番外編 カイルさん観察日記
2024/10/22追記
誤字報告ありがとうございます。
ここ最近のカイルさんの変化を綴っていきたいと思う。
一、表情。
初対面時は眉間に皺を寄せてムスっとした顔ばっかりだった。それがだんだん眉間の皺が取れて、表情も柔らかくなった。
今では眉間に皺が寄る方が少ない気がする。
二、髪型。
ここに来るまではずっと前髪で顔の右半分を隠すように覆ってたけど、最近はそこまで隠さなくなった。
風が吹いたりとか、体動かしたりして髪が乱れても、その度手で押さえたり隠そうとしなくなってきたって意味。町へ行ったりするときはやっぱりしっかり隠しちゃうけど、神域内にいる場合は隠さなくなった。自然体でいいと思います。
三、服装。
これも髪と同じように、露出ゼロだったのが――神域内限定だけど――あまり気にしなくなったみたい。
ちゃんと見たことはないけど、どうやら顔と同じような痕が体にもあるみたいです。
少なくとも右腕と右手、あと左腕にはあった。
魔物から受けた怪我の後遺症らしく、怪我自体は治ったが痕は残っちゃったそう。
動かす分には問題はないし痛みもないそうだけど、やっぱり心配。
隠してるってことはやっぱり気にしてるのかな。
もしくは本人が気にしてなくても周りから何か言われるのが嫌で隠してるだけって可能性もあるよね。
ここは突っ込んで聞いていいものか少し悩むところ。デリケートな問題だからなぁ。
ちなみにここに来てからは、私の勧めで明るい色の服とかも着るようになったよ。
前は黒一色だったからね。でもどんな服もとってもよくお似合いです。
四、性格。
これはカイルさんの元々の性格がどうだったか私にはわからないからなんとも言えないけど、少なくともよく笑うしかなり明るくはなった。
あと身内とそれ以外で態度がコロッと変わるのも面白い。猫被ってるだけだけど。
私やノランさんとかの身内認定されてる人だと今まで通りちょっとフランクだったり素のカイルさんって感じで、それ以外の人相手だとすっごくニコニコ笑顔で社交的な対応をする。女の人には特に。
カイルさん顔が良いから何も知らない女の人には効果的面だよ。いつか刺されないか心配だね。
でもまぁ何はともあれ明るくなったのは良いことだよね。
全体的にいい方向に向かってると思う。
ご飯もたくさん食べてるし、運動もしてるし、毎日楽しそうにしてる。
だから、きっともうカイルさんは大丈夫なんだと思う。
ちゃんと前を向いて歩き始めてるのがわかって、私はすごく安心だ。
そこで私はペンを置き、ノートとペンをカバンにしまった。
「メイ、先程から何を書いている?」
「えっちょ、カイしゃんのこと書いてまちた」
「あの人間か」
するとソファに座って優雅にワインを飲んでいたフェルトス様が声をかけてきたので素直に答えておく。
今日は珍しくワインの気分のようです。気に入ってもらえてるみたいで、私も造った甲斐があるというもの。
「そういやアイツ、世界樹関連のことでオマエになんか言ってきたりしたか?」
フェルトス様が何かを考えるように黙り込むと、次はガルラさんが思い出したように口を開いた。
ちなみにガルラさんはアイスにブランデー垂らして味わってます。
美味しそう……食べれないけど。
というかなんで急に世界樹の話が出てきたのだろう。
特に今までカイルさんから何か聞かれたことはないから、首を横に振ってそう答える。
「へー。そんじゃオマエに前作らせた世界樹の葉入りのポーション。アレ欲しがったりもしてねぇってこと?」
「うん。しょれがどちたの?」
「んー。いやぁ、そっかぁ。へー」
「むっ」
なんだかニヤニヤと面白そうに笑うガルラさんにちょっとムッとします。
この笑い方はいじめっ子ガルラさんのときの笑い方です。
そのことを指摘しようとしたけど、その前にガルラさんが口を開いたから仕方なく黙っておいた。
「なぁ、フェル。もうそろそろいいんじゃね? やっぱあの人間はガチっぽいぞ」
「そうだな。少し考えておく」
「んー? どゆことでしゅ?」
「気にするな」
「えー」
どうやら本当に教えてくれる気はないようで、フェルトス様は私の頭を撫でたあとはまたワインを飲み始めた。
仕方ないからガルラさんに視線を向けるけど、ガルラさんも私の頭を撫でるだけで教えてくれない。ちくせう。
なんともスッキリしない出来事に直面した私は、飾ってあったガルラさんぬいぐるみを持ち出す。
そして本人の目の前で押し潰したり伸ばしたりのムニムニの刑に処した。ただ、傷んだりしたら嫌なので加減はしてるけど。
でもそのガルラさん本人はまったく気にしてないどころか笑ってるので、この刑は何の意味もなさそうだ。
しかもフェルトス様まで笑ってるし。
「むー」
「膨れるなって。悪いことじゃねぇから心配すんな」
「ガルラの言う通りだ。悪いようにはしない、だから案ずるな」
「むぅー。わかっちゃー」
二人ともが困ったように笑いながらまた頭を撫でてくれたので、仕方ないから大人しく引きます。困らせたいわけじゃないので。
ただなんだか仲間外れにされてるようで寂しいのが本音。
だからその寂しさを埋めるように、私はフェルトス様の膝に乗って抱きついて甘えておきました。
フェルトス様も好きにさせてくれるつもりなのか咎めないので、好きなだけくっついておこうと思います。




