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迷子編7 四つの道

「楽ちかったね!」

「そうだな」


 花火は終わったけど、私達はまだ観覧席にいます。

 ちょっとやりたいことがあるので、大体のお客さんが帰るまでの間待機とさせてもらった。


 ちなみに領主様とジェイドさんはまだお仕事があるらしく、花火が終わったら私達に挨拶してすぐ帰っていきました。遅くまでお疲れ様です。


「しゃて、カイしゃん。今からちょっと真面目なお話しゅるよ」

「ここでか?」


 たしかにここでするのはアレかもだけど、ここには私達しかいないしいいだろう。

 護衛の騎士様達にはちょっと離れてもらってるし、それで勘弁してもらいたい。


「うん。でもしょの前に――」


 私は影からお金の入った封筒と、清酒と果実酒の瓶を包んだ風呂敷包みを取り出す。


「あい、これ。やくしょくのお金と、レア物のおしゃけだよ」

「……そういやそんな約束してたな。でも酒は――」

「まぁ、お近付きのちるちってことで。ほやほや、受け取って」

「あ、あぁ」


 このお酒はフェルトス様とガルラさんにムリ言って貰ってきた分。

 カイルさんが自殺を思いとどまってくれたからお近付きの印ってことにしたけど、そうじゃなかったら……まぁそういうこと。


「んじゃ、しゃいしょのやくしょくはこれでオッケーだよね」

「……あー。たしかにそうだが、もう――」

「まぁまぁ。とりあえじゅ受け取って。お話終わってから考えてもおしょくないよ」

「……」


 難しい顔をしてるカイルさんを宥めて私は一方的に話を進める。


「わたしの話を始める前に、いくちゅか質問いい?」

「ん? あぁ、かまわねぇよ」


 そういってカイルさんは受け取ったお酒をそばに置き、封筒をしまった。


「まじゅ一個め。カイしゃんがちにたかったのは、お金がなかったかや?」

「…………いや」

「たしゅけてくれる人がいなかったかや?」

「……それも違う、と思う」


 ということは初めて会ったときの理由は嘘とは言い切れないけど、本当でもなかったってことか。

 ならやっぱり本心はもっと別のとこにあるわけか。


「俺は……」


 私が考えをまとめているとカイルさんが何かを言おうとして、やめた。


「言いたくないなら聞かないから安心ちて。しょれじゃちゅぎね」

「……」

「二個め。カイしゃんはべちゅの町から来たんだよね?」


 カイルさんは黙って首を縦に振った。


「帰っちゃう?」

「……いや。それはない、な」

「しょっか。じゃあ他のとこ行っちゃう?」

「……わかんねぇ」


 ふむふむ。帰るつもりはないけど、この町に居続けるかは考え中か。

 それならもう質問を切り上げてアレを提案してみるのも悪くないよね。


「ねぇカイしゃん。今からわたしはカイしゃんによっちゅの道を提案しゅるよ」


 私は四本の指を立ててカイルさんに向ける。


「四つの、道?」

「うん。こえはただの提案だかや、選んでもいいし、選ばなくてもいい。カイしゃんの今後の参考程度に聞いてね」

「……わかった」


 しっかりと頷いたカイルさんを見て私は考えを口に出した。


「ひとちゅ。いま渡したお金を持って他の場所で生きゆこと」


 言い終わると同時に立てていた指を一つ減らす。


 指定の金額より多めに入れてるから、生活を立て直すまでのしばらくは大丈夫のはず。

 私との約束はいつか果たしてくれたらいい。忘れてそのままでも……最悪別にいい。

 カイルさんが元気に生きてくれるならそれが一番だしね。


「ふたちゅ。この町でやり直してみること。お仕事とかしゅむ場所とかわたしもいっちょに探してあげゆ」


 もう一つ指を減らす。


 仕事や住む場所は領主様とかのコネを使う気満々ですが、多分なんとかなります。

 それに近くに住んでるなら私も様子を伺いやすいから、何かあったときは助けになれるはず。


 そしてあと二つ。

 これから伝えることは私がカイルさんにというより、カイルさんの存在を知ったフェルトス様やガルラさんから私に提案されたことだ。


「みっちゅ。わたしのしぇんじょく護衛になゆこと。この場合、衣食住はわたしがなんとかしゅるから、しゃっきのお金は返ちてもらうよ。しょのかわり、ちゃんとお給金出しゅから安心ちてね」


 さらに一つ指を減らす。


 正直護衛なんて大そうなもの要らない気もするけど、フェルトス様達の心配もわかるので提案として組み込んでみた。


 それに普段の私は冥界か神域にいるし、護衛が必要なのは町に行くときくらいだ。

 冥界や神域は安全だし、護衛以外は私のお手伝いもしてもらえたら嬉しい。

 畑とか酒蔵とかのね。

 お酒なんかは手が増えればそれだけ作る量も売れる量も増やせるもん。


 ただし、カイルさんは生きてる人間だから冥界に入れることはできないんだよね。

 だからこの場合は神域内に住んでもらうことになる。

 そして住む家はガルラさんがなんとかしてくれるらしい。なんとも頼もしいお兄ちゃんだ。


 これらもカイルさんに伝えた。

 それを踏まえて選ぶ選ばないはカイルさんの自由意思にお任せします、と。


 ――そして最後の一個なんだけど……これはちょっと提案しづらいというか、なんというか。


「……それで。四つめはなんだ?」


 私が言い出さないのでカイルさんが続きを促してくれたけど、やっぱり言いづらい。


「よっちゅめは……」


 私は一度言葉を区切り、大きく息を吸って吐き出す。

 そしてむんっと気合を入れ、カイルさんの目をしっかり見ながら口を開いた。


「よっちゅめは、わたしの眷属か使い魔になりゅこと。この場合、カイしゃんには人間をやめてもらうことになりゅからよく考えて決めてほちい」


 そう。これが四つめの提案で、フェルトス様からの提案でもある。

 カイルさんのことを話していたら「そんなに気になるのならば眷属か使い魔にでもしてしまえ」とのお言葉をいただきました。


 いやはやそんな考え私には思いつきもしなかったからビックリしたよ。

 そして人の人生をそんな軽く言うとはさすが神様と感心もしました。

 さすがに私には勇気が足りないので躊躇ってしまうけど。


 ちなみに眷属にするには私の血を分ければいいらしくて、使い魔だったら血はなしで契約ってのをするみたい。やり方も一応教えてもらった。


 さらに眷属にも血を分けた眷属と、分けてない眷属の二種類があるらしい。

 私やガルラさんが前者。ステラやケロちゃんズが後者。モリアさんは使い魔だって。


 私には違いがまったくわかりましぇん……。


 さらにさらに、この眷属の分類は神様だけにしか使えないらしいから、私の場合は血を分ける一択になるらしい。


 とにかく、この提案を飲む場合カイルさんは完全に人間じゃなくなる。

 主人になる私がまだ子供だからそんなに強い変化はないけど、寿命は確実に伸びるし簡単には死ねなくなる。色んな意味でね。

 長い時間を生きることにもなるし、カイルさんには辛いかもしれない。


 私の場合は成り行き上仕方なかった点もあるけど、こうなったことは後悔してない。

 でもカイルさんは違うだろうし、ちゃんと考えて後悔のないように選んでほしい。


 住む場所は護衛時と違って、私の眷属になるならガルラさんみたいに冥界のどこかに家建てて住んでいいって言ってもらえてる。


 などなど、とにかく考えうる限りのことをデメリットも含めてちゃんと伝え切る。


「答えはしゅぐ出しゃなくていいよ。でも後半ふたちゅ、特に一番しゃいごの提案はよく考えて選んでね」

「…………わかった」


 もちろん最初に言った通り、どれも選ばなくてもいい。それはカイルさんの自由だ。

 でも選ぶなら、特に最後の提案を選ぶなら、覚悟はいると思う。

 実家が遠いなら、もしかしたら家族や大切な人とももう会えなくなっちゃう可能性だってあるわけだし。


「とにかく言いたいことはしょれぐやいかな?」

「なぁ。……俺からも一個、いいか」

「う? いいよ。なぁに」


 首を傾げながらカイルさんを見つめ返す。なんでしょう。


「なんでお前は俺にそこまでしてくれる? 見た目が好みとかか?」

「へ?」


 なんでそんなことになるんだろう。……もしかして気持ち悪いと思われてる?

 いやでもたしかに会ったばかりの人間に対して、そこまでする義理はないのかもだけど。

 しかもこんな子供がお金も時間も結構使ってるし、カイルさんからしたら理由もわからないしで謎すぎて怖いか。ごめんね。


「うーん。強いて言うなら……」

「言うなら?」

「おしぇっかい、でしゅかね!」

「お節介」

「うん!」


 そう、お節介です。余計なお世話とも言えるかな。


「カイしゃんたしかにカッコいいよ。でもカイしゃんがどんな姿でもわたしは関係なく声をかけてたと思う」

「どんな姿でも……」

「あの日あの時あの場所でわたし達は出会った。偶然だったとちても、しょれも縁だよ」

「……」

「しょれに、しょもしょもはじめにわたしを引き止めたのはカイしゃんだしね。あしょこで箒をちゅかまれてなかったや、わたしとカイしゃんの縁もしょこまでだったよ。(えにし)をちゅなげたのはカイしゃん自身!」


 私はカイルさんにビシッと指を突きつける。お行儀は悪いけど許して。


「俺自身」

「しょうしょう」


 それっぽいことを言いうんうんと大袈裟に頷いて問題を有耶無耶にしようと試みる私。

 チラッとカイルさんを横目で伺い見ると、何かを考えるように真剣な顔をしていた。


 気持ち悪がられてたの有耶無耶にできたかな?

 私は気付かれないように小さく息を吐く。やりきったぜ!

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