迷子編9 新しい日々
カイルさんがうちに来てからもう二週間程経った。
元気そうに毎日過ごしているカイルさんだけど、私的にはまだちょっと、ほんのちょっとだけ心配で、気付かれないようにチラチラ見ちゃうのをやめられないでいる。
本当に申し訳ない。
そしてカイルさんが即決するとは思ってなかった私は、彼を迎え入れる準備をしていなかった。
なのでバタバタと彼の生活基盤を整えるために忙しくしていたものだ。
カイルさんは急がなくて良いって言ってたけど、そういうわけにもいかないもんね。
でもそうやってわたわたしていたのは私だけで、フェルトス様やガルラさんは余裕でまったり過ごしてました。
フェルトス様はともかく、ガルラさんは日常にプラスでいろいろ手伝ってくれてたのに、何であんなに余裕があるのだろうか。
やっぱり大人と子供の違いか……?
そうそう。一番大きな住居問題はわりとすぐに解決したよ。
カイルさんが来て三日程経った頃かな。ガルラさんに連れられて私の畑に知らない人がいっぱい来ました。
その中の素敵なお爺様が畑仕事中だった私に挨拶してくれたんだけど、なんとビックリその人は鍛冶神様でした。私の杖を作ってくれた神様ですね。
慌てて汚れた格好でのお出迎えをお詫びして、杖のお礼と感想を伝えましたよ。
朗らかで優しそうな目をしているお爺様でした。しかも私の頭も撫でくれたし、お菓子までくださったんだよ。これはもう絶対いい人です! えへへ、やったー!
そして私との挨拶を終えると、後ろで控えていたカイルさんのことをチラッと見てから、部下の人達を連れて作業に移っていきました。
どうやら鍛冶神様直々にお家を作ってくれるそうなのです。ちなみに報酬は私のお酒。
鍛冶神様もお酒が大好きらしいので、前回の杖分も合わせてたくさんお供えしようと思います。
そんなこんなで神様直々のお家は、たった一日と少しで完成してしまった。
みなさん作業スピードが半端なく早かったよ。
お昼ご飯とか休憩のお茶とか持って行くたびに、時間が飛んだんじゃないかってくらい作業が進んでるんだもん。怖い。
ちなみに鍛冶神様はデュロイケンフィーストス様というらしい。
長いし言えないだろうからって『ロイ』呼びを許してくださった。ありがとうございます。
しかも『お爺ちゃんでもいいぞ』とまで……え、いいの? ほんとに? 呼んじゃうぞ?
そして翌日には畑から世界樹へと続く道の脇に、デンっと立派な一軒の平屋が建ちました。……すごすぎる。
ガルラさんと一緒にお礼を言って、報酬のお酒はリクエストしてもらってた清酒とウイスキーを樽ごとプレゼント。
とっても喜んでくれて、また何かあれば気軽に言ってくれってお言葉までもらっちゃったよ。
また一人強力なお知り合いが増えて心強いですね。
さて、これでカイルさんも晴れて家持ち。
それまでは唯一の建物である酒蔵で寝てもらってたから、申し訳なかったんだよね。
お部屋がいっぱいあるから私も使って良いそうです。やったぜ。
とにかく、それらの忙しい日々は今は落ち着いて、日常が戻ってきました。
「おはよー、カイしゃん」
「おはようさん。お嬢」
カイルさんはここに来てから私のことをお嬢と呼ぶ。
初めはガッツリ敬語で、しかもメイ様なんて呼んできてた。その突然の変化にサブイボが立ってしまったのは仕方ないと思う。
カイルさん曰く、主人とその護衛なんだからって理由だったらしいけど、友達なんだからってやめてもらった。フェルトス様とガルラさんもそんな感じだし変ではないはず。
それで最終的にお嬢に落ち着いたというワケ。
結局名前をまともに呼んでくれたのは自己紹介しあったあの夜だけでした。ちょっと残念。
フェルトス様やガルラさんに対しては未だにガッチガチの敬語と緊張感だけど、それはまぁ仕方ないと割り切ってる。
敬語はともかく緊張はその内マシになるでしょう。なんてったって一緒に暮らしていくなら結構会うし嫌でも慣れると思うから。
なんなら鍛冶神様の時みたいに、セシリア様やトラロトル様なんかの神様だっていきなりくるもんね。そこはもう慣れてもらうしかない。うんうん。
一応そのことも伝えてはあるけど、その時のカイルさんの顔がものすごく引き攣ってたのはちょっと面白かった。頑張れ。大丈夫、いい神様達だから。
「じゃあいちゅも通り畑ちごとやろっか」
「おぅ」
「しょれじゃケロちゃんズ、行ってくゆね!」
「わん!」
私達はお揃いの格好――長袖にオーバーオールに長靴。そして麦わら帽子――で畑に繰り出す。
ケロちゃんズはベンチのところでお留守番。
カイルさんが初めてケロちゃんズを見たときはかなり怖がってたんだけど、大人しい子だってわかった今は普通に接している。
ケロちゃんズ的にはカイルさんは子分みたいな扱いらしい。
そもそも冥界組からしたらカイルさんは私の護衛ってだけで人間だし、そんなにこの冥界内でのランクは高くない認識のよう。
頂点がフェルトス様。次点で血の眷属であるガルラさんと私。その次が冥界のみんな。みたいなピラミッドがあって、カイルさんはその最下層のさらに下に滑り込んできた感じかな。
冥界の新人ですらないらしい。これらはモリアさんに聞いた。
「よち。しょれじゃあ今日はトマトを収穫すゆから手伝ってね」
フェルトス様への約束の献上品が実はまだなのです。いろいろ忙しかったから。
というわけでさっさと収穫して、カイルさん家のキッチンでトマトジュースの作成に入ろうと思います。
「なぁ、一個食っていいか?」
「いいけど今は一個だけだよ?」
「サンキュー」
カイルさんもここのトマトを気に入ってくれたみたいで、よく摘み食いしてる。
ちゃんと報告してくれるなら勝手に食べていいよって言ってあるから別にいいんだけどね。
トマト以外の野菜も美味しいって言ってくれてるし、作り甲斐がありますよ。ふふん。
こうして私達の日常にカイルさんが加わった。
まだまだみんなとはぎこちないけど、きっとこれからもっと仲良くなれると思うし、ゆっくり距離を縮められたらいいな。
だってカイルさんにはこれから先、まだまだたっぷり使える時間があるんだからね。




