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8 緊急事態発生

 緊急事態です! 緊急事態が発生しました!


 おはようございます。朝一番からうるさくてすみません。

 そして朝一番からとか言いましたが、正直現在時刻が朝かどうかはわかりません。

 だってこの場所はずっと薄暗いので時間経過がわかりづらいんですもの。


 ただ。今の私はフェルトス様の眷属になったため、人間だった頃と比べたらハッキリとモノが見えるようになりましたけどね。


 この場所は地底だから太陽は存在しないとのこと。だから薄暗いのは当然というわけです。昨夜寝る前、フェルトス様に聞いたら教えてくれました。


 さらに言えば、月に見えるアレ。正体は暇だったフェルトス様が、暇潰しにちょちょいと作った擬似的な月擬きらしい。


 いやはや神様ってやっぱりすごいですね! もはやスケールが違います。

 それに光源としては十分機能しているので私的には文句はありません。


 とにかく。そんなわけで、ここでは時間経過がイマイチわからない。

 なのでなんとなくで過ごしています。


 話が逸れた。緊急事態の話に戻りましょう。


 昨日の話です。

 セシリア様が帰ったあと。残ったトマトを何故か私がフェルトス様へ手渡しで渡し、フェルトス様はそのままトマトを全部平らげた。

 そこでようやくいじけていたフェルトス様も無事復活。

 そして眠いから寝るとフェルトス様はベッドへ向かいました。


 私もいろいろあって疲れていたし、これ幸いとそのまま一緒に寝たのです。

 場所はもちろんフェルトス様の祭壇(ベッド)ですよ。

 だってそこしか寝る場所がなかったので。さすがに地面に直はちょっと抵抗があります。


 今の私は小さな子供で場所も取らない。

 さらに私とフェルトス様の二人とも、一緒のベッドで眠ることに対して一切気にしていなかったので無問題。

 むしろ親子で一緒に寝るようなもの。何も問題はありません。


 問題があったのはそのあと。


 ものすごく硬いベッド――ほぼ石そのものといっても過言じゃなかった――で寝ていたせいか、起きたら体中が痛いのなんの。

 あんなベッドでは熟睡なんて夢のまた夢。むしろこれだと地面に直で寝たのとあんまり変わらないんじゃないでしょうか?


 かくいうフェルトス様はというと……それはもうぐっすり寝ておられましたとも!


 何故こんな硬いベッドでそんなにも安らかに眠れるのか。本当に心底不思議です。

 ちなみに気になっていた寝姿勢については横向きで寝ていました。

 やっぱり翼が邪魔なのだろうか。


 そして私はというと。抱き枕よろしく、フェルトス様が抱き込む形で寝ていました。

 寝付く前は潰されないかちょっと不安でしたが、フェルトス様も気を遣ってくれたのか意外と居心地はよかったです。寝心地は最悪でしたがね。


 とにかく。布団どころか枕すらない粗悪ベッドは最悪で、これから毎日こんな状態なんて耐えられない!


 ここには生活用品が何もない。着替えだってない。お風呂やトイレなんかも何もないんですよ。私はほぼ身一つで落ちてきたから当然何も持っていない。

 唯一持っていたペットボトルはすでに無残な姿に変えられ、冥界の地面に捨て去られていますからね。


 昨日はゴタゴタしていてあまり気にしてなかった。

 だけど落ち着いて現状を把握してみたら、やっぱり色々足りないのが不満なのです。


 というわけで。私の積もった不満話をムリヤリ起こしたフェルトス様へ訴えてみました。

 不機嫌バリっバリなお顔がちょっとだけ怖いけど……メイは負けません。

 こちらも精一杯不満げな顔を返してあげます。


「……つまり、なんだ。貴様はその布団とやらが欲しいのか?」

「布団だけじゃにゃくて、いろいろ欲ちいんでしゅ」

「………………そうか。オレは必要ない」


 でしょうね!

 だってフェルトス様はいままでこの状態で過ごしてきたんですものね。

 そりゃ布団やらなんやらの必要性を感じませんよね。わかりますよ。


 ですが、私は必要なんです! わ・た・し・は・ね!


 少し長めの沈黙後、サラっと答えたフェルトス様へ不満をぶつける。


「ふぇりゅとちゅちゃまがいりゃにゃくても、わたしはいるんでしゅ!」


 もう名前が言えないのなんて気にしないもんね。ケッ。

 とにかく私は自己主張をしなければいけないんです。これからの快適生活のために少しでもね。

 このまま放置の方向に向くようなら、セシリア様への眷属乗り換えも考慮するレベルですよまったく。


 あぐらをかいたフェルトス様の正面に陣取り、体全体を使って私は抗議をする。

 そしてそんな私をフェルトス様は迷惑そうに見つめていた。


「むぅううう」


 なんですかその顔は。眷属の一大事だというのに。もっと責任感を持ってほしいところです。


 ろくにお世話ができないのなら、動物を拾ってはいけません。これは常識です!

 そのうえで拾ったのなら、きちんと面倒をみてください。そう、私の面倒をね!


「…………フェ」

「う?」

「……フェ」


 そんな私の必死さはどこへやら。唐突にフェルトス様が「ふぇふぇ」言い出しました。


 どうしたんですかいきなり。ふざけてるんですか。今真面目な話をしているんですけど。


「言ってみろ。『フェ』」


 相変わらずフェルトス様が何かを言っている。

 なんだかよくわかりませんが、このままでは話が前に進まない気配を感じるのも事実。

 仕方がない。ここは大人しく従いますかね。


 よかったですねフェルトス様。私が大人な子供で。付き合ってあげますよ。


「むぅ……『ふぇ』?」


 フェルトス様の要求通りとりあえず発音してみる。

 上手く発音できていたようで、重々しく頷いたフェルトス様がまた口を開いた。


「『ル』」

「『る』」


 あ、わかっちゃったかも。

 これはもしやフェルトス様のお名前を言わせようとしているんじゃないですか。

 だとしてもそれは今やらなきゃダメなんですか? まぁやりますけど。


 少しばかり呆れの感情が私の小さな胸に広がるけど、そこは飲み込みフェルトス様の指示に従う。


「『ト』」

「『と』」

「『ス』」

「『す』」

「『フェルトス』」

「『ふぇりゅとしゅ』……ふふん」


 さっきよりは上手く言えたので首尾は上々な気がします。

 思わずフェルトス様へドヤ顔を披露してしまうくらいにはね。それはもう上手く言えたと自負しておりますよ。ふんす。


「……」

「あぅ」


 だからその残念なものを見る目をやめてください。

 仕方ないじゃないですか、舌が回らないんですもん。私のせいじゃありません。この体のせいなんです。


「ふむ……もう一度だ。そら、言ってみろ。『フェルトス』」

「ぐにゅにゅ」


 くそう。無茶振りしてくださいますね。

 私だって心の中では普通に呼べるんですよ。

 ただ、口に出すと言い難いんですよ、あなたのお名前は!


 こちらを見つめるフェルトス様を見返しながら私は決意を固める。


 みてろよちゃんと言ってやるからなぁ! なめるなよちくしょー!


 そんなことを心の中で叫びつつ、私は大きく息を吸い込んだ。

 ゆっくり、はっきり、大きな声を意識して。今度こそ正確な発音をフェルトス様へお見舞いしてやるんです。


 いくぞ、せーの!


「『ふぇるとしゅ!』」


 おしい! もうちょっとだった!


 だとしても今までで一番の出来だった。

 それなのに何故かフェルトス様は不満顔だ。何が気に入らないのでしょう。


 少し身を仰け反らせ、眉間に皺を寄せたフェルトス様がこっちを見た。


「……うるさいぞ」

「あぅ、ごめんちゃい」


 なるほどそちらでしたか。

 たしかに大きな声を出した自覚はあるから、素直にフェルトス様へ謝る。


 でも煽ったフェルトス様だって悪いと思うんですけど。私は悪くない。責任転嫁ともいう。


「…………『フェル』ならば言えるか?」

「う? えーっちょ、『フェル?』……おぉ! 言えまちた!」


 いえい。バンザイ!


 褒めろといわんばかりにニッコリ笑顔をフェルトス様へと向ける。

 すると私の頭へ伸びてきた大きな手がそのまま私の頭を撫でた。

 まるで犬を撫でるかのようにわっしゃわっしゃと撫でられていますが悪い気はしません。ふへへ、もっと撫でてください。


「次からオレのことは『フェル』と呼べ。特別に許してやる」

「フェルしゃま?」

「そうだ」


 ニヤリと笑った顔が悪人みたいでかっこいいけど、やっぱりまだちょっと怖い。


「よし。オレはもう一度寝る。遊ぶのなら静かに遊べ」

「へ? …………いやダメでしゅ! 寝ないでくだしゃいフェルしゃま起きて!」


 こちらに背中を向けてゴロンと横になったフェルトス様。その背中を私はバシバシ叩く。

 しかしまるで効いていないのかフェルトス様は無反応だ。くそう負けるか。


「フェルしゃま起きてー! ――ってわぁ!」


 さらに追撃としてペシペシ叩いていたら、突然フェルトス様の翼が襲いかかってきました。危うくベッドから落ちる恐怖体験をするところでしたよ。危ないなぁ。


 そんな私はフェルトス様の足の方へころんと器用に転がされる始末です。

 しかし私は諦めません。この戦いに勝つまでは。


「むー! ちぇしゅとー!」


 こうなったら最後の手段。

 フェルトス様の体の上に思いっきりダイブを仕掛けてやりました。


「ぐっぅ! メイ、貴様……さっきからなんなんだ。うっとおしいぞ」


 ふっ。どうやら少しは効いたようですね。まいったか。


「ふふふん」

「……はぁ」

「う? わぁ――」


 得意げな顔をフェルトス様へ向けていたら突然首根っこを掴まれる。

 そして私を引き離すついでにグイっと持ち上げつつフェルトス様が身を起こした。

 さらにフェルトス様は私を自分の顔の前まで持ってくると、ジトっとした視線で睨みつけてきました。


 至近距離で鋭い視線と目が合ってるけれど、もう私は何も怖くないもんね。

 だってもうフェルトス様が優しい人だって気付いちゃったもんね!

 だから、言いたいことは遠慮なく言いたいと思います。


「お布団買ってくーだしゃい」


 ちょっと猫を被って可愛らしくおねだり。

 上目遣いにうるうるおめめなんてこともしちゃいます。


 絵面的には首根っこを掴まれたままだけどね。


 こんなポーズ大人の私がやったらキツイかもだけど、今の私は子供の姿。それなら何も問題はないはず。大丈夫大丈夫。


「……はぁ」


 ぱちぱちと瞬きを繰り返しながらおねだり光線を放っていたら、フェルトス様から特大のため息をいただいちゃいました。


 やめてくださいその反応。ちょっと傷つくじゃないですか。

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