04話 第一王子、タバコを吸う。
衛兵の後ろで、私は右腕を天に向かって伸ばした。すごい、どこまでも高い天井...。
それに、柱があるだけで壁がなく、美しい花々が咲く中庭が目に入った。見るもの全てが美しい...私の中の美しいもの一覧がどんどん更新されていく。
「こちらに国王陛下と第一王子様がいらっしゃいます。」
「ここまで案内ありがとうございます。...あなたは入らないんでしょうか?」
「私は持ち場に戻ります。」
持ち場って、持ち場ってもしかして両門のところ!?今って代わりの誰か立ってるのかな?立っていないのなら、...というか、あんな重い扉を開けられる魔法?があるのなら、わざわざあんな場所に人を置いておく必要もないんじゃ?絶対セキュリティに長けた魔法あるよね!?
衛兵が去り、一人残った私は息を呑み扉をゆっくりと押した。
あっ、ノックの一つぐらいするべきだったかな?
すごい...夢にみた謁見の間というやつかな?目線の奥に豪華な椅子が1つ置かれており、さらにその奥にまだ部屋があるように見え、そこから男が1人歩いてきた。
男は金髪と水色の目...顔立ちのいいイケメンだけれど、どことなく人相が悪く、想像していた爽やかな王子様!って感じではなかった。
彼は豪華な椅子に座り、足を組み、肘をついた。
「私は第一王子ギルベルト・ローズ。あなたはーーー」
ギルベルトの目がベルバラの赤い目に魅入られる。
「ーーー...シスターベルバラ様ですね。お待ちしておりました。」
お待ちしてたって、私はこの人に呼ばれてきたってことなのかな?
「ベルバラ様には是非とも、第三王子に憑いた悪魔を祓ってほしいのですよ。」
悪魔!?
「私たち兄弟とは異なる黒髪に赤い痣を持って生まれた哀れな第三王子エリス。黒と赤というのは悪魔の特徴と同じでしょう?ですから是非とも聖職者であり、清らかな聖女であるシスターベルバラ様にその身を蝕む悪魔を祓ってほしいんです。」
えっ、...突然変異で見た目が違うんじゃないの?
「その、エリス様はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「地下牢です。」
「地下牢!?」
「えぇ、その悪魔が私たちに移らないように隔離しているんです。同じ血を持つ私たちに移ってしまう可能性、捨てきれませんからね。」
なんだろうこれ、気持ち悪いっていうのかな?魔法があるファンタジーな世界なのに、話を聞いている限りだと考え方が古すぎる。その第三王子を見たら、私が見ても悪魔が取り憑かれてるなんて馬鹿な考え起こすのかな?私はどうしても突然変異としか...。
第一王子ギルベルトは服の内側からなにか細い棒を取り出し、それを口にくわえーーーってまさか!?その先にバチッと火がついた。
た、...たばこ、たばこだ。
「エリスもベルバラ様と同じ金髪、水色の目ならどれほどよかったものか。」
私の目って水色なんだ。
ふぅー。第一王子ギルベルトは白い煙を吐き出す。
「悪魔に取り憑かれてしまったせいで、湿った地下室に一人、私たち兄弟と顔を合わしたのは遥か昔、もうエリスの顔も覚えていないんです。悪魔の所業、とても残酷でしょう?」
「...そうですね。」
「ベルバラ様には一室ご用意しておりますので、そちらでゆっくり休まれてください。侍女に説明しておきますので、体調が整い次第侍女に声をかけ、エリスのいる地下牢までお願いします。」
何年も会っていない弟の顔が見たい、そんな待ち遠しい気持ちが見えてこない。
ギルベルトが煙を吐き出す。鼻をツンと刺激させる苦い煙が部屋に篭り始める。