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迷子編8 迷子の選択

「――お。終わったか?」

「むぇ?」

「誰だっ!」

「みぃ!」


 頭上からした声に顔をあげる。

 ただすぐさま私を庇うように抱き込んできたカイルさんのおかげで正体は見れませんでした。

 でも見なくてもわかる。知ってる声だ。どうやらもうお迎えが来たみたい。


 というかいつからいたんだろう。もしかして待たせてた?


「うんうん。結構いい反応速度だな。まぁギリギリ合格? 及第点ってやつ?」

「はぁ? 何言ってやがるテメェ」

「むぃー。カイしゃんカイしゃん」

「出てくんなメイ」


 ぺちぺちとカイルさんの体を叩き脱出を試みるけど、余計抱き込まれて失敗に終わりました。

 というか、もしかしなくてもカイルさん剣抜いてます?


「よっと」

「チッ!」


 多分ガルラさんが降りてきたのか、カイルさんの警戒度が上がったのがわかる。

 何故かっていうと、さらに腕に力が加えられたから。このまま抱えて逃げるのも辞さないみたいなそんな感じ。


「おいテメェら護衛だろ何や、って……あ?」


 そしてなんかカイルさんの呆けたような声が聞こえるけど、いま私はそれどころじゃありません。

 さっき脱出しようとしたときプラス、カイルさんが警戒したときに、余計ぎゅっとされて呼吸がままなりません、苦しいです!


「あー、呆けるのもいいけど、まずうちの子離してもらっていいか? 息できてねぇみたいだし」

「え? あっ」

「むー!」


 べしべしと精一杯の主張を繰り返して、やっと解放された。


「――ぶはっ!」

「悪い。大丈夫か?」

「うん。でもちぬかと思っちゃ……」


 大きく空気を吸い込み呼吸を整える。

 そしてカイルさんから一歩離れてガルラさんを見るついでに周りを見てみると、騎士のみんなが膝をついてた。これ見て呆けたんだな。ビックリするよねー。


「ガーラしゃんお迎え来てくれたの?」

「おぅ。楽しかったか?」

「あい!」


 とてとてとガルラさんに駆け寄りヒシっと足にくっつく。

 するとガルラさんはすぐに私の頭を撫でてくれた。えへへ。


 ちなみに今のガルラさんは町中に来てるからか、翼をしまった人間スタイルだ。


「ガーラ?」

「正確にはガルラな。んでオマエが噂のメイのお気に入りか」

「かいりゅしゃんでしゅ!」

「ふーん」


 うーん。反応薄いな。

 でもカイルさんのことじっくり眺めてるし興味はあるのかな。

 おっと、カイルさんにもガルラさんをちゃんと紹介しとかないと。


「カイしゃん。この人はわたしのにーちゃでしゅ。敵じゃないかやだいじょぶよ!」

「にーちゃって……兄、君?」

「そっ。妹が世話になったな」


 ガルラさんがヘラっと笑ってカイルさんに手を振ると、カイルさんはサッとその場に膝をついた。


「とんでもないことでございます。ご無礼をお許しください」


 カイルさんからさらりと出てくる敬語にすごく違和感を覚える。

 敬語話せるんだ。


「いーからいーから。気にすんな。知らないヤツを警戒するのは当然だしな。いい殺気だった」

「申し訳ございません」

「ククッ。――さーてと。メイ、帰るぞ。ステラとモリアを頼むな」

「あーい」


 何か面白いことがあったのか、小さく笑うガルラさんを見上げていたら頭を撫でられた。

 そしてガルラさんの手が離れていったところで、私は影から箒を取り出してステラ達を呼ぶ。


「え、ちょ!」

「カイしゃん?」


 そして二人を箒に乗せていたら背後でカイルさんの焦った声が聞こえてきた。

 何事だと思い振り返ってみれば何故かガルラさんがカイルさんを肩に担いでいるではありませんか。


 抵抗したくともできないのだろう、カイルさんは暴れるでもなく担がれてる。

 ただとっても戸惑っているのが私にもわかったので慌ててガルラさんに声をかけた。


「ガーラしゃん何ちてゆの!?」

「何って、持って帰るんだけど?」

「え!」

「え?」


 持って帰るってそんなモノみたいに。というかなんで?


 たしかに相談はしてたからガルラさんもカイルさんがうちに来るかもしれないって知ってるけど、まだお返事もらってないからその判断は早いと思います!


「えっちょね、まだお返事もやってないの。だかや降ろちてあげて?」

「んー。でもコイツもう返事決めてるっぽいし、待ってるだけ時間の無駄だって」

「へ?」

「それは――っ!」


 私はガルラさんの背中側に回り込んで、担がれてるカイルさんを見上げる。

 そしてバチリと視線が交差した瞬間、カイルさんは自分の顔の右側を手で隠した。

 隠す前に一瞬見えた綺麗な赤い瞳。左目が青いからカイルさんはオッドアイだったみたい。


 すごい、カッコいいし綺麗だ!


 そんなオッドアイの他にもう一つ。

 目に意識がいってたから意識半分だったけど、カイルさんの顔の右半分が黒く染まってた。

 日焼けとかそういうんじゃなくて、墨をぶちまけたみたいな、そこだけ異様な黒。それが火傷したみたいに爛れてた。


 この体になってからは夜目が効く。だからはっきり見えちゃった。本当に一瞬だったけどね。


 まぁ、今はそんなことどうでもいいのも事実。

 私は期待のこもった目でカイルさんを見上げた。


「しょうなのカイしゃん? 来てくれるの? もしほんとだったや嬉しいな!」

「――ッ!? それ、は……」


 歯切れの悪い回答と逸らされた視線にちょっとばかり不安になる。

 やっぱガルラさんの勘違いじゃないの?


「むぅ。ガーラしゃん、うしょちゅいた?」

「ついてねぇって。まだ護衛か眷属か(どっち)にするかは決めてはいないんだろうが、オマエについていくことは決めてるはずだ。――そうだろ」

「えー。ほんちょー?」


 ガルラさんにジト目を送りつつ、信じられないなぁという思いでもう一度カイルさんを見上げる。


「カイしゃん? どちたの、へーき?」


 カイルさんは両手で顔を覆っていた。

 私の問いにも無言で小さく頷くだけで返事はしてくれない。


 どうしたのだろうか……もしかしてお腹圧迫されて苦しいとか?!

 それか頭に血が上っちゃったとか!?


 大変だと思い私は慌ててガルラさんに降ろすように訴えると、ようやくガルラさんはカイルさんを解放した。

 降ろされたカイルさんはそのまま座り込んで動かない。

 とりあえず背中をさすってあげていたら、小さく顔を上げて私を見てきた。


「だいじょぶ? ごめんね、苦しかったでしょ?」


 お祭り中も買い食いとかしたし、花火中も用意してもらってた飲み物飲んだりしてたからね。

 そりゃお腹圧迫されたら苦しくなるよね。しかも人の背中に吐くわけにもいかないし。よく頑張ったよカイルさんは。


 私はさすっていた手を背中から頭に変える。

 うんうん。偉い偉い。


「……見たんだろ?」

「ふぇ? 何を?」


 そうやって頭を撫でていたらカイルさんからの突然の質問。主語がないのでわかりません。


「……俺の顔」

「へ? あ、うん。見ちゃけど? しょれがどちたの?」


 なんだ顔のことか。でもなんで急に顔?


「……気持ち悪くねぇのか?」

「しょんなことないけど? 色違いの目カッコいいよね!」

「そっちじゃねー、が……ふふっ。まぁ――いいか。あぁ、そうだよな。……お前は、そういうやつだよな」

「んむ? えへへー。お返しー」


 何故か急にカイルさんが笑って頭を撫でてくれたので、ついでに私もカイルさんの頭をなでなでしておきます。

 お互いがお互いの頭を撫であうという不思議空間だけど、カイルさんが元気になってくれたからヨシ!


「なぁ、もういいかー?」

「あ、ごめんちゃい」


 ガルラさんの声にはっとした私は改めてカイルさんに向き直る。


 よく考えたら騎士のみなさんとかステラ達をずっと待たせたままだ。

 いい加減撤収しないと迷惑だよね。


「ねぇ、カイしゃん。わたしといっちょに来ゆ?」

「――あぁ。頼む」


 差し出した私の手をカイルさんがぎゅっと握った。


 とりあえずカイルさんは私のお友達兼護衛ということで一緒に帰ることになりました。

 放置されたカイルさんのお酒を一旦私が回収して、そのあと騎士団長さんにお礼と謝罪をする。放置しててごめんなさい。


 そしてみんなにさよならとおやすみを伝えて、ガルラさんとともに冥界に帰りました。

 ちなみにカイルさんはガルラさんがまた担ごうとしてたのを阻止し、私の杖に乗ってもらった。

 高所恐怖症のカイルさんには辛いかもしれないけど、ちょっとの間我慢してね。


 そして神域に到着すると、カイルさんを降ろして私は家に帰る。

 本当は寝床とかお世話するつもりだったけど、ガルラさんが代わってくれた。

 フェルトス様が心配してるから早く帰ってやれと言われれば断れません。


 なのでカイルさんにはお詫びを入れつつ、ガルラさんに後をお願いして私は先に戻らせてもらった。


「たらいまれしゅ!」

「おかえり。祭りは楽しかったか?」

「あい!」


 帰って早々お出迎えしてくれたフェルトス様に抱きつく。そしたらすぐにフェルトス様が頭を撫でてくれて頬がゆるゆるになっちゃう。でへへ。


 ステラやモリアさんともお別れして、フェルトス様と二人ソファでくつろぎながら今日あったことを話す。

 もちろんカイルさんのこともね。


「そうか……やはり来たか。ならば用意してやらんとな」

「う? 用意? なんの?」

「気にするな」

「んー?」


 そうやってフェルトス様のお膝でおしゃべりしているうちに眠くなってきた私は、そのままフェルトス様にもたれかかって寝ちゃいました。


 ガルラさんが帰ってくるまで持たなかった……無念。

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