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迷子編3 とある門番の独り言

 俺の名前はノラン。しがない門番をやっている。

 ただ今日の仕事は休みだがな。


 そんな本日。メイ殿達との冥界祭の打ち合わせも終わり、買い出しついでにぶらぶらと散歩を楽しんでいたときだった。

 遠くから俺の名前を呼びながら駆けてくる同僚の姿が見えた。

 その時は何か問題でも起こったのかと焦ったが、話を聞いてみるとどうも違うようだ。

 いや、ある意味問題ではあったが。


 何やら先程帰ったはずのメイ殿が迷子――と言い張っていた――を拾って戻ってきたらしい。しかも一ガルグも持ってない訳あり男とのこと。

 メイ殿が連れてきたとのことで一応町へは入れたが、俺にも警戒しておくようにとわざわざ伝えに来てくれたらしい。


 自惚れかもしれないが、門番仲間では自他ともに俺が一番メイ殿に近いと思っている。

 だからメイ殿関連で何かあれば、すぐ俺に話がくるのだ。良いことも悪いことも両方な。


 ちなみに騎士団ではシエラさん。

 町の住人では俺のばあちゃんでもあるラドスティ。

 領主様関連では御子息であるジェイド様。

 このあたりが特にメイ殿の信頼を勝ち得ているやつらかな。


 神殿の連中は……構いすぎて若干避けられているようにも見えるが、俺にはよくわからん。


 さらに詳しい話を聞いた俺は同僚と別れメイ殿を探した。


 冥界祭は次回で三回目。

 しかし初回二回目と開催し、神の酒が買えるとの噂が広がったのか、今回の祭りは前回以上に人が集まっている。

 実際この町へやってくる人間も増えてるから間違いはないだろう。


 そんな状況で宿を探すのは無謀だ。

 メイ殿は年齢のわりにしっかりしているが、それ以上に抜けているところもある。

 同僚が宿はないかもしれないと言ったときに初めて気付いたような素振りを見せたらしいし。


 まぁ、そこが親しみやすいし、かわいいんだがな。


 一度しかお会いしたことはないがフェルトス様や、時折一緒に来られるガルラ様なんかは当然といえば当然だが近寄り難い雰囲気を纏っている。


 だがメイ殿にはそれがない。

 まだ幼いからなのか、それともあの方特有のものかはわからないが――失礼ながら俺らみたいな庶民の雰囲気を感じるときがある。絶対口には出せないけどな。

 いつまでこんな関係が続けられるかはわからないが、願わくば長く続いてほしいものだ。


 そんなことを考えながら町を歩く。


 メイ殿を探すのは実はとても簡単だ。

 あの方はこの町では特別なので、ほぼ町の住人全てが見守っている状態だし、なんなら連絡を受けた騎士が数人護衛についている。メイ殿はまったく気付いてないようだがな。

 バレたらバレたで辞めさせようとしてくるのが予想できるので、気付いていない方がこちらとしては都合がいいのも事実なのだが。


 もしこの町でメイ殿に何かあれば、冥界神フェルトス様の怒りが落ちるのは必至。

 メイ殿が心配なのに変わりはないが、自分達の為でもあるので護衛をやめるわけにはいかない。

 きっと理由を説明すればあの方は納得してくれるとは思う。

 しかしそれだとあの方は気を遣って町へ来る頻度を減らしてしまうだろうことも想像に難くない。


 メイ殿が町に来ることによって利益があるのは事実だ。

 でもそれを抜きにしても俺達は純粋にメイ殿に会うのが楽しみだし、なにより会えなくなるのは寂しい。

 故に今の形がお互いにとって一番良い形だと思っている。


 そうして町の連中に話を聞きながらメイ殿を追うと、宿屋の前でうなだれているメイ殿を発見した。

 きっと全滅したんだろうなぁと予想がつき苦笑いがもれる。


 隣を見ると仏頂面をひっさげた男が一人立っていた。

 青い髪に赤色が混じったこの辺では見かけない珍しい髪色をした男。


 俺はその男に見覚えがあった。何日か前にこの町へやってきたやつだ。

 冒険者ではなかったが、一人でこの町へやってきたのだからそれなりに腕は立つのだろう。


 そんなヤツが何故メイ殿と一緒にいるのか。世話を焼かれているのか。

 詳しい話はわからないが、とにかく声をかけることにした俺はメイ殿の名前を呼ぶ。

 俺の声に気が付いたメイ殿がこちらを見ると、すぐにしょんぼりした顔に笑顔が広がった。


 こういうところがかわいいんだよな。


 俺はメイ殿と挨拶を交わし、さっそくとばかりに本題に入った。



 話が終わり、こちらに向かって手を振りながら去っていく小さな背中へ俺も手を振り返し見送る。

 あの方の姿が見えなくなってから、俺は隣で不機嫌さを隠しもしないで突っ立っている男に声をかけた。


「んじゃ、行くか。俺の家はこっちだ、ついてきな迷子君」

「……チッ」

「また舌打ちかぁ。俺には別にいいけど、メイ殿にはあんまやるなよ。失礼だからな」

「……やっぱあのガキ冥界神の娘かなんかか?」

「わかってるなら態度を改めなさいよ。お前さん一人が神罰を受けるならまだしも、とばっちりなんてごめんだぜ」

「…………」


 男は何も言わず何かを考えるように黙り込んだ。

 そんな相手に小さくため息を吐いた俺は、さっさと歩きだし家へと招くことにした。


 家に着いた俺は先に男を家に入れる。逃げられたらメイ殿に申し訳ないしな。逃げるそぶりはないが念のためだ。


「ま、適当にくつろいでくれて構わないから自由にしなよ。ただし家から出るときは俺と一緒な」


 そういうと男は嫌そうな顔を隠しもしないで、盛大に顔を歪めた。

 予想通りなその顔がなんだかおかしく俺は笑いをかみ殺す。


「何笑ってやがる」

「べつにぃ? そうだ、お前さん酒はいける口か?」

「……あぁ」


 おや、案外素直に答えたな。


「んじゃ、お近付きの印だ。特別にコレを飲ませてやるよ」

「……んだ、ソレ?」

「フッフッフ。聞いて驚け、メイ殿が造る神の酒『冥土の土産』のブランデーだ!」


 俺は見せつけるように男へとブランデーの瓶を掲げる。

 メイ殿の酒はどれも好きなんだが、俺はこのブランデーが一番好きだ。

 さらにメイ殿から教えてもらったが、これと牧場で買ってきたアイスの組み合わせは最高なのだ。


「ブランデーなんてどれも一緒だろ」

「チッチッチ。わかってないなぁ迷子君。メイ殿の酒はどれも格が違うんだよ。なんてったって神々が飲む酒なんだからな」

「神が……」

「ま、論より証拠。飲んでみな」


 俺はグラスに少しだけ、本当に少しだけ注いで男に手渡す。何故少しだけかというと、単純にもったいないからだ。

 ただでさえ少ししか手に入らない。だから俺だって少しずつ楽しんでいるのに、他人にたくさん分けてやる義理はない。


 では何故少しでも分けてやる気になったかといえば、三日後に新しく手に入るからだな。

 それにこの男のおかげで少しばかり多めに手に入りそうだし、少しくらいはお裾分けしてやってもいいだろう?


 もちろん冥土の土産シリーズはブランデー以外も揃ってる。

 優先権を持ってる俺達はメイ殿の好意から他のヤツらよりも多めに買えるようになってるからな。


 しかしいまだに清酒と果実酒は飲めていない。初めてメイ殿がお裾分けだと言って持ってきたあの時が最後だ。


 畜生……運が足りないのが恨めしい。次こそは!


 心の中で決意を新たにしながら俺は男に椅子をすすめる。ずっと立ったままで座ろうとしないからな。

 そうしてやっと落ち着いたところでブランデーを一口、口に含む。

 度数はキツイがじっくり楽しむのならば十分だ。


「うん。美味い。ほら、毒なんか入ってねぇからお前さんも飲めよ」

「……チッ」


 男は手の中のグラスをじっと見つめた後、香りを嗅いでからゆっくりとブランデーを口に運んだ。

 この男、所作が様になっているが、どっかのお貴族様だろうか。

 ま、俺には関係ないか。メイ殿やこの町に危害を加えない限り立ち入るつもりもないしな。


「――美味い」

「だろう」


 ニカリと笑って言ってやれば男は素直にこくりと頷いた。

 そして視線は『冥土の土産』シリーズが並べられた棚へと向かう。


「あそこにあるのは全部あのガキの酒なのか」

「ガキじゃなくてメイ様、な。そうだよ『冥土の土産』シリーズ。今度の祭りの目玉だ」

「へぇー」

「他にも飲みたかったら抽選に申し込むこったな。運が良けりゃ買えるし、その申し込みも明日の昼まで受け付けてるからまだ間に合うぞ」


 初回こそ先着順の整理券で対応したが、二回目からは当日の混乱を避けるため全て抽選式になった。

 購入希望者は祭り二日前の昼までに神殿で申し込みを行うことが絶対で、当選者は翌日の昼に発表される。

 そして当選した人間は祭り当日の昼までに整理券へと交換するのだ。

 もちろん少しでも遅れた場合は即キャンセル扱いになり、その分は領主様が買い取る手筈になっている。

 まぁ、すでに二回開催されたわけだが、どちらも即売り切れ。領主様の出番はなかった。

 こんなチャンスを棒に振るやつなんていないというわけだ。


 ちなみにこの抽選は清酒と果実酒とは別の抽選だ。

 同時に申し込みができるし、そのどちらも二日前の昼までの受付になっている。


 そのことを男に伝えてやり、俺は改めてどうするか聞く。

 今日中だったら俺も案内がてら付き添える。


「……いや、いい」


 だが男の返事はノー。


「そうかい」


 俺も深追いせずにあっさり引き下がる。

 そしてまた黙り込んだ男は、グラスの中身をくるくると回すように揺らし見つめていた。


 そんな男に対して、俺は思っていることを口にする。


「別にさ……」

「あ?」


 男の視線が俺に向くのを感じるが、俺はグラスを見たまま動かない。


「俺はお前さんの事情を詮索する気もないし、メイ殿がなんでお前さんに構うのかも聞く気はないから安心していいよ」

「……そうかよ」


 唐突な話題変換。

 だけどそんなことお構いなしに俺はさらに言葉を紡ぐ。


「うん。でも一言だけ。お前さんはもうちょっと周りを見てみてもいいんじゃないか」

「は?」

「下ばっか見てても楽しくないだろ?」

「…………余計な世話だ。テメェに俺の何がわかる」

「なにもー。だってお前さん何も言わないし、俺も聞かないからね。それじゃなにもわかんないよねー」

「だったら――」

「――だから、今から言うのは俺の独り言だから聞き流してくれて構わない」

「…………」


 そう、これはただの独り言。

 的外れなことを言ってようが独り言なので関係ないね。


「メイ殿と出会ったのはただの偶然だとしても、きっとお前さんにとっては大きなきっかけになるはずだ。幸いこの三日間は余計な事を考えずにただ存在(生きる)ことが許される。ならこの三日を大事に生きてみな。顔を上げて周りを見てみろ。世界ってのは狭いもんだが、意外と広いもんだぞ」

「…………矛盾してんじゃねぇか」

「あはは、そうだな。だが、間違ってないと思うぞ」

「そうかよ」

「そうだよ。だから一か所だけ見てないで視野を広げなきゃなぁ青年。大丈夫大丈夫。最初の一歩は怖いかもしれんが、踏み出しちまえば何とかなるもんだ」

「はっ! その一歩は奈落への穴だったがな」

「でも、途中で拾ってもらえたんだろ?」

「…………」


 そういうと青年は俺から視線を逸らす。

 俺は逆に青年に視線を向ける。


「お前さんは底まで落ちずにここにいる。だったらもう一回やってみろ。今のお前さんにはそれが許されてるんだ。そのあとでやっぱ奈落の底が良いと思うなら誰も止めやしないさ」

「……どうせ俺なんかが――」

「自分で自分を呪うなよ、青年。限界も決めるな。今は見えないだけで、きっと道は続いてる。その道をこの三日で探せばいい」

「見つからなかったら?」

「見つかるだろ」

「なんでそう言い切れる」

「勘」


 俺は最高の笑顔を青年に向けてやる。

 どうにも納得しがたい顔をしていたが俺には関係ない。


「安心しろ。世界ってのは意外と優しくもあるんだから」

「……」


 門番という職業は様々な人と関わり合う。

 そんな職業についていると自然と人間観察が上手くなるのか、相手がどういう人間かなんとなくわかる。ただの勘と言ってしまえばそれまでだが。


 だからなのか、俺には目の前の青年が死を求めているように見えた。

 言動が荒いのも、わざと相手を怒らせようとしているように見える。


 まったく回りくどい。

 本心で望んでもいないくせに。だからこそ回りくどいことをしているのかもしれんがな。


 黙りこくった青年を無視して俺はグラスの中身を飲み干す。

 元々そんなに量を入れてないのですぐに飲める。それは青年も同じ。


「さて、独り言はここらで終わりだ。晩飯なに食いたい?」

「……独り言にしては会話になってたがな」

「それを言うなって。ほらほら飯だよ飯。なに食う?」

「…………テメェが作るのか?」

「それでもいいけど、外で食った方が美味いもん食えると思うぞ」

「なら……肉が食いてぇ」

「よし、んじゃ行くか!」


 俺は青年を伴って美味いステーキ屋に繰り出した。

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