表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/187

迷子編4 花畑でピクニック

 私は箒に乗って昨日お兄さんへ予告した通りに昼前に町へと向かう。

 もちろんステラとモリアさんも一緒にだ。


 すると門のところに見覚えのある青と赤の頭が待っているのが見えた。ちゃんと待っててくれたことが嬉しくてお兄さんに向かってブンブンと手を振る。振り返してはくれなかったけど。

 代わりに門番さん達が手を振ってくれたからいいもんね。


 そして門前に着陸した私は、箒から降りてお兄さんに笑顔を向けた。

 ステラ達は座席に乗ったままこっちを見てる。


「こんちゃ、迷子しゃん! ちゃんといたね、えらいえらい」

「うるせぇぞクソガキ」

「またお前さんはそういう口をきく」

「ノランしゃんもこんちは! お仕事おちゅかれしゃまでしゅ!」

「ありがとうございます。約束通り迷子君を連れてきましたよ」

「ありがとうごじゃましゅでしゅ!」


 ノランさんにお礼を言い、私は早速お兄さんの手を引いた。


「しゃ、行くよお兄しゃん!」

「どこに?」

「ふふん! ないちょ! あ、夕方までには帰ってきまちゅね!」

「わかりました。ごゆっくりー」


 連れたって出かける前に、ノランさんへお兄さんの帰宅時間を伝えておく。

 今日も泊めてもらうんだからホウレンソウはしっかりとね。


 というわけで町へは入らず、お兄さんを杖に乗せて目的地まで運ぶ。もちろん低空飛行でね。

 お兄さん乗るの嫌がってたからやっぱり高所恐怖症っぽい。

 だから高くは飛ばないからって説得して乗ってもらったよ。町の外だから気兼ねなく乗れるし、こっちのが歩くより断然早いしね。


 それにしても可愛い杖に乗ってる成人男性の図式面白いな。

 杖は私サイズ――にしてはちょっと大きいけど――だから、成人男性が使うにしては小さいんだけどね。乗れるからいいかと思って。


 なんならこういう時の為に別の乗り物用意しとくのもいいな。絨毯とかイイよね、魔法の絨毯。第二の憧れだよ。うん、採用の方向で考えとこ。


 そんなこんなで到着した場所、それは町が見下ろせる丘にある花畑です。

 春だしいろんなお花が咲いてて綺麗なんだよ。町も近いから魔物もほとんど出ないしね。

 薬になる材料とかもあるらしくて町の人が採りにきたりもするくらい安全。絶対ではないけど。


「どう、きれーでしょー!」

「……ここが目的地か?」

「しょうだよ」

「ここで何すんだ? まさか花冠でも作ろうとか言うんじゃねぇだろうな」

「迷子しゃん花冠作れるの!? しゅごい! 作り方おちえてよ!」


 単純にここが綺麗だから連れてきただけだけど、私は花冠の作り方知らないし、作りたいから教えてほしい。

 それで、フェルトス様とガルラさんにお土産で持って帰るんだ!

 冥界にはお花が咲かないからお花のお土産もイイよね。フェルトス様きっと花冠似合うと思うんだよ。えへへ。


「…………はぁ。仕方ねぇな」

「やっちゃー!」


 なんかお兄さんが変な顔してたけど気のせいということにしておこう。

 そして私達は花畑の中の適当な場所に座って花冠を作り始める。


「いいか、やることは簡単だ。二本の茎を交差させてこうやって巻きつける。それを繰り返していくだけだ……こんな感じでな」

「おおぉぉ!」


 お兄さんの手の中でどんどんお花が連なって長くなっていきます。

 色とりどりのお花が重なってすっごく綺麗。見ていて楽しい。

 そして良い感じの長さになったら最初の花を輪っかみたいに繋げて、繋げる用の花を一本巻きつけてる。


 なるほど、そうやって作るのかふむふむ。


「最後は余った部分を適当に編み込んで――完成だ」

「きれー! しゅごいね迷子しゃん! 器用だね!」

「……別にこんなことできてもすごくもなんともねぇだろ」

「しょんなことないよ! だってわたしはできないし、しょれに、ホラ!」


 私はお兄さんが作った花冠を指差す。


「こんなに綺麗な冠が出来上がったんだよ、十分しゅごいって思うな!」

「……気に入ったんなら、やる」


 そういってお兄さんは私の頭に出来上がった花冠を乗せてくれた。


「ふぁ!? いいの? ありあとう!」

「…………べつに」

「じゃあお礼にわたしも作るね。待ってて迷子しゃん!」


 むんっと気合を入れて私も花冠の制作に取り掛かる。

 お兄さんをイメージして青と赤のお花で作りましょうかね。


「むむっ……意外とむじゅかしぃ……」

「…………」


 お兄さんは黙って私の作業を見つめている。

 そんなに見られると緊張してしまうじゃん……あ、解けちゃった。もう一回……。


「――できちゃ!」

「ぐっちゃぐちゃだな」

「でも初めてにちては上手いでしょ! あい、これ迷子しゃんにあげゆ! 頭下げて!」


 お兄さんみたいにきっちり編み込めなくて茎がところどころ出てるけど及第点でしょ!

 下げてくれた頭に花冠を乗せて、私は次の作成に取り掛かる。次はステラの分で、その次がモリアさんね!


 そうやってお兄さんと雑談しながら小さい花冠を二つ作った私は、意気揚々と隣でくつろぐ二人の頭に花冠を乗せた。


「きゃー。二人ともかわいいよぉー」

『そりゃドーモ』


 モリアさんのテンションが低い。ステラは私の手をぺろぺろ舐めてお礼を言ってくれてるからいい子だね。でもせめて起き上がってほしいな。いいけど。

 二人とも男の子――多分――だからお花には興味ないのかなぁ。


 ちなみにお兄さんは暇だったのか、私が小さいの二つ作ってる間にもう一つ花冠を作ってた。やっぱり完成度が高いな。

 なにかしばらく考えたあと、それを無言で私の頭に乗せてきた。くれるの?


「あ、しょろしょろお昼じゃにゃい?」

「そうだな」

「わたしお昼作ってきちゃんだ、向こうで食べよ!」


 そういって私はお兄さんの手を引いて大きな木の下に移動する。

 そこに影からだしたシートをひくと、早速とばかりにステラとモリアさんが陣取った。早いな。

 私も靴を脱いでシートにあがり、水の魔法で手を洗ってからいそいそとお昼の準備を始める。


 フェルトス様達の分は作り置きがあるから、今日のお昼はそれ食べてもらってます。


「迷子しゃん何してゆの? ほら、早くしゅわって」

「……あぁ」


 お兄さんを座らせた私は、もう一度水の魔法を発動。

 これでお兄さんに手を洗ってもらってからタオルを渡して、ご飯を食べる準備はできましたね。


「好きなだけ食べていいかやね」

「カツサンドか?」

「あい。チュンチュンのお肉のかちゅしゃんどだよ。きやいだった?」

「いや」

「しょれならよかった!」


 飲み物はオレンジジュースとトマトジュースと水を用意。

 お兄さんにどれがいいか聞くとトマトジュースと言われたのでグラスに注いで渡す。


「このトマトジュースは自家製だけどおいちいよ」


 私の言葉を聞いたあと、トマトジュースを一口くぴりと飲んだお兄さんの表情が変わる。


「――たしかに」

「えへへ。じゃあ食べよっか。はい、これはしゅてらので、こっちはモリアしゃんのね」

『ありがとな』


 みんな花冠を頭に乗せたままなことに気付いたけど、まぁいいか!

 お兄さんにもお皿を渡して、真ん中より少しお兄さん寄りにカツサンドを山盛りに盛ったお皿を置いておく。

 私は一個か二個有れば十分だからね。


「いたやきまーしゅ」

「……いただきます」


 いやー、いつ食べてもサクサクのカツが美味しいのなんの。カラシも丁度いいね。

 お兄さんにチラリと視線を向けると、無言だけど美味しそうに食べてるのが見えた。

 ご飯を美味しく食べられるならまだ大丈夫かな。よかった。


 ご飯の後はお昼寝の時間だけど、さすがに魔物が出る可能性のある外で無防備に寝るわけにもいかない。

 しかーし、抜かりのない私はしっかり対策があるのです!

 それはなにかといえばですね。


「えっちょ、範囲はこのくやいでいいかな」

「何してんだ?」

「結界張っちぇる」

「へぇ、結界……はぁ? 結界!?」


 そうです結界です。

 私もこの世界に来て約一年。ガルラさん無しで神域の外に出ることも増えてきて、その事を心配したフェルトス様が護身術的な感じでちょっと前に教えてくれた。

 ただしフェルトス様みたいに、大きなものはまだ無理だけど。


 せいぜい張れても十メートルくらいが限界です。テニスコートの横幅くらいを想像してもらえれば大丈夫だと思う。

 慣れればもうちょい大きいのもいけそうだけど、今は必要ないから小さい結界の強度を上げることを重点的に練習してます。


 ちなみに今回のこれは一回張ったら数時間は持つからお昼寝中でも安心だし、この辺の魔物の強さなら強度も十分で魔物の侵入も心配なし。

 その代わり中から外にも出れないけどね。でもその場合は結界解除すれば大丈夫。


「よち。これでいっかな」

「……マジで結界張ったのか?」

「え? 張っちゃよ?」


 まぁこんな子供が魔法をちゃんと使えるのかって心配はわかるけどね。

 ただ私は普通の子供じゃないからできちゃうのだ。ふふん。


 疑り深いお兄さんは座ってたシートから立ち上がり、結界が張られてるか確認しに行って見えない魔力の壁にぶつかってた。痛そう。

 見ようと思えば見れるんだけど、それは魔力をある程度持ってないと見えないらしい。


 戻ってきたお兄さんに、私は横になるように言う。

 でも嫌そうな顔をして拒否してきたから、ステラやモリアさんと一緒にムリヤリ寝かせてあげました。


 その時に落ちた花冠をお兄さんの頭のそばに置いて、私達のも一緒に固めて置いておく。


「しゃ、寝ましょうね」

「寝るっつったってガキじゃねぇんだから寝れねぇよ」

「ふっふっふ。心配ご無用。わたしには必殺技がありゅかやね」

「必殺技?」

「あい! ほら、目を閉じて寝る準備!」


 私はお兄さんの横にスタンバってお兄さんの体に手を置いた。

 そしてトントンとリズミカルに体を叩きつつ口を開く。


 そう。秘儀、子守唄だ。


 畑の野菜たちに歌うように、愛情と少しばかりの魔力を込めて歌う。

 ゆっくり静かに眠れるように。怖い夢を見ないように。心穏やかに眠れるように。


 そうやって歌っていると、いつしかお兄さんから寝息が聞こえてきた。

 そっと伺ってみるとちゃんと寝てるみたいで安心する。


 私はお兄さんにブランケットをかけてあげてから自分も寝る準備にとりかかる。

 さすがに全員寝るのはダメらしいので、モリアさんとステラは見張りで起きておいてくれるらしい。ありがとね。


 さて、心身の不調でまず疑うべきは睡眠不足だと私は思っている。

 なのでまずはしっかりとお兄さんに睡眠をとってもらうことが今回の目的なのです。

 あと美味しい食事ね。しっかり食べて、しっかり寝る。あと適度な運動。


 そしたら気分も多少は晴れて気分も上向きになるってもんさ。


 というわけで起きたら運動……いや、駄目だ。フェルトス様に花冠作りたいから花冠作ろう。

 運動は時間あったらで、なかったら明日に回そう。そうしよう。

 くそう、自分の欲望に負けてしまう自分が憎い……!


 うん、今後の予定も決めたし私も寝ます。


 おやすみなさい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ