第69話 「固有職能」について
「さて、一体何処から話せば良いのだろうなぁ」
と、そう呟いたウィルフレッドだが、残念な事にそれに答える者は誰もいなかった。
それから少しして、黒髪の少女を連れ出した騎士達と数人の勇者達が謁見の間に戻ってきたのだが、皆、暗く疲れ切った表情をしていた。
そんな彼らに向かって、
「海神は大丈夫なのか?」
と、爽子が尋ねると、
「あー、海神さんはだいぶ落ち着いてきましたので、今、天上さんが一緒に部屋に残ってます」
と、その中の1人である眼鏡をかけた少年がそう答えた。因みに、この少年も勇者の1人である。
そんな眼鏡の少年の言葉に、爽子は「そうか」と胸を撫で下ろすと、
「ウィルフレッド陛下」
と、ギロリと睨むようにウィルフレッドを見ながらそう口を開いたので、
「な、何かな爽子殿?」
と、それを見てビクッとなったウィルフレッドが尋ねると、
「『固有職能』とか『固有職保持者』って、一体何なのですか?」
と、爽子は鋭い目付きで更に睨むようにそう尋ね返した。
その質問にウィルフレッドが「それは……」と答え難そうな表情になると、
「爽子殿、それはあなた達が知る必要のない事です」
と、ウィルフレッドではなくジェフリーがそう答えた。口調は冷静なものだが、よく見ると表情は何処か落ち着きがないように見えた。
すると、
「あなたには聞いてません!」
と、爽子が怒鳴るようにそう言ったので、ジェフリーは思わず「ひっ!」と小さく悲鳴をあげたので、
「よせ、クラーク教主。彼女達には知る権利がある」
と、ウィルフレッドがジェフリーに向かってそう言うと、すぐに爽子達に向き直って、
「すまなかった、爽子殿に勇者達。『勇者召喚』が行われたあの日、私は其方達に嘘をついてしまった」
と、謝罪した。
爽子はその謝罪を聞いて、
「嘘……ですか?」
と尋ねると、ウィルフレッドは真っ直ぐ爽子達を見て答える。
「実は『職能』には、『戦闘職能』と『生産職能』の他に、もう1つ存在しているのだ」
「それが、『固有職能』ですか?」
「そうだ。通常、『職能』は成人を迎えた時に神々から授かるのだが、この『固有職能』は何故か生まれた時から既にその者の身に宿っているもので、これを持つ職能保持者は『固有職保持者』と呼ばれると同時に、『悪魔』とも呼ばれている」
『あ、悪魔ぁ!?』
「そうだ。そして、その『悪魔』の力を秘めた固有職保持者を討伐……即ち殺す為の組織が、こちらにいるギデオンが率いる断罪官なのだ」
その説明を聞いて、それまで「固有職能」の事を知らなかった爽子達は「そんな……」とショックを受けていると、
「私からも質問していいだろうか?」
と、今度はウィルフレッドが爽子達に向かってそう言ったので、爽子は「何ですか?」と言うと、
「其方達は『賢者』という存在について知っているみたいだが、よければ其方達が知ってる事を教えてほしい」
と、ウィルフレッドがそう言ってきた。
その言葉に爽子が「え……」と困ったような表情になると、まるで「救い」を求めるかのように他の勇者達を見た。
その様子を見て勇者達が「え、ちょ……!」と戸惑っている中、
「じ、じゃあ俺が……」
と、先程の眼鏡の少年が「はい」と手を上げながらそう口を開いたので、
「頼む」
と、ウィルフレッドは眼鏡の少年に向かって頭を下げた。
それを見て眼鏡の少年は「う……」と呻いた後、
「え、えーっと、これはあくまで『創作物』の中での事なんですが、俺達が知ってる『賢者』っていうのは、『悪い奴』から世界を救う『勇者』のパーティメンバーの事で、この世界風に言いますと、色んな魔術を操るエキスパート……って言えばよろしいでしょうか?」
と、若干自信なさそうにそう説明した。
その説明を聞いて、
「おお、それは凄いな。どうやらこの世界にとっての『賢者』と其方達が知る『賢者』は別の存在のようだな」
と、ウィルフレッドが納得の表情を浮かべていると、
「? それは、どういう意味でしょうか?」
と、爽子が首を傾げながらそう尋ねてきたので、
「先程も説明したように、『固有職保持者』とは生まれながらに既に『職能』を宿している者達だ。そして、この世界に最初に誕生した『固有職保持者』の『職能』が、『賢者』なのだ。伝承ではその昔、『賢者』はあらゆる魔術を操っていたのだが、とある出来事をきっかけにその力を暴走させてしまい、結果、自身の故郷を滅ぼしてしまったのだ」
と、ウィルフレッドはそう説明を付け加えた。
その説明に爽子は顔を真っ青にいして「そんな……」と小さく呟くと、ウィルフレッドは更に説明を続けた。
「そしてそれ以降、『賢者』は世界中から『国潰しの悪魔』、または『始まりの悪魔』と呼ばれ、恐れられるようになった。それと同時に、この事態をきっかけに全ての固有職保持者達が、皆、『悪魔』と呼ばれるようになったのだ」
と言って、ウィルフレッドはそう説明し終えると、
「そんな。そんなとんでもない『力』を、雪村は持っているというの?」
と爽子はショックでその場に膝から崩れ落ちそうになった。
爽子だけではない、勇者達も同様の様子だった。
その時、
「あ」
と、爽子の脳裏に、あるセリフが浮かび上がった。
ーーちょっとユニークな、一般人です!
それは、『勇者召喚』が行われたあの日、春風が言ってたセリフだった。
そのセリフが浮かび上がった瞬間、
『あれってそういう意味だったんかーい!』
と、爽子と勇者達は、皆、頭を抱えてそう叫んだ。