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番外編 おひげ

 目の前の扉をノックする。

 応答する声とともに足音が近付き、やがて開けられた扉から目的の相手が顔を出した。

 青と赤の髪を揺らし出てきた相手――カイルは、私の姿を見て驚きからか目を見開く。

 その顔は私の予想通りのもので、思わず笑みがこぼれそうになるのを私は必死に抑えた。


「……お嬢? どうしたんだ、それ?」


 それ、と指を差されたのは私の口元。

 そこには普段はないふさふさの白いお髭が自己主張している。


 私はカイルの質問にはあえて答えずお髭をいじりながらあっけらかんと答えた。


「お嬢? 誰ですかそれは? わたしはお嬢ではありません。通りすがりの紳士です」

「……そうなんですか。立派なお髭ですねぇ」

「むふふん。そうでしょう。自慢のおひげなのですよ。ホッホッホ」


 紳士なお髭を見せびらかすように自慢しつつ私はカイルを見上げる。

 そこには私と同じ農作業スタイルをしたカイルがくすくすとおかしそうに笑っていた。


「それで、通りすがりの紳士さんは俺に何か御用ですか?」


 ニヤニヤ笑いを浮かべたまま玄関に寄りかかり私を見下ろすカイルは、農作業スタイルなのにどこかカッコいい。

 やはり顔がいい人はどんな格好でも様になるのだろうか。


「一緒に農作業しませんか?」

「もちろんいいですよ」


 カイルからの返事を聞いた私はすぐに彼に手を差し出して、その手を取ったカイルとともに朝の日課である畑作業に向かうのだった。


「ところで紳士さん。その立派なお髭はどうしたんですか?」


 日課も終わりベンチで一息入れているとカイルが疑問をこぼした。


「えっとねぇ――ハッ! こほん。これですかな? これは私の兄から頂いたものですぞ」


 唐突に振られついうっかり紳士が抜けてしまったことに気付いた私は急いで取り繕う。

 そんな私がおかしかったのかカイルは吹き出すように笑い出した。


「くくっ……そ、そうなんですねぇ。では何故お兄様はそのようなお髭をお持ちだったのですか?」

「え? うーん。わかんにゃい」


 ふるふると首を横に振る。その拍子に口元の髭がそよそよと揺れてくすぐったい。

 今日の朝、日課に向かう私にガルラさんが声をかけてきて「これもういらないからメイにやる」と言って渡してきたのです。本当になんで持ってたんでしょうか。変装道具でしょうか?


「そっかー。わかんにゃいかー。くくっ」

「おひげも似合うでしょー?」


 何かがツボに入ったのかカイルはずっと笑ってる。そんな彼に私はにっこり笑って聞いてみた。

 ガルラさんからお髭を貰ってすぐ装着して、なんだかんだつけたまま今の今まで過ごしていたんだよね。

 自分的には気に入ってるし、似合っているとは思ってるんだけど、そんなにおかしいかな?


 なんだかサンタクロースの仮装をしてるみたいでちょっと楽しいのです。

 なんだったら赤い服と帽子を着て完全にサンタクロースになるのも吝かではない。もうすぐ冬だし季節的にもちょうどいい。


 この世界にもクリスマスって名前じゃないけど、似たような行事があるみたいです。

 家族や大切な人と楽しく過ごす日、一年無事に過ごせた感謝をする日、来年も無事で過ごせるよう祈る日、みたいな感じですね。ちなみにサンタクロースはなし。

 一応プレゼントを渡す文化はあるっぽいけど、サンタクロースみたいな形ではないっぽい。


 去年はそんな行事があるの知らなかったし、結局何もできなかったから今年は何かしたいですね。願望ですけど。


「あぁ似合う似合う。かわいい紳士だ」

「ホッホッホ。そうじゃりょーとも」


 カイルだけじゃなく私の身近な人達は何も言わずに子供の遊びに付き合ってくれるからやりがいがあります。

 なので、いつでもこの紳士なサンタクロースになれるように、このお髭は影に入れて持ち歩くことにしました! 決定!

 

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