水の都編2 町へ
久しぶりの投稿なのに前話にさっそくのいいねありがとうございました!
凄く嬉しいです!
お姉さんが作った即席の契約書みたいなものに目を通して、問題ないと判断したカイルさんはサインをする前に一度私に手渡してきた。
いまだに文字を読めない私に渡されても困るけど、どうやらそうじゃなくてちびフーちゃんに見せたかったようだ。
私の両手はちびフーちゃんと傘で埋まっているので、私の代わりに書類を受け取ったちびフーちゃんが、素早く書類に目を通してた。
その後ちびフーちゃんにも問題なしをもらったカイルさんがさらさらっとサインをしてくれる。
「それで、そちらの敷物に乗せてくださいますの?」
サインを確認したお姉さんは書類を丁寧にカバンにしまうと、私の方へと顔を向けた。
「あ、いえ。お姉しゃんはどうじょご自分の馬車に乗っていてくだちゃい。他の方は絨毯にどうじょ」
「は?」
お姉さんが意味がわからないって顔してるけど、カイルさんとお姉さんを一緒にはしておけないから仕方ない。それにそもそも運ぶなら最初から馬車ごと持っていくつもりだったから問題ない。
あ、でも馬はどうしよう。置いていったらダメだよね? だからって浮かせて持ち上げたらびっくりさせて怖がらせちゃうし、どうしよう。
「お姉しゃん、お馬しゃんはどうちまちゅか?」
「……それなら問題はありません。ですよね?」
お姉さんがチラッと護衛の人達に視線を向けると、それに応じるように彼らは頷き行動に移した。
そして手際よく二頭の馬を自由にした護衛の人と、御者さん――多分だけど――がそれぞれの手に馬の手綱を握る。どうやらこの人達が乗って移動するらしい。
彼女らは全部で七人。
お姉さん一人と、護衛の人が五人と、御者さんが一人。
馬移動で二人減って残り五人。うん、運べない人数じゃないな。
お姉さん達が広げていた修理道具や壊れた車輪なんかもちゃんと片付けて忘れ物がないかチェック。
そしてお姉さん一人にするわけにはいかないということで、馬車内にはお姉さんと護衛のリーダーおじさんが、あとの残りは私達の絨毯に乗ることになった。
ちょっとばかり重いけど、それは最初だけで一度持ち上げちゃえばあとは楽だから平気。
浮かせる下準備をするために最初に馬車に触れて私の魔力を馴染ませる。
フェルトス様とかガルラさんレベルまで魔力や魔法を使いこなせるようになれればこの作業も要らなくなるんだけど、私はまだその領域まで行けてないので地道に頑張るしかない。指パッチン発動に憧れます。
一分程して馬車に魔力が馴染んだら、みんなに声をかけてそれぞれの場所に乗り込んでもらった。
私達も絨毯に乗り込み、カイルさんに傘を差してもらいつつ私は影から杖を取り出した。
いつもは使わないけど今回は万が一でも落としちゃダメだから補助として杖を使います。
ようやく準備が終わったので、驚かせないようにみんなに一声かけてから私達は浮かび上がる。
まずは私達の乗る絨毯を先行させ、その後ろを追う形で馬車を運んだ。
馬に乗る二人は私達が飛び立つのを確認してからそれぞれ馬を走らせる。
「ではわたし達はしゃきにいきましゅね。お二人ともお気をちゅけて」
「はい、ありがとうございます。お嬢様をよろしくお願いいたします」
「あい」
地上組に一言お別れを告げ、そこからは彼らとは別行動。私の移動は馬より早いからね。
馬と並走しても良いけど、それだと時間かかるし疲れちゃうからと事前に説明して了承も取っているから問題はない。
三人だけの時は少しゆっくりめに飛んで景色も楽しみつつの移動だったけど、今は楽しむ気分でもなくなっちゃったからさっさか飛ばしてグランゼルトに向かいます。
馬車内の様子はわからないけど、絨毯組の反応は直で見れるのでちょっと楽しい。
特に約一名が驚いたり興奮したりでとにかくテンションが上がっているもよう。
「怖くないでしゅかー?」
「大丈夫っス! 空を飛ぶのは初めてなのですごく楽しいっス!」
カイルさんみたいに高所恐怖症の人がいたら申し訳ないと思いつつ後ろの三人に一応の礼儀として声をかけると、テンション爆上がりのお兄さんがすぐに返事をしてくれた。楽しそうでなによりです。
「にゃはは。しょれはよかった! お二人も大丈夫でしゅ?」
「あ、はい。お気遣いありがとうございます」
「私も平気です」
残りの二人も平気そうなんでひとまず安心かな。
そんなこんなで楽しそうなお兄さんのおかげで賑やかな空の旅となりましたが、それももう終わり。
町に入る手前で絨毯と馬車を降ろす。そして彼女らと手短に挨拶を済ませて私達は先に町へと入ることにした。
「ねぇカイしゃん」
「なんだお嬢」
「カイしゃんはわたしにとってしゃいこーのお友達だかやね」
通行料を払い門をくぐる直前。私は繋いでいたカイルさんの手をぎゅっと握って話しかける。
「ちゅよくて、かっこよくて、綺麗で、優しくて、しゃいこうにくーりゅな自慢のお友達なの!」
出来損ないなんかじゃない。
なんであのお姉さんはあんな酷いことを言ったのだろうか。
あの時は色々驚きすぎてそれどころじゃなく言い返せなかった。
守るって決めたのにできてないし情けない主人で申し訳ない。もっとしっかりしないと!
一応町まで来れたし、もう危険はないだろうから、できればこれ以降は彼女とは会いたくないのが本音。
同じ町にいるならもしかしたら会うかもだけど、大きな町だしめったにないよね。
「――ありがとな、お嬢」
「にしし。大しゅきだよ、カイしゃん」
「俺も、お嬢が大好きだよ」
「えへへー。照れるぅー!」
「ふふっ」
お互いに笑い合っていると、カイルさんが傘を回収してくれたあと抱っこしてくれた。
「ほらお嬢。ここが水の都グランゼルトだ。綺麗だろ?」
「うぉお、これがみじゅの都! きれー!」
水路に流れる水が太陽の光を反射してキラキラ輝いているようだ。
カイルさんに抱っこしてもらったおかげで視点が上がり町がよく見える。
どうやらこの町は陸路より水路の方が多いみたいで、移動は船の方が一般的なのか小さな船が水路を進んでいく。
はじめての町にさっきまでの暗い気持ちは吹き飛び、一瞬でテンションが上がってしまった私はカイルさんの服を掴み催促をするように揺すった。
「早く観光しよ!」
「待て待て。先に宿取ってからだ」
「あーい。フーちゃんおいで!」
「あぁ」
カイルさんの足元でぼーっとしていたちびフーちゃんを呼び腕に抱えた。
「よち。カイしゃん号発進! 目標は宿屋しゃん!」
「アイアイ、お嬢」
私を片手で抱えたカイルさんが器用に傘を開き日影を作ってくれる。
そしてそのまま三人で楽しくお喋りをしながら宿へと向かったのだった。




