって人、絶対に許せない」
と、歩夢は震えた声でそう言った。
そう、謁見の間でギデオンに向かって、
「ぶっ殺してやる!」
と叫んだのは歩夢だったのだ。
そして歩夢の言葉に強い「怒り」を感じたのか、
「そうだね。私も許せないよ」
と、美羽も歩夢の言葉に同意した。
それから少し時が経つと、トントンと部屋の扉を叩く音と共に、
「海神、天上」
と、扉の向こうから爽子の声がしたので、美羽は「ちょっとごめんね」と歩夢に言うと、ベッドから立ち上がって、ゆっくりと扉を開けた。
「や、やぁ、天上。海神はもう落ち着いたか?」
と、爽子が美羽に向かって恐る恐るそう尋ねると、
「はい、もうだいぶ落ち着いたみたいです」
と、美羽はコクリと頷きながらそう答えた。
その答えに爽子が「そうか」と呟くと、ベッドの上にいる歩夢に視線を向けた。その視線に気付いた歩夢は、
「先生……ごめんなさい」
と、頭を下げて謝罪した。
その謝罪に爽子は「気にするな」と言うと、
「ちょっとすまないが、天上を少しの間借りるぞ」
と、謝罪しながらそう言ったので、それに美羽は「え?」と首を傾げて、歩夢の方もポカンとなったが、
「わかりました。私の方は大丈夫です」
と、爽子に向かって弱々しくそう返した。
そんな歩夢に向かって、
「本当に、すまない」
と、爽子は申し訳なさそうに再び謝罪すると、美羽を連れてその場から離れた。
2人が向かった先は、爽子の自室だった。その部屋の中で、
「あの、先生。話の方は終わったんですか?」
と、美羽が謁見の間での事について爽子に向かってそう尋ねると、
「あー、うん。話自体は終わったんだけど……」
と、爽子は何処か気まずい感じでそう答えた後、歩夢と美羽が謁見の間を出た後の事について話始めた。
それから一通りの話が終わると、
「そんな、酷い! 酷過ぎる!」
と、ショックを受けたのか、美羽は爽子に向かってそう怒鳴った。
そんな美羽に爽子が何も言えずにいると、
「どうして!? どうしてあのギデオンって人を止めてくれなかったんですか!?」
と、美羽は怒りのままに爽子の両腕を掴みながらそう問い詰めた。
怒りに満ちた美羽の表情に、
「……すまない」
と、爽子は辛そうな表情でまた謝罪したので、美羽はこれ以上は無意味と感じたのか、
「っ」
と、黙って爽子の腕を掴んだ手を離したが、その表情は更なる怒りに満ちていた。
そんな美羽に向かって、
「その……本当に申し訳ないんだが、この話は海神には……」
と、爽子がそう頼もうとすると、
「言える訳ないでしょこんな事!」
と、美羽は肩で息をしながら、怒鳴るようにそう答えた。
その答えに、爽子は更に申し訳なさそうな表情で、
「ありがとう」
と、お礼を言った。
その後、漸く落ち着いてきたのか、
「それで、これからどうするんですか?」
と、美羽は爽子に向かってそう尋ねると、
「あ、あぁそれなんだが、この後私は、ウィルフレッド陛下の部屋に呼ばれている。今後について話し合う為だそうだ」
と、爽子は少し気まずそうにそう答えたので、
「そう……ですか」
と、美羽はそう返事した。
その時、ガチャリと部屋の扉が開かれたので、爽子と美羽が驚いて扉を見ると、
「海神!」
「歩夢ちゃん!?」
扉の向こうには、歩夢が立っていた。
「あ、歩夢ちゃん……聞いてたの?」
と、美羽が恐る恐る尋ねると、
「……ごめんね。全部聞いてた」
と、歩夢は頭を下げて謝罪した。
その謝罪を聞いて、
「わ、海神、あのな……」
と、爽子が何か言おうとすると、それを遮るかのように、
「先生。私も、陛下の部屋に一緒に行っていいですか?」
と、歩夢がそう尋ねてきたので、爽子は少し躊躇ったが、
「わかった、一緒に行こう」
と、「OK」を出した。
因みに、
「なら、私も行きます!」
と、美羽も一緒に行く事になった。