第71話 再びギデオンの報告・2
本日2本目の投稿です。
「……そうですか。奴は、勇者殿達と同じ異世界の人間でしたか」
ウィルフレッドから春風の正体を聞いて、ギデオンは顔を下に向けた状態でそう口を開いた。
それから少しの間、謁見の間は沈黙に包まれたが、
「……けるな」
という声が聞こえたので、ギデオンを除いたその場にいる者達全員が「ん?」と声がした方へと視線を向けると、
「ふざけるな! その話が本当なら、陛下は『悪魔』に自由を与えて、世界に解き放ったという事じゃないか!? そんな馬鹿な話があってたまるか!」
と、ギデオンの傍で跪いていたルークがガバッと立ち上がって、ウィルフレッドに向かって怒りのままに叫んだ。
そのあまりの剣幕に、ウィルフレッドは「それは……」と何か言おうとしたが、それよりも早く、
「よせ、ルーク副隊長」
と、ギデオンがルークに声をかけたので、
「し、しかし大隊ちょ……!」
と、ルークはギデオンを見たが、ギデオンから何か言い知れぬプレッシャーのようなものを感じて、
「……」
と、ルークは深呼吸して気持ちを落ち着かせた後、
「……失礼しました、ウィルフレッド陛下」
と、ウィルフレッドを前に再び跪き、深々と頭を下げて謝罪した。
そんなルークを見て、
「いや、気にしないでくれ。其方が怒りをあらわにするのは仕方ないと思ってる。本当に、申し訳ない」
と、ウィルフレッドもルークに向かって謝罪した。
すると、
「ウィルフレッド陛下、あなたの話を聞いて、もう1つ報告しなければならない事があります」
と、ギデオンがそう口を開いたので、ウィルフレッドが「む?」とギデオンに視線を向けると、
「その報告をする為にお聞きしますが、先程陛下の話の中に、『雪村春風はレナ・ヒューズというハンターの少女と共にここを出ていった』と仰いましたね?」
と、ギデオンはウィルフレッドに向かってそう尋ねた。
その質問にウィルフレッドが「うむ、そうだが」と返事すると、
「そのレナという少女の髪の色は、白銀ではありませんでしたか?」
と、ギデオンは更にそう尋ねてきたので、
「うむ、確かに白銀だが……」
と、ウィルフレッドが頭上に「?」を浮かべながらそう答えると、ギデオンは「やはり……」と小さく呟いて、
「実は雪村春風の他にその少女とも戦いましたが、彼女の正体は、邪神ループスの加護を受けし悪しき種族の1つ、『獣人』でした」
と、真っ直ぐウィルフレッドを見てそう言った。
その言葉を聞いて、
「何!? 獣人だと!? それは本当なのか!?」
と、驚いたウィルフレッドがそう尋ねると、
「はい、事実です」
と、ギデオンはコクリと頷きながらそう答えた。
その答えを聞いて、ウィルフレッドは「なんという事だ」と天井を仰ぎ見た後、
「……他に、何か報告はないか?」
と、ギデオンに向かって更に尋ねた。
それにギデオンは「そうですね……」と考え込んだ後、
「ああ、まだありました。実は私が雪村春風にやられた後、ルークと隊員数名が奴を討伐しようとしたのですが、フロントラルのハンターギルド総本部長フレデリック・ブライアントと数名のハンターに立ち塞がれ、更には空から降りてきた妙な女性に返り討ちにあったそうなのです」
と、ギデオンはちらりとルークを見ながらそう報告した。
それを聞いたウィルフレッドは、
「何? そうなのか?」
と、ルークに向かってそう尋ねると、
「はい。真に情けない話なのですが」
と、ルークはその時の事を思い出したのか、悔しそうな表情でそう答えた。
その答えにウィルフレッドは「そ、そうか」と呟くと、
「他に報告する事はないか?」
と、ギデオン向かってそう尋ねた。それに対して、
「いいえ、以上で報告は終了です」
と、ギデオンはゆっくりと首を横に振りながらそう答えたので、
「そうか。それで、其方達はこれからどうする予定なのだ?」
と、ウィルフレッドは更にそう尋ねると、
「今はこうして動けてはいますが、まだ完全に回復した訳ではありません。ですので、回復が完了し、新たな武器を手に入れ次第……雪村春風の討伐に向かいます」
と、ギデオンはウィルフレッドに向かって宣言するように答えた。
その答えを聞いて、
「な、何だと!?」
と、ウィルフレッドは思わず玉座から立ち上がった。
否、ウィルフレッドだけではない、ウィルフレッドの家族は勿論、爽子ら勇者達までもが『ええ!?』とショックを受けていた。
一部を除いて。
しかし、そんな爽子達を他所に、
「い、いかん! それはいかんぞギデオン! 彼に手を出してはいかん!」
と、ウィルフレッドはギデオン止めようとしたが、
「そうはいきません。固有職保持者……異端者の討伐は我々の任務。幾ら陛下が許さなくても、奴が勇者殿と同じ世界の人間だろうと、例外は一切認めません」
と、ギデオンはウィルフレッドと爽子達を交互に見ながらそれを拒否した。
その姿勢に爽子達がショックで顔を真っ青にする中、ギデオンは更に話を続ける。
「それに、奴は我々の『誇り』を完膚なきまでに打ち砕いた。このままやられっぱなしで終わるなど、絶対に出来ません」
「うぅ。それは……」
「何より……」
「ま、まだあるのか!?」
「あんな可憐な少女のような顔をした少年など、絶対に許す訳にはいきません。私も騙された身ですので」
と、ウィルフレッドに向かってそう言い放ったギデオンに、周囲の人達が、
『……ええ?』
と、首を傾げると、
「ふ、ふざけるなぁ! 何だその理由は!? 完全に私情ではないのか!?」
と、ウィルフレッドは怒りの形相で怒鳴りながらそう尋ねてきた。
だが、そんなウィルフレッドを前にしても、
「いいえ、これは私情なのではありません。奴のような存在を放っておけば、いずれはあらゆる男性が奴によって誑かされるでしょう。これは、『正義』の為なのです」
と、ギデオンは堂々とした態度でそう答えたので、それを聞いたウィルフレッドは「な!?」とショックを受けた。他の人達も同様だ。
すると、ギデオン達はスッと立ち上がって、
「では、失礼します」
と言うと、そのまま謁見の間を出ようとした。
だが、ウィルフレッドは諦めずに、
「ま、待てギデオン! 彼に……雪村春風に手を出してはならない! これは、命令だ!」
と、ギデオンに向かってそう命令した。
それが届いたのか、ギデオン達は謁見の間の扉に向かう足を止めたので、ウィルフレッドも爽子達も「ほ……」と胸を撫で下ろした。
しかし、
「お言葉ですが陛下……」
『?』
「我々断罪官が仕えているのは、偉大なる5柱の『神々』であってあなたではない!」
と、ギデオンはウィルフレッドに向かってそう言い放った。よく見ると、その表情は明らかに『怒り』に満ちていたので、ウィルフレッドは「う……」と何も言えなくなった。それは、ウィルフレッドだけではなく爽子達も同様だった。
その後、
「では、失礼します」
と言って、ギデオンはルークら隊員達と共に謁見の間を出ていった。
その際に、
「ま、待て! 待つんだギデオン! ギデオオオオオオオンッ!」
と、それでもウィルフレッドはそう声をかけ続け、
「……わ、私ではないのか?」
と、ジェフリーはギデオンのまさかのセリフにショックを受けてその場に膝から崩れ落ちそうになった。