水の都編7 戦いの後は
「――はっ! ちゃこ焼き! ぁぅ……」
意識が浮上した私はがばりと身を起こし、そして撃沈する。頭のフラフラがまだ取れてないようだ。
「大丈夫かお嬢? まだ寝てた方がいいんじゃないか?」
「カイしゃ……?」
「おぅ。俺だ」
柔らかい布団に倒れ込んだ私を、カイルさんが覗き込んでくる。
私が名前を呼ぶと彼は優しく微笑み、つられて私の表情もへにゃりと崩れた。
「ん。布団?」
「宿に戻って来たんだよ。だから無理せずしんどいなら寝てな」
その後、私の体の下にある布団の存在に疑問を抱くと、カイルさんがすぐさま答えをくれる。
どうやら私が倒れた後に町まで戻ってきたカイルさんが、急いで宿まで運んでくれたようだ。
ミラさんとちびフーちゃんは持って帰ってきたクラーケンを解体しているらしい。
あの巨大なタコを持って帰ってこれたんだという気持ちと、あのタコは本当に食べれるのかというちょっとした疑問が浮かぶ。
青いからちょっと食欲が失せるよね。茹でたら見慣れた赤い色に変わるかな?
そんなことを考えつつカイルさんとの会話を続けていたら部屋のドアが開いた。
そこから顔を覗かせたのはミラさんと、ミラさんの腕の中にいるちびフーちゃん。やっぱり布から腕だけ出てるの不思議な感じ。
「メイ。起きてたのか」
「フーちゃんおはよー。あちょお帰り」
「あぁ、おはよう」
ミラさんの腕の中からベットの上にピョンと移動してきたちびフーちゃん。
その頭を撫でながら私はミラさんにも声をかける。
「ミラもお帰りなしゃー」
「ただいま戻りましたメイ様。ご気分はいかがですか?」
「まだちょっとふやふやしゅるけどへーき!」
むんっと力こぶを作ってみせ元気アピールをしてみるも、ミラさんから無理はしないでくださいというありがたいお言葉を頂いてしまった。
「メイ。クラーケンなんだが、アレはどうするんだ。喰うのか?」
「うーん。食べようと思ってはいちゃけど……アレ食べれるのかなぁ」
「毒はないので食べれますよ」
私が抱いていた疑問を口に出すと、ミラさんが食べれるとの回答をくれた。
「ほんと?」
「はい」
「じゃあ食べゆ! たこ焼きなやぬくやーけん焼き作りゅ!」
「まじかー」
カイルさんが私の発言に引いている気もするけど気にしない。たこ焼き美味しいから!
でもミラさんが食べられるとは言っていたけど、美味しいとは言ってなかったから、作る前に味見はしようそうしよう。
「しょういえば、くやーけんはどこ?」
「足と胴体に切り分けてミラが保管している。出すか?」
「うぅん。まだいい」
「そうか」
「では今暫くこちらでお預かりしておきますので、必要になればお声がけください」
「うん。ありあとミラ」
あれだけ巨大なんだから足一本でも十分な量が確保できるだろうし、残りはどうしよう。海に返せば魚が食べてくれるかな。
「あっ!」
そこまで考えた私はあることを思い出し口を覆う。
「どうしたお嬢」
「釣り道具借りっぱなしだ!」
窓の外を見てみるともうすっかり暗くなってきている。
どうしよう。急いで返しに行かないと。だけど営業時間っていつまでだ? 盗んだと思われちゃう。
「そういえば忘れてたな。俺が返してくるから出してくれるか?」
「いいの?」
「あぁ。今はお嬢は外に出ない方がいいだろうしな。ゆっくり休んでてくれ」
「ごめんね。ありあとカイしゃん」
「気にすんな」
影に入れておいた道具一式を取り出し、そのままカイルさんに渡す。
荷物を受け取ったカイルさんは足早に部屋を出て行った。
そしてカイルさんが部屋を出たあと私は強制的に睡眠をとることになる。
私の体調を気にしたちびフーちゃんとミラさんの二人に布団に押し込められたのだ。さらにはちびフーちゃんにお腹ポンポンされたあとの記憶がない。
起きたらカイルさんも部屋にいたし、外も完全に真っ暗になっていてびっくりしたよ。
寝過ぎたことをカイルさんに謝り、私達は宿の一階にある食堂でご飯を食べることにした。
結局クラーケン退治で貴重な一日を使ってしまったけど後悔はない。これでカイルさんの仇も――死んでないけど――取れたもんね。
「あ、お嬢。もしかしたらちょっと騒がしくなるかもだから覚悟しててくれな」
「あーい、わかったー」
ろくに観光出来なかったのは残念だけど、明日一日は遊ぶんだ!
それで次の日は海底神殿に行って、お家に帰る。よし、完璧な日程だ。
そんなことを考えながら階段を降りると、騒がしかった食堂が一瞬でシーンとなった。
なにがなんだかわからなくて不安になったのも束の間。次の瞬間にはわっと盛り上がりを見せる。
訳がわからず混乱しながらぎゅっとちびフーちゃんを抱っこしていると、知らない人達が私達に群がってきた。
「み、みぃー!」
老若男女問わず集まってきた彼らに、申し訳ないけど恐怖が勝ってしまった私は急いでカイルさんの後ろに隠れる。
みんな表情は笑ってるけど、お酒が入ってるのか上機嫌で口々に私へ何か言ってきて怖い。一斉に喋られても何も聞き取れません。
「申し訳ありません皆様方。お礼を伝えたい気持ちはわかりますが、お嬢様が怖がってらっしゃるので遠慮していただけますか?」
「でもよぉ兄ちゃん。あの邪魔なクラーケンの野郎を退治してくれたんだから、やっぱ直接礼が言いてぇんだよ」
「私も! こんなちっちゃいのにクラーケンを倒すなんてすごい魔法使い様なんだね! やっぱりユリウス様の姪御様なだけあるね!」
「ふぇ?」
「そうそう! 初め聞いた時は信じられなかったけどこれだけの実力があるなら間違いねぇよな! やっぱ神々の力はすげぇや!」
「ほんとに! 大したものだよ! 本当にありがとうね! なにか食べたいものはあるかい、ご馳走させとくれよ!」
「あぅ」
「やはりユリウス様は我らを救ってくださった。ありがたやありがたや。これからも我らをお導きくださいませ……」
「この町に来てあっという間にクラーケンを倒すなんてやっぱり頼れるのは領主様じゃなくて神々だな!」
「だな! 領主様がダラダラ手をこまねいてる間に姪御様はささっと解決してくれたんだ! 明日の祭りには神殿に供え物を持っていかないと!」
「あたしはもうお供えしてきたもんねー!」
なるほど。私がクラーケン退治をしたことも、ユリウス様の姪的立場のことも、何故かみんなにバレてるのね。
……なんで?
そういえばさっきカイルさんが騒がしくなるって言ってたけど、これのことだったのか。
てっきり酒場も兼用してるからお酒飲んで騒いでる人がいるくらいの認識だったよ。
でもこの騒ぎじゃ落ち着いてご飯なんて食べれないしどうしよう。
結局お酒が入ってテンションが上がりきった人達に絡まれるのが嫌だったので、ご飯は部屋に運んでもらった。
そこでご飯を食べつつ、みんなに私が気を失っていた間の出来事を聞く。
カイルさん曰く、倒したクラーケンをミラさんが港まで運んだ。その際突然の巨大クラーケンの出現に港騒然。
でも既にクラーケンは事切れているから騒ぐなとちびフーちゃんが一喝。港にいた人に誰が倒したか聞かれ私が倒したということをミラさんが暴露。
その間にカイルさんが私を抱えて宿に離脱。残り二人は騒ぐ人達を無視してクラーケンの解体開始。
クラーケンが退治されたことは一気に町全体に広がって、この時に私がクラーケンを仕留めたことも広がったもよう。
俄には信じられないという人も沢山いたらしいけど、実際クラーケンが仕留められているし、そのクラーケンを簡単にスパスパ切り刻んでるミラさんを見た人達が本当のことだと色めき立つ。
漁師の人達をはじめ困っていた人達がクラーケンの脅威が去ったことに感謝して宿に押しかけてきたけど、私はまだ起きてなかったしカイルさんが追い払おうと試みた。
でも興奮している人達相手にはうまくいかず、フェルトス様とユリウス様の名前を出して私との関係性を説明したところでようやくみんなが解散。
なるべく静かにしているように伝えて了承を得た。
ちびフーちゃんやミラさんのとこでもいろいろあったみたいだけど、二人は全無視していたようなので詳しいことはわからない。さすが慣れていらっしゃる。
人間の相手なんてわざわざしない二人組だから、この対応はさもありなん。
そんな感じで今この町はお祭り騒ぎのようだ。実際明日は祭りにするみたいだし浮かれているのだろう。
なんだかこの世界の人はお祭り好きなイメージがついてきたな。何かあれば祭りにしたがってるような……いや、それは地球も変わらない……のか?
そして翌日。
朝から騒がしい町の中を私達四人は海岸に向かって進む。結局ミラさんは私を心配してくれて昨日は帰らずに今も一緒にいてくれてる。もちろんユリウス様も了承済み。なんかすみません。明日会えたらお礼しますので。
海岸に向かう道すがらすれ違う人達から声をかけられたり、いろんなものを渡されそうになったりと移動するだけでも一苦労だ。
でも途中からミラさんやちびフーちゃんが町の人を威嚇してくれたおかげか、遠巻きに騒がれるだけに落ち着き、移動もスムーズにできた。
無駄に話しかけられることもなく無事海岸に辿り着いた私達は、早速ミラさんに預かってもらっていたクラーケンを引き取る。
本当は朝に宿の部屋で渡してもらおうとしたのだけれど、ミラさんがどこからともなく取り出したクラーケンの足があまりにも大きく、これは室内では無理と判断し断念。
ならば外。ということで外に出た私はせっかくなので海で遊ぼうと提案しここまで来たという訳です。
ミラさんが取り出したクラーケンをそのまま私の影に入れてもらうことしばらく、あまりの多さに怖くなり私は途中でストップをかけてしまった。
多分全部影に入れても問題はないんだろうけど、私は昨日倒れたこともあり念の為にもとミラさんに断りを入れ残りは預かってもらうことにした。
なんなら明日残りを貰うか、迎えに来てくれるかもしれない保護者ズに期待しておく。
「カイしゃ! 見て見て! こえは今までで一番綺麗なかいがやだと思うんでしゅけど!」
「本当だな。すごいじゃないかお嬢。お嬢は貝殻探しの名人だな」
「むふふー。ミラも見て見てー!」
「良かったですねメイ様」
「あい! こえは一番だかやフェルしゃまへのお土産にしゅる!」
「それは素晴らしい考えです」
「でしょー!」
クラーケンの受け渡し後、私は綺麗な貝殻探しを始めた。
カイルさんに傘を差してもらいながら砂浜を歩いて回り、いい感じの貝殻をゲットするべくキョロキョロと周囲を見回す。
そして私のお眼鏡に適った貝殻を見つけてはカイルさんやミラさんに見せびらかすという行動を繰り返している。
ちなみにちびフーちゃんはミラさんの腕の中でぐっすりお休み中。省エネモードですね。
大体の町の人はお祭り騒ぎのため神殿や町の広場などに集中してるせいか、ここは私達の貸切みたいになっていて気兼ねなく過ごせます。
そうやって貝殻探しをしたり、波打ち際で遊んだり、水着に着替えて泳いだり――ミラさんは布を被ったまま海に入ってたよ――としてる間にお昼の時間になった。
本当ならたこ焼きを作りたいけど、プレートがないので今回はお預け。帰ってからのお楽しみにします。
というかそもそも今回は旅行先故、調理道具などは持ってきてない。包丁とまな板くらいですね。
あとはお皿やお箸。醤油や塩なんかもある。
そうです、万が一に備えこれだけは持ってきちゃいました。やはり使い慣れたものの方が良いもんね。
荷物になるから普通なら持ってこようとも思わないけど、私達には最強のカバンがあるので荷物の量は関係ないのです。むふふ。神様チート万歳。
町の中に戻ったらまた騒ぎになるかもしれないけど、お腹も空いてきちゃったしここは妥協してみんなでご飯を食べに行きますか!
シャワーがわりに水の魔法で体を洗い、ささっと着替えていざ出発――
「メイ様。ワタクシはこの辺りでお暇させていただきたく存じます」
「う?」
――しようとしていたら、ミラさんからの帰宅宣言。
私の体調も安定しているし、明日の準備もあるから一度戻りたいとのこと。
そういうことならとミラさんの帰宅を了承し、長々と付き合ってくれてありがとうとお礼を言って別れた。
ミラさんがそのまま海にザブンと入っていったのにはびっくりしたけど、海の底に家があるなら当然なのかな。
絵面が完全に入水うんたらだったよ……怖いね。
さて、気を取り直してお昼食べに行きますか!




